(青木に爆破バットを叩きつけんとする大仁田。少し前まで誰もが想像しなかった光景だ)
マット界のカリスマの一人、“邪道”大仁田厚が新たな大会をスタートさせた。その名も『爆破甲子園』。大仁田のお家芸である電流爆破デスマッチを受け継ぐ次世代のレスラーを育てようというコンセプトだ。DDTが協力するこの大会の運営を管理するのは高野連ならぬ「爆破連」。電流爆破を目指す選手たちは球児ならぬ「爆児」と呼ばれる。この大会の冠スポンサーになったのが、電力会社の「エネワンでんき」。インディープロレスの祖・大仁田に「エネルギー業界のインディーとして」共鳴したという。電流爆破デスマッチの電源バックアップも買って出たから凄い話であり理にかなってもいる。
11月17日、インディーの“聖地”ともいえる鶴見青果市場特設リング。そのメインイベントである6人タッグに、トーナメント1回戦を勝ち抜いた“爆児”が加わるという形だったが、リングインした大仁田はさっそく「負けたヤツにもチャンスをやってくれ!」とアピールし、1回戦敗者も試合に加わることに。メインのマッチメイクは以下に変更された。
大仁田厚&新井健一郎&朱崇花&今成夢人vs高木三四郎&青木真也&FUMA&納谷幸男、朱崇花、今成夢人、FUMA、納谷が“爆児”枠の選手たち。
少年時代に大仁田を見て育った今成はトーナメント1回戦の入場で大仁田を完コピした。それはパロディではなく、オマージュも超えた何かだ。憧れの存在である大仁田に、自分の青春時代をぶつけるパフォーマンスと言えばいいのか。その燃焼感は、まさに“甲子園”なのだった。そうしたメンバーの熱、新鮮さもあって、電流爆破という試合形式自体も輝きを増したように思えた。
(青木が大仁田に裸絞めを極める場面も)
ちなみに今回の爆破は、リングアナの説明によると「通常の3倍の火薬量」。なおかつ爆破バットを4本使用しており、3×4で「12倍の威力」となった。
リング内外で大混戦となった試合は、4発目の超特大爆破を納谷に食らわせて大仁田が勝利。大鵬の孫にして貴闘力の息子である納谷に爆破の洗礼を浴びせた大仁田は「プレッシャーは大変だろうが自分で這い上がるしかないんじゃ!」と叱咤激励。再戦を望む納谷に「徹底的に叩き潰す」と邪道流の英才教育を施す構えだ。
逆に言えば、負けた納谷も“爆破後継者”候補となったわけだ。その一方、爆児たちとは別のところで話題を呼んでいたのが青木真也の参戦だ。日本を代表するMMAファイターであり、先月ONE Championship日本大会で勝利したばかり。そんな青木が(DDTにも参戦中とはいえ)電流爆破である。異色にもほどがあるマッチメイクだ。
(いつも以上に派手な爆破は一瞬、視界が真っ白になるほど)
柔術衣で登場した青木は8人が入り乱れての闘いに積極的に加わり、大仁田にリアネイキッドチョークを極める場面も。そこから爆破バットでの一撃にも成功した。まさか青木が爆破バットをふるう日が来るとは。
しかし、邪道もただでは引き下がらない。青木の顔面にミスト(毒霧)を噴射し、前ONEライト級王者に爆破バットをフルスイング。凄まじい爆音、火花とともに吹き飛ばされた青木は、一時失神KO状態となった。そしてこの光景を、会場で総合格闘家の宇野薫、佐藤将光も見守っていた。
爆破初体験の感想を「これは麻薬だね……。みんなラクするからな」と青木。プロレスに対する貪欲さもここまできたかという一戦だった。大仁田に青木、高木、納谷もいるリングの写真を見たレスラー・鈴木秀樹は一言「絵力が強い」。
ネット中継もあって『爆破甲子園』は大反響。高木によると海外からの参戦希望アピールも届いているという。来年は大仁田厚vsターザン後藤の「ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ」から30年。それを記念して全国を周る『爆破甲子園JAPAN TOUR』も決定した。
おそらく、この『爆破甲子園』で新たな“大仁田一座”が形成されていくのだろう。その中で「麻薬」を味わってしまった青木はどんな動きを見せるのか。その意味でも今後に期待を抱かせる大会だった。
文・橋本宗洋