新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
【映像】ABEMAでみる
この記事の写真をみる(7枚)

 自宅で派遣型エステの女性に暴行したとして「強制性交等罪」に問われていた元俳優の新井浩文こと韓国籍の朴慶培(パクキョンベ)被告。2日、東京地裁は検察側の求刑通り、5年の実刑判決を言い渡した。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 2017年の刑法改正で「強姦罪」が名称変更・厳罰化された「強制性交罪」の成立には、被害者側が(1)「性交等」があること、(2)「暴行または脅迫」行為によること、(3)「故意」があることの3つのポイントの立証が必要になっており、それができなければ裁判で性行為に「合意があった」と見なされてしまう問題が指摘されてきた。性犯罪の裁判を多く手掛ける弁護士の川本瑞紀氏は「起訴まで至ったことが画期的だ。有罪か無罪かも紙一重だった。(女性の頭を股間にもっていくことが)“性行為に付随する行為”か“暴力・脅迫”かの判断が分かれてもおかしくなかった」と解説する。

 この問題は今回の公判でも争点となり、新井被告側は「女性から抵抗がなかった」などとして「合意があったと思う」と無罪を主張していた。一方、判決で裁判所は深夜の被告の自宅室内は暗く、体格差もあり「物理的・心理的に抵抗することが困難」と推認できると判断。被害者が直後に店の経営者に対して相談し、3時間後には警察に相談に行っていること、後日詳細なメモで親告していること、そして和解を拒否していること、さらに新井被告が過去に性的サービスに応じたセラピストには金銭を支払わなかったにもかかわらず、今回は現金7万円をバッグに無理やり押し込んだことから、被告が「意思に反するとの認識を備えていた」と判断した。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 今回の判決に判決について、元検察官で性犯罪に詳しい高橋麻理弁護士は「実刑で5年という判決は、重くもなく軽くもなく、ごく一般的だという印象だ。従来から行われている裁判所の認定だと思う」と話し、次のように説明する。

 「暴行と聞くと、身体に傷が残るようなものを思い浮かべるかと思うが、被害者の抵抗が著しく困難だったと言えるかどうかが裁判所の認定基準の一つになる。今回もそれに基づいて、時間帯、場所、年齢、関係性といった具体的な事実に照らして評価していったものだと考える」。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 その上で高橋弁護士は「そもそも強制性交等罪で起訴するためには非常に慎重な捜査が必要で、ハードルが高い。こうした性犯罪は密室で行われることも多いため、目撃者が存在しないケースがほとんどだ。被疑者・被告人が容疑を認めていれば問題はないが、否認している場合には、被害者とどちらの供述が信用できるのかを判断しなければならなくなる。その意味で、同じ事実であっても検察官によっても評価が分かれるかもしれない。今回のケースでも、検察官や裁判官は被害者がどう行動したのか、あるいはお店の同意書があったといった客観的事実から、どちらの話がより事実に整合するのかというところを見ていくしかなかったと思う。ただ、何が合理的かという判断は人によって異なってくるので、それぞれの評価についてモヤモヤした部分が残るのはある意味やむを得ないのではないか」と指摘する。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 実際、実の娘に対する「準強制性交等罪」に問われていた父親の裁判では、名古屋地裁岡崎支部が「抵抗できない状態にあったと認定するには疑いが残る」として無罪判決、女性に乱暴したとして「強制性交致傷罪」に問われたメキシコ国籍の男性について静岡地裁浜松支部が「故意はなかった」と判断、これも無罪判決を言い渡している。さらに泥酔状態の被害者と性交したケースでは、福岡地裁久留米支部が「反抗できない状態にあった」ことは認める一方、「同意があったと被告が誤認した」として無罪判決を言い渡している。こうした判決が相次いでいることについては疑問も声も少なくない。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 冤罪や被害者が虚偽の供述をしているケースがあるのではないかとの可能性も踏まえつつ、慶應義塾大学の夏野剛特別招聘教授は「社会には本当に倫理観が欠如している人物もいる中で、他のケースの認定基準や推定無罪の原則に当てはめて裁判をしていくのはわかるが、例えば推定無罪の実子に対する行為について、本当に無罪にしてもよかったのかといった疑問は残る。そこはある意味で取りこぼし、有罪かもしれないものを無罪にしているケースもあるのではないかという印象がある」と指摘。リディラバ代表の安部敏樹氏は「今回の事件は社会的な注目度も高いので、非常に慎重に審理されたと思う。ただ、事例が積み上がって審理がルーティン的になっていった時に、解釈が分かれるにもかかわらず先例通りに判断してしまうことへの恐怖感がある」。

新井浩文被告に懲役5年の実刑判決…性犯罪厳罰化も“密室の壁"が事実認定のハードルに
拡大する

 また、カンニング竹山は「最初に実刑で5年と聞いた時には少し重いようにも感じたが、その後、資料を読ませてもらって、認定された事実が本当だとすれば重いとは思わなくなった。性犯罪は絶対に赦すべきことではないし、実刑はやむを得ない。何より、最後に7万円を渡している。渡しておいて“合意があった”と言えるだろうか。それは“黙っといてね”という7万円だったのではないか」とコメントした。

 新井被告は即日控訴した。今後の裁判の見通しについて、高橋弁護士は「一般論として、高裁で一審の判決を覆すことはハードルが高いと言われている。ただ、密室での出来事をどう評価するかというところは分かれるところではあるので、今後も注意深く見守っていく必要がある。それでも今回のケースは一方が有名人だったということもあり、判決の内容も詳細に報道された。それによって、殴られたわけではなくても“自分は被害を受けた”として親告される方も出てくるかもしれない。そういう意味での意義は大きい」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:“紙一重の判決“ 新井被告の判決から考える性犯罪の有罪・無罪の境界線と立証の壁

“紙一重の判決“ 新井被告の判決から考える性犯罪の有罪・無罪の境界線と立証の壁
“紙一重の判決“ 新井被告の判決から考える性犯罪の有罪・無罪の境界線と立証の壁

■Pick Up
・なぜ日本のメディアがアジアで評価されたのか?「ABEMA NEWSチャンネル」の挑戦
・ネットニュース界で注目される「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側

この記事の写真をみる(7枚)