先月30日に新宿FACEで行われた新世代ファイターを発掘、育成する『格闘代理戦争 K-1 FINAK WAR』1回戦で、シリーズ団体戦初の「3人抜き」が達成された。
前回に続き3vs3の団体戦、なおかつ勝った選手がそのまま次の相手と闘う「抜き試合」形式で行なわれているトーナメント。11月30日の1回戦で、魔裟斗監督率いる魔裟斗軍と佐藤嘉洋&城戸康裕&梶原龍児の3監督によるSKR連合が対戦。SKR連合の先鋒、古宮晴が魔裟斗軍の選手3人に連続で勝利し、たった1人で団体戦勝利を決めてしまった。
まさに前人未到の快挙だ。しかもそれを成し遂げたのが16歳の少年だったのだからインパクトは大きい。試合直後の古宮にインタビューすると「3人抜き」のキツさを率直に語ってくれた。
「今までに感じたことがないくらい(のキツさ)で。3試合目の最後のほうは腕が動かなかったです」
それでも「こんなところで負けてられん。俺が初の3人抜きをやってやる」と気合いを入れ直したのは「みんなが応援してくれるのが見えたので」と古宮。観戦に来た父親の顔を見て「お前ならやれる」というメッセージを感じた、とも語った。
声援が聞こえたのではなく、応援する姿を「見て」鼓舞されたというのは、古宮が聴力障がいを持っているからだ。ラウンド中にセコンドのアドバイスを聞いて軌道修正することもできない。にもかかわらず、古宮の闘いぶりは一級品だった。見逃せないのは、3試合すべてが判定勝利だったこと。ダウンを奪った試合もあるが「KOで勢いに乗った」とか「秒殺の連続でノーダメージだった」ということではないのだ。もちろんラッキーパンチでもない。2ラウンドを3試合、計6ラウンドしっかり実力を示しての「3人抜き」だったのである。きわどい攻防の中でもしっかりローを効かせる戦局眼も見事だった。そしてこれは、古宮自身が意識して闘った結果でもあるようだ。
「僕はムキになって試合すると頭が真っ白になってしまう。アマチュアを100戦くらいやって、そういう経験をしてるので。冷静に冷静にと意識して闘ってました」
SKR連合は試合になるまでメンバーを極秘とした。試合に向けて練習しながら、しかし表舞台には出られない。そういうフラストレーションもあったようだ。しかし古宮はこう言う。
「(SKR連合は)謎のチームってなってて。でも魔裟斗軍の選手はみんな“俺が一番”みたいに言うじゃないですか。俺も言いたいって思ってました(笑)。そのフラストレーションをためて爆発させるんじゃなく、ゆっくり自分の存在を知らしめてやろうと」
ゆっくり実力を見せていく。焦らないほうが強い。16歳でこの境地である。古宮が格闘技を始めたきっかけは「気持ちが弱くて、いじられたりいじめられたり。それを見かねた親が近所のキックボクシングジムに連れて行ってくれました」。今では「今は何を言われても気にしないし心が大きくなりましたね。自分で言うのもなんですけど」と笑う。
K-1には、同じ難聴ながらKRUSH王者になった郷州征宜がいる。
「郷州選手は階級も同じで、俺も頑張ろうという気持ちになりました。僕も難聴ですけど、そういう人たちに希望を与えるような、努力すればここまでできるんだっていうのを伝える選手になりたいです」
目標はもちろんトーナメント優勝だが、その先「プロとして輝いて、ベルトを巻きたい」という夢もある。“謎の存在”から一気に今シーズン最大の注目株へ。『格闘代理戦争』らしいステップアップは、おそらくプロの世界まで続いていくことだろう。
文・橋本宗洋