(ウォール・オブ・タケシタが完璧に決まりHARASHIMAはギブアップ)
前哨戦の段階で心を折る。DDTの新世代エース、KO-D無差別級王者の竹下幸之介はそう宣言していた。11月3日の両国国技館大会で、竹下はベテラン・HARASHIMAとタイトルマッチを行なう。KO-D無差別級とDDT EXTREME級のダブル王座戦で、まさに頂上決戦だ。
DDTを初期から支え“不動のエース”とも呼ばれるHARASHIMAは、一昨年3月に竹下に敗れ、それ以降KO-D無差別級のベルトを巻いていない。今回は復権の大チャンスだ。しかし竹下も、この2年余りでトップレスラーとしての自信をつけている。「竹下を止められるのか」が今回のテーマであり、前哨戦でHARASHIMAに差を見せると言ってのけた。タイトル戦に向けた闘いの中で竹下はHARASHIMAの腰を集中攻撃。ウォール・オブ・タケシタ(逆エビ固め)でタオル投入による勝利を収めてもいる。
両者は10月27日の後楽園ホールでも6人タッグマッチで対戦。竹下&大家健&中島翔子vsHARASHIMA&木高イサミ&坂崎ユカという、DDTの全ブランドから選手が集まった“オールスター戦”だ。3本勝負で行なわれたこの試合、1本目はプロレスリングBASARA代表・木高イサミがガンバレ☆プロレス代表の大家健から3カウント奪取。2本目は両国で東京女子プロレスのシングル王座防衛戦の中島が挑戦者・坂崎に勝利した。
そして3本目。竹下は2本目でもHARASHIMAにウォール・オブ・タケシタを決めており、最後もリング中央で固めてフィニッシュに。今回はセコンドがタオル投入をこらえたが、HARASHIMA自身がギブアップ。HARASHIMAが「敗北を認める意思表示」をするのはかなり稀なことだ。またタイトルマッチの前哨戦でここまではっきりと差がつくことも珍しい。
(試合後、敗れたHARASHIMAを鼓舞するイサミ)
「HARASHIMAさんは、負けを認めたことでもっと強くなるはず。両国には今日より強いHARASHIMAさんできてほしい」
リング上でそうメッセージを送った竹下は、インタビュースペースで「僕が強くなりすぎたのか」という言葉も。「ギブアップを認めちゃうようなHARASHIMAさんであってほしくなかった」という思いも吐露した。
そんな竹下に対し“強いHARASHIMA”を常に見てきた大家は「お前HARASHIMAさんナメんじゃねえぞ!」。またHARASHIMAと組んだイサミは「僕らの世代の憧れがHARASHIMAさんなんですから。僕も何度もやって勝てなかった。そんな人がくすぶるなんて我慢できない。まだあんな若造に負けないでくださいよ!」と訴えた。大舞台で結果を出し続け、“アイコン”男色ディーノ、“スター”飯伏幸太とともにDDTを人気団体にしたのが“エース”HARASHIMAだ。
このまま時代の終焉を迎え、竹下一強のDDTとなるのか。あるいは両国での巻き返しがあるのか。「自分の限界は分かっているので」とセコンドのタオル投入を禁じたHARASHIMAが限界を越えたしまったのか、両国大会のために力を残しているのかも気になる。この後楽園大会でも、竹下の力量は充分すぎるほどに伝わってきた。女子も含めすべての相手と噛み合った攻防を展開。その上で最後は自分の見せ場で試合を終わらせた。本人も言うように「誰が竹下を止められるのか」という状態だ。
一週間前の対戦では「自分たちの世代が意地を見せないと」と意気込んでいたHARASHIMA。ダブルタイトルマッチではあるが、現状では竹下有利としか言いようがない。逆に言えば、試合の行方を左右するのはHARASHIMAの“逆襲”だ。
文・橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング