避妊の選択肢として無料で受けられる国も…日本では馴染みの薄い「パイプカット」を知る
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 「何も聞かれずに、避妊具なしでセックスされそうになった。着けて、着けてって言って。言ったら“あー着けるんだ”みたいな」(20代・学生)
 「“コンドーム着けなくていい?”って言われて、断れなくて。やっぱり男は男だなって」(20代・学生)

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 男性が避妊具を着けないまま軽い気持ちで行為に及び、女性が望まない妊娠をしてしまうケースは決して少なくない。実は20歳未満の妊娠の約6割が中絶を選択しているというデータの背景には、そうした問題も横たわる。そんな中、避妊方法の一つとして、「パイプカット」を選ぶ男性もおり、わざわざ韓国へパイプカット手術を受けに行くツアーもあるという。

■無料の国も…海外では家族計画の一環

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 日本での実施率は1%にも満たないパイプカットだが、海外では家族計画の一環として受ける男性も多く、実施率の上位5カ国ではカナダ22%、イギリス21%、ニュージーランド19.5%、韓国16.8%、ブータン12.6%となっている。

 パイプカットに詳しい泌尿器科医の上野学・銀座MUクリニック院長は「日本では“家族計画”という言葉が日常であまり出てこない。そこが諸外国との明らかな違いだと思う。子どもを2人なり3人なり生んだら、育てるのも大変だろうし、それ以上はいいのではないか、ということだ。とくにキリスト教の国では性行為は子供を授かる行為であるということで、夫婦間でコンドームを使うことはなく、人工流産、堕胎手術は一切できないということが背景にはある。だから、たとえば英連邦の国では国民が享受できる医療福祉の問題だということになっているし、カナダ、イギリス、ニュージーランド、そしておそらくブータンも公費で受けられるようになっている」と説明する。

■「射精時の快感も排尿にも影響はない」

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 日本ではまだ馴染みの薄いパイプカットは、正式には「精管結紮手術」といい、精子が運ばれる「精管」を切断・切り離す術式で、局所麻酔で30~40分ほどで終了する。値段は10~20万円ほどだという。

 「日本でもだいぶ前から行われてはいたが、絹糸で精管を引っ張り出して縛るだけの手術が行われていたようだ。私が今やっている方法は15年くらい前からだが、陰嚢の真ん中に小さな穴を開け、そこから両サイドにアクセスするので、自分で見てもどこに穴を開けたか分からないくらいだ。そしてきっちりと両サイドを縛ったり、精管の切り取る部分を長くしたりしている。また、糸だと生体反応を起こしてしまうことがあり、異物をなるべく残したくないので、生体反応の少ないチタニウムのクリップで片一方を閉じ、もう一方は電気メスで焼き切ってしまう方法を取っている。また、痛みについても、局所麻酔剤のカクテルを上手に作ったり、薬を飲むタイミングを工夫したりすることで、ほとんど感じさせない。手術前に陰嚢に注射を打つが、これも痛くないように特殊なクリームを使って麻痺させておく。そういう方法が世界標準だ」(上野医師)。

 また、術後について上野医師は「みなさんの中では、作った精子が行き場がなくなってパニックになるようなイメージがあるかもしれないが、そういうことはない。精子そのものはタンパク質で、“賞味期限”が切れれば分解・吸収されて終わり。精子が入らないだけの話で精液は出るし(ただし、粘稠度が少し落ちて、さらっとした感じかもしれないが)、射精時の快感にも変わりはない。男性ホルモンや排尿には全く関係がない」と話した。

■「3人目が生まれたから」手術を選んだ男性に密着

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 「ピルだけ飲んだり、女性だけ自分自身を自衛すると考えれば男性もするべきマナー」。そう話すのは、鈴木さん(仮名、39)だ。手術を受ける決断した最大の理由は、先月、目標でもあった3人目の子どもが生まれたからだ。

 やってきたのは、泌尿器科の秀クリニック。平成28年度の実績では、20代2人、30代49人、40代50人、50代13人の手術を行ってきた。事前診察の必要はなく、予約時に日程を決め、手術の簡単な説明を受けるだけ。手術費は保険適用外で、秀クリニックの場合は12万円だ。

 手術は陰嚢に小さな穴を開け、精管を引き出し切断。両端を手術用の糸で結び、通り道を塞ぐ。そうすることで、射精時に精子が入らなくなるのだ。およそ30分の手術を終え戻ってきた鈴木さん。「早かった。手術前にキンタマに打った麻酔がちょっと鈍い痛み。リスクを減らすという意味では、家族計画の中では1つの選択肢として持っておいた方が良いだろうなとは思う。後悔はまったくない」と話し、病院を後にした。

■女性の「卵管結紮手術」にはリスクも

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 パイプカットをする理由には、鈴木さんのような場合のほか、「前の結婚で子どもがいて、新しい生活では望まない」「複数回の帝王切開による出産等で次の妊娠が危険」「妻が不妊症で自分も同じフェアな立場になりたい」といったものがあるという。

 前出の上野医師も「手術を受ける理由はバラバラだ。ご夫婦で一緒に来院されるパターンもあれば、ご自身だけで来て“子どもはいらないので”と希望するも、奥さんの同意書が取れなかったというパターンもある。別居中、離婚協議中など、状況も様々だ」と明かす。

 他方、男性の精管結紮手術に対し、女性では「卵管結紮手術」という方法もあるという。ただ、こちらは「入院必要、全身麻酔、危険性はあり、術後の苦痛は大きい」と、男性とは大きく異なり、上野医師は「母体を守る、自分自身を守るという意味で選択肢はあってもいいが、わざわざやるべきことではないと考える」と話す。

 「卵管というのは腹腔内にあるので、盲腸や大腸の手術と程度の差はあれ、同じような合併症が起こる危険がある。帝王切開をした際に、“これ以上の妊娠は危険だから”といった理由で一緒に行うということはあるが、このためだけに麻酔をかけ、リスクを負うのは論外だ。アメリカ合衆国では男性がやらずに女性にやらせている地域もゼロではないが、やはり危険性という意味では男性がやった方がいい」。

■「パイプカット後もコンドーム使用を」

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 その一方、上野氏は「“僕はパイプカットしているから大丈夫だよ”と言うのを信用してはいけない」とも話す。「もっとも、夫婦間であればそんなものはいらないが、証明方法を提示しなければダメだと思う。検査をして、精液の中に精子がいないという証明書をうちでも出している。そもそも婚外交渉をするのであれば、パイプカットをしていようがしていまいが、性感染症、性病の予防のためにコンドームを着けるべきだし、“パイプカットしているから、平気だから生で大丈夫かい?”というのはエチケット、マナー的になしだと思う」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:鈴木さんの通院の様子など

パイプカット手術を受ける男性に密着
パイプカット手術を受ける男性に密着

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