子どもの頃に来日、差別や貧困などからギャングになってしまう外国人の若者が後を絶たないという。背景にあるのは、“不就学”の問題だ。実は日本人であれば当然の義務教育が、外国人には適用されず、また、希望して通ったとしても、言葉の壁など、様々な困難が待ち受けているのだ。
文部科学省が今年始めて実施した調査では、義務教育相当年齢の外国籍児は12万4049人おり、そのうち不就学の可能性があるのはなんと1万9654人と、全体の15.8%を占めることが判明した。在留外国人が増加の一途を辿る中で、苦悩する当事者たち。AbemaTV『AbemaPrime』では、ノンフィクション作家の石井光太氏とともに当事者を取材した。
■12歳の子どもが3年間のホームレス生活を強いられる
「お父さんはもう日本にいた。ずっと面倒見てくれたのはおばあちゃん。おばあちゃんと(ブラジルで)一緒に住んでいた。お母さん知らない、会ったことない」。
日本に住んで20年になる日系ブラジル人の池長ミツヨシさん(30)の日本語は、どこかたどたどしい。1歳の頃に日本へ出稼ぎに行った父を追って、10歳で来日した。しかし父は再婚しており、新たな家庭を築いていた。「義理のお母さんとは仲悪い。あまり喋れないし、ずっと自分の部屋に入ってた」。日本語が話せないため学校の授業についていけず、家にも居場所はなかった。
そして父親と喧嘩をしたことを機に家出する。「ダンボール敷いて、タオル敷いて、そのまま寝た。(食べるために)万引きとか、薬売ったりとか。さみしくて、でもしょうがない、頑張らなあかん」。12歳の子どもが一人で3年にわたるホームレス生活を強いられた。
彼が住む岐阜県可児市は県内でも有数の工業団地があり、人口10万人のうち、約8000人が日系ブラジル人などの外国人だ。今でこそブラジルの食材が揃うスーパーもある。しかし池長さんの子ども時代は決してそうではなかった。「外国人が少なかったので差別があって。俺らはその差別と戦って戦って喧嘩したり、恐喝したり。毎日そういう生活しとったですね」(池長さんの親友・塩野ホドリゴさん)
■「“ヤクザ”って言われた瞬間に殴った」学校に通わなくなり、やがて過激な犯罪行為に
日系ブラジル人のプレイソンさん(21)は、日本に住む祖母を頼って、家族と共に来日した。13歳だった。やはり日本語への不安から学校もサボりがちになり、次第に犯罪行為に手を染めていく。「自分だけが悪いみたいな感じで。(先生にも)もういちゃいかん、みたいな感じ。だから近くで原付パクって遠くに行って。車上荒らしが一番多かったですね。中2の頃はそういうのがメインだった」。
似た境遇の仲間たちとギャングを結成すると、非行はさらにエスカレート。「違法な風俗で“金出せ”って暴れて。向こうは違法なんで警察を呼べない」。石井氏の「後ろにヤクザがいるかもしれないじゃないか」との問いには「それがまた楽しい。来ても、そいつら殴ればいいんで。その頃が一番燃えてたかもしれない。“ヤクザ”って言われた瞬間に殴った」。
“今は無名のまま見る団地の景色、いつか金持ちJ RAPの歴史、何万の客で立つ広いステージ、有名の雑誌で一番前のページ、でもそんな簡単にうまくいかねえ、毎日思う仕事めんどくせえ、でもちゃんとやらなきゃ生活も出来ねえ、残りの時間で追いかける夢、やりたいことやるため、やりたくないこともやるしかねえ、嫌だけどこの世の中は金、とりあえずしょうがないから頑張れ”。
プレイソンさんはラッパーとして、未来への希望をリリックに託す。「今は苦しいかもしれないけど、いつかは夢叶えるから今は辛抱して頑張ろうぜっていう。自分はそういう歌詞が多い。励ますような人のためになるような事が歌えたらいいなって思っている」。
■「自分たちだけ荷物検査された」辛い境遇をリリックに
「薬物に溺れ消えてった先輩。そいつらの分まで やってやるから絶対」(『E.N.T』)。プレイソンさん同様、不就学、差別など、自分たちの境遇をラップに込めて歌っているのが、「GREEN KIDS」のメンバーたちだ。
日系ペルー人のアチャさん(23)は幼少期、兄弟や甥っ子も含め、計10人が2LDKの家に暮らしていた。生活は苦しく、甥っ子の面倒を見なければならず、学校に行けないこともあった。その学校でも、一部の教師から差別的な扱いを受けた。ただ、周囲で学校に行かなくなった子、行けなくなった外国人の子どもは決して珍しくはなかったという。「親が日本語わからなかったり。自分も同じで、問題読んでやってみても結局わからないので、進まなくなる。団地の中に日本語を教えてくれる家があったので、わからない人はそこに通っていた。自分も親が仕事から帰ってくるまでそこで面倒みてもらったりしていた。進学したのも自分の周りでは一人だけだった」。
そして行きついた先は、仲間と一緒に万引き、窃盗というお決まりのパターン。それだけではない。「上のやつらがハーブとかパウダー(脱法ドラッグ)とかやってて。て。“俺はやらんよ”ってずっと言ってたけど、ある日“1回だけやるわ”ってなっちゃって。ストローで吸ったら、もうそこから入っちゃって、1年半、2年くらいがっつりハマった。パウダー代は何かしら盗んで、お金を作っていた」。
日系ブラジル人のスワッグさん(21)は「真面目に学校行っても、上を目指すというよりは工場とか、仕事に就いてしまう」。フライトさん(21)も「お金関係で学校を辞めちゃう人も多かった。それで高校や大学に行けなかった人もたくさん見てきた。いじめもありましたね。学校では問題を起こさなかったのに、自分たちだけ荷物検査された。例えばそこでヘアワックスが見つかると学校に入れない。なんで自分たちだけなのか」と振り返った。
■「今から思うと本当に失礼なことをしていたと思う」支援に乗り出す自治体も
そんな子どもたちに手を差し伸べる人たちもいる。
不就学児などに教育支援を行うYSCグローバル・スクール(福生市)の田中宝紀氏は「義務教育の対象外であるということで、自治体も積極的に動けない状況がある。だから学校に来ても何もしてあげられず、教室の中で放置になってしまい、かわいそうなので“日本語ができるようになってから来てください”と、事実上の就学拒否のような対応を取ってしまう」と話す。
つまり外国人は教育を受ける義務がないということは、学校にも教える義務がなく、日本語を教えるカリキュラムを作るなどの判断も、予算も含めて自治体任せになっているのだ。「日本語のわからない子が1人か2人しかいないという自治体が半数以上を占めている中で、来るかどうかわからない子どものために準備するのはやはり難しい」(田中氏)。そこでYSCグローバル・スクールでは、始めて日本語を学ぶ子ども向けクラスから、高校進学を目指すクラスまで、段階に応じた授業を用意しており、オンラインでの受講も可能にしている。
一方、池長ミツヨシさんが住む可児市では、2005年、傘のさし方から、全員で行う掃除、給食当番など海外にはない日本の学校文化や集団行動を学んでいく“ばら教室KANI”を立ち上げた。日本語についても、能力別にクラス分けをして基礎から習得させていく。「日本の学校のルールではこうだよ、というものがゼロの子どもたちだが、最初に教えてあげればすぐに身についていく」(若原俊和室長)
この教室での3カ月間のカリキュラムを経て入学する小学校でも、国語と算数の授業は別のクラスで専門のスタッフとともに学べるようになっている。通訳も常駐し、保護者の悩み相談にも乗るようにしている。こうした取り組みの結果、可児市では不就学児童数ゼロを達成した。可児市教委の小川隆行氏は「恥ずかしながら、プリントを渡して“まずひらがなを覚えなさい”という、修行のような授業もやって来た。今から思うと本当に失礼なことをしていたと思う。しかし今は本当の意味で力を付けあげられているという実感がある」と話した。
■石井氏「日本語が喋れるようになればいいというわけではない」
今回の取材に協力してくれた彼らは、一度は道を踏み外したものの、目指すものを見つけられたことで懸命に汗を流している。しかし、必ずしも全員がそのように生きられるわけではない。また、「女性の貧困」の問題が、やはりここでも顔を覗かせる。
石井氏は「女性の場合、妊娠してしまい、生活保護をもらうケースもあるが、そこから水商売にいくケースもある。また、ドラッグを売っている男性に付いていってしまうケースもある」と話す。
2ちゃんねる創設者の西村氏は「海外にいる日本人について、そのようなケースはあまり聞かないと思う。日本は豊かな国なので、日本人学校もあるし、まずければ日本に帰ることもできるからだ。僕はフランスに住んでいるが、シリア難民に似ていると思った。言葉は通じないが、国にいられずにやって来る。アメリカでも同じような問題がある。移民が教育を受けられず、言葉をしゃべれないという問題は、おそらく世界中で起きているが、なかなか解決方法がなく、諦めモードになっている」と話す。
乙武洋匡氏は「このような子どもが一定数いると分かっているのに、いまだに日本語しか喋れない人が対象の学校教育を変えようもないし、変える必要もないと考えているのがダサいと思うし、情けない。確かに憲法では義務教育を受けるのは日本国民となっている。しかし日本も批准している“児童の権利に関する条約”は、国民かそうではないかに関わらず、全ての子どもが教育を受けられるようにしなければならないとしている。取材に協力してくれた若者たちについても、学び直しの機会があれば仕事の幅が広がるはずだ」と指摘。「ただ、実際に学校の先生が通常の業務だけでもパンパンの中、そうした対応が難しいことも現実としてある。しかし、だからこそ教育委員会は現場に押し付けるのではなく、場を作ったり、先生を巡回させたりするなどの策を講じるべきだ」とした。
取材を終え、石井氏は「80年代くらいから外国人が増えていく中、国は“義務教育ではないから必要ない”として自治体に任せ、問題を放っておいた。だから関係者の間では“失われた30年間”とも呼ばれている。可児市についても、先進的な取り組みだと言われているが、工場があり、たくさんの外国人がいて、学校現場が回らなくなってきたので、やむなく始めたというのが実情だ。逆に言えば、それだけ多くの子どもたちがいたからこそできた。分母のいない自治体の場合、通信教育やインターネットを使った支援の取り組みなど、多様化することも必要だと思う。これから国としても充実を図っていくと思うが、日本語さえ覚えさせれば何とかなるというわけではない。もっと広い角度から見ていくことが必要だ。現場では、靴の脱ぎ方、箸の持ち方、トイレの使い方などがわからなかったことをきっかけに自己肯定感が低くなってしまう子もいる。さらに問題なのは、家庭の問題、親の問題だ。例えばアチャさんの場合、両親が突然帰国してしまって取り残され、電気もガスも止まってしまったが、団地のおじさんが月に1万円くれたことで何とか生き延びた。危険ドラッグに頼ったのも、その寂しさを埋めるためだったと思う。こういうことへの対応も、国は考えなければならない」と警鐘を鳴らした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:外国籍児に不就学の可能性? 社会に排除され&ギャング化するケースも
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