女子格闘技の歴史の中でも、最も感動的な戴冠劇の一つだったのではないか。
12月8日に開催されたパンクラス新木場スタジオコースト大会。そのメインイベントは、藤野恵実vsチャン・ヒョンジの女子ストロー級暫定王座決定戦だった。藤野はキャリア16年になろうとする39歳。国内外さまざまな団体で試合を重ねてきたが、なぜかこれまでベルトを巻くことができていなかった。
今回のタイトルマッチは悲願達成に向けた最大の、そして最後になるかもしれないチャンスだった。試合に向けて制作された告知用VTRでは、藤野と練習をともにする各ジャンルの女子王者たちが「#フジノこっちおいでよ」と“ベルトを巻く人間の世界”へいざなうメッセージを送り、このハッシュタグが試合そのもののキーワードにもなった。試合当日も、藤野と親交のある女子選手たちが彼女の入場を出迎え、拍手でケージに送り出した。選手たちとの幅広い交友関係は「飲み」で作ったという藤野だが、人一倍練習熱心なことを誰もが知っている。
この日の試合自体、練習してきたことが如実に出る内容だった。まずは1ラウンド、グイグイと圧力をかけて左のパンチを角度を変えつつ放っていく。ラウンド終盤には連打も出た。相手のパンチの的確さを支持するジャッジもいたが、上々の滑り出しだった。“前に出る”ことが藤野の生命線と言っていい。
ヒョンジも押し返そうとするのだが、藤野を押し切れない。2ラウンドには組みついて藤野がギロチンチョーク。がぶった状態からヒザを叩き込む場面もあった。そして3ラウンド、またもスタンドでがぶり、相手の動きを封じるとバックを奪ってリアネイキッドチョークへ。粘りのあるディフェンスを見せたヒョンジだったがついにタップ。渾身の、そして執念の絞めで藤野が一本勝ちを収めた。人生で何よりも執着したというチャンピオンベルトが、とうとう自分のものになった。
圧力をかけ、殴り、押し込んで倒して極める。最初から最後まで気持ちの強さと体力を要する闘いぶりだった。それこそが“藤野の試合”なのだ。その意味で、彼女の格闘技人生が凝縮された一戦だったとも言える。
「何度もあきらめかけて、でも沈むたびにみんなが持ち上げてくれました。自分だけでは(ベルトは)獲れなかった」
勝利者インタビューでそう語り、涙した藤野。最後は応援に駆けつけた女子選手たちとケージ内で記念撮影を行なった。ファイター仲間が多いのは、それだけ強さを求める姿勢が認められているという証拠だ。格闘技に捧げた人生が、16年かけて結実した。努力が報われる瞬間ほど美しいものはない。