YouTubeにアップされた、「弟が収容所に連れて行かれた。全てのウイグル族に肉親や知り合いが連行されたら助けるために証言をしよう」と呼びかける女性の映像。
訴えているのは、2005年7月に来日したウイグル人のグリスタン・エズズさん(35)だ。2017年の夏頃から、当時20歳だった弟のウェイボーが更新されなくなり、姉が「勉強に連れて行かれた」と明かしたことで気がついたのだという。
「取り締まりの対象になってしまう危険性があるので、海外にいる私は家族と頻繁に連絡を取ることができない。だから家族が写真や行った場所について投稿しているのを見て、“無事なんだな”と確認していた。しかし、弟の投稿が更新されていないことに気づき、姉に尋ねたところ、“半年前に勉強に連れて行かれた”と。ウイグル人は掲示板やウイグル語でのやり取りが全て盗聴されているので、昔だったら何気なく使っていた言葉も段々使われなくなり、神経を使って話をする。だから弟についても、はっきりと“半年前に収容所に連れて行かれた”とは言わず、“半年前に勉強に連れて行かれた”と」。
去年9月、YouTubeを通して実情を訴え、親戚などが連行されたウイグル人たちに証言を呼びかけたところ、当局が実家を訪れ、病気の母親と姉に事情聴取を行った。「妹は海外にいるのか。国家分裂罪の案件だから事情聴取に来い」と話す当局に対し、姉は「13年間帰ってきていないので、どこにいるか分からない」と答えたという。
「どうしたら助けられるのか分からなかったが、その間、中国当局が大量のウイグル人を内陸部刑務所に移送したことがわかった。そのほとんどが若い男性だったので、私の弟もその中に入っているのではないかと思った。その頃、スイスにいるウイグル人の方が、“自分たちの家族のために証言を行おう”とキャンペーンを始めた。私が訴えでることで、安易に弟に手出しできなくなるかもしれないと思い、最初の動画を作った。しかし、動画を流してすぐに公安当局から電話がかかってきて、母も事情聴取された。私が去年12月にNHKの取材に協力すると、しばらくは姉に対する圧力も止まった」。
しかし今年4月に入ると、家族と一切連絡が取れなくなってしまった。
「姉から“私はどっちみちいなくなる人間なので覚悟の上で連絡している。お父さんと最後に話して”と連絡があった。父は涙ながらに“いつ戻ってくるの?”と。私は返す言葉が見つからなかった。その後、手術を受けて治るだろうと思っていたが、連絡が来ない。そこで私から4月17日に連絡を入れた。そうしたら、4月7日に亡くなっていたことがわかった。音声のメッセージで、“連絡できなくてごめんね”と。姉は私の罪の責任を取らされるのを覚悟の上で連絡をしてくれた。実際、姉とはそれから全く連絡が取れていない。残された母のことも全くわからない。私がメッセージを発信することで、家族が無事でいられたらという希望を持ってやらせてもらっている」。
中国全土の6分の1の面積を占め、独自の文化や言語を持つ新疆ウイグル自治区の人口は約2200万人(2010年現在)で、イスラム教を信仰するウイグル族が1000万人、漢族が880万人となっている。レアメタルや石油などの地下資源も豊富で、1500年前からシルクロードの要衝として栄え、現在も習主席が進める巨大経済圏「一帯一路」では極めて重要な地点だ。
清の時代(1755年~)に地名が新疆となり、1944年に東トルキスタン共和国の独立を宣言した。しかし1949年に人民解放軍が進出して中国が占領。1955年に「新疆ウイグル自治区」となった。また、全人代で「宗教の中国化」が掲げられ、「テロ防止」などを名目に中国によるウイグル族への弾圧や監視が強まっている。
戦略科学者の中川コージ氏は「文化的にも宗教的にも全く違っていて、まさに“民族が違う”というイメージがピッタリだ。地政学的にも重要場所で、欧州への一帯一路の要となるような所なので、北京中央からすると独立的な動きは絶対に看過できない。それで漢族による「(いわゆる)同化政策」の最前線と言われている」と説明する。
インターネット上に匿名で公開された、「強制収容されるウイグル族の人たち」とされる映像。人々が目隠しをされ、連行される姿は世界に衝撃を与えた。また、衛星から撮影された施設の写真について、国連などが「100万人以上を不当に拘束する強制収容所だ」として中国政府を非難している。
先月にはICIJU(国際調査報道ジャーナリスト連合)が入手した「職業教育訓練センター」の実態を示す文書が報じられており、それによると、「国語、法律、技術の勉強は、中国語を使用。日常生活も中国語で交流するように」「思想の矛盾を解消。悔いを改めさせ、過去の罪の重さを認知させる」「学生の思想問題や情緒を随時確認」「規定の活動以外、外部と接触させない」といった記述があるという。
収容所から開放されたオムル・ベカリさん(44歳)のケースでは、2017年4月、家に現れた警察官によって黒い布を被せられ連行。7カ月にわたって手足を鎖で繋がれ、その間、目の前で2人が死亡。会話での中国語使用や国家と共産党に忠誠を誓うスローガンを叫ぶことを強制され、それができなければ食事が与えられなかったという。
こうした状況に対し、アメリカ議会は当局者に制裁を科すよう中国政府に求める「ウイグル人権法」の成立を目指している。ポンペオ国務長官は11月、中国政府に対し「恣意的に監禁した人たちを直ちに釈放し、新疆の市民を恐怖に陥れる施策の放棄を」と要求。しかし中国政府は施設の内部を公開。あくまでもイスラム思想やテロに関わった人たちに対する“職業訓練センター”だと強調、「誤った言動には代償が必要になる」と猛反発。新疆ウイグル自治区のショハラト・ザキル主席も「我々が新疆ウイグル自治区で行っているテロ・過激派対策は米国を含む多くの国で行われている対策と何ら変わらない」と怒りをあらわにしている。
また、中国政府はアメリカ下院の法案可決後、テロの実行犯とされる人物が登場し、英語の字幕付きで反省する言葉を述べる場面などを含む「反テロ最前線」というドキュメンタリーを相次いで海外に配信している。
中川氏は「このまま北京中央が抑えなければ本当に独立の機運が高まる状況だと思う。このタイミングで香港とともにウイグルの人権問題が出てきたのは、貿易摩擦、中国製5G機器禁止令に続く、米中対立の“第3弾”だと思う。しかし、中国はアメリカに対して“内政干渉だ、アメリカも今まで同化政策のようなことをやってきたではないか。中東でも人権弾圧をやっているではないか”と反論するだろう。だからこそ、ここは日本が出てイニシアチブを取ることができる。人権問題が米中対立の中で矮小化されてしまうかもしれないところを、日本は対中交渉カードとして使えるかもしれない」と話す。
最後にエズズさんは「内政干渉という言葉で片付けて欲しくはない。私たちはウイグル人というアイデンティティを持っている。少数民族だと言われるが、中国の人口と比べれば、世界中のあらゆる民族が少数民族になってしまう。この悲劇を止めるためにも私たちは独立して、自分たちの国を再建しないといけないという認識になっている。ぜひ、みなさんにはウイグル人と言って頂きたい」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:ウイグル人が語る 中国収容所の実態
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側