何やらポップなチューンが、試合前のロッカールームに響き渡る。
歌い手は、国内最高峰のフットサルリーグ「Fリーグ」を戦う計盛良太(かずもり・りょうた)。Fリーグ選抜の15番は、チームメートの存在をまるで無視して、大好きな西野カナを、試合前に熱唱している──。
平均年齢21歳、若手チームの盛り上げ隊長
スポーツと音楽は切っても切れない関係にある。ラグビー日本代表が大躍進を遂げる道中、地上波ではいつも、B'zの『兵、走る』が流れていた。大正製薬・リポビタンDのラグビー日本代表応援ソングとして書き下ろされた楽曲は、日本人の耳と胸に響き、ブレイブ・ブロッサムズの輝かしい栄光とリンクし続けた。
音楽は、観戦者にとってのものだけではない。「アスリートと音楽」もそうだ。試合に集中するため、パフォーマンスを引き上げるために音楽を聴く行為は、今も昔も変わらずに、トップアスリートにとって重要なものに違いないだろう。計盛もまた、そうやって自らを奮い立たせるために、西野カナを聴いている。
「必ず4曲を聴いてから試合前のアップに向かわないと気持ち悪くて。だから、(曲を聴く時間を確保するために)ミーティングは早くしてほしいんですよね(笑)。聴く曲も、順番も決まっています」
西野カナの代表曲の一つ『もしも運命の人がいるのなら』に始まり、最後は『パッ』で締める。そのルーティーンが、計盛のパワーの源。「アップテンポで楽しめる歌が多いし、声が好きで。顔ですか? ちょっとタイプです(笑)」。そう言って顔を赤くする計盛は、チームメートの誰もが認めるムードメーカーだ。
大阪出身で、誰彼構わず、ツッコミまくる。そのくせ恥ずかしがり屋で、実は「人前で歌うのは恥ずかしい」。試合前の“熱唱”は、気の置けない仲間にしか見せない姿であり、自分の世界に入り込んでいるからできるのだという。そういう人柄が周囲を引きつけ、チームメートをいつも勇気づけている。
ピッチでももちろん、存在感を発揮する。昨シーズンは、シュライカー大阪サテライトに所属しながら、特別指定選手としてトップ登録されて5得点をマーク。21歳ながらも、大胆不敵な仕掛けと勝負強さを見せて、出場機会を増やしていった。それでも彼は、さらなる成長を求めて、新天地にFリーグ選抜を選んだ。
「小学生からフットサルを続けてきて、中学を卒業する頃から、プロになることが夢でした。だからこそ、もっと成長して、もっと輝かないと次のステージにはいけないと思いました」
大きな決断の末にやってきた舞台は、ここまで23試合で5得点。昨シーズンの数字に並んだ。しかし計盛が目指すのは、そこではない。「Fリーグ選抜で圧倒的な輝きを放つこと」こそ、今の目標だ。
『パッ』の歌詞にこんなフレーズがある。
「パッとハジけたいの スカッとしたい気分 もったいないわ 楽しまなきゃ 人生一度きり」
そして、こう締めくくる。「これからの自分に乾杯」。
西野カナが大好きすぎるFリーガー・計盛良太はきっと、今シーズンの残り10試合で今以上にパッとハジけて、自身も、見る者も、スカッとさせてくれるはず――。
文・本田好伸(SAL編集部)