36人の尊い命が奪われ、30人以上が怪我をした京都アニメーション放火殺人事件。一方、自らも全身に重い火傷を負い、長期間にわたって危険な状況が続いた青葉真司容疑者(41)は懸命な治療により、事情聴取を受けられるまでに回復、医療スタッフたちについて「人からこんなに優しくしてもらったことは今までなかった」と感謝の言葉を口にしたとも報じられている。
また、青葉容疑者の治療にかかった費用は1000万円以上に上るとの見方もあるが、支払能力がない場合、それは税金から支出されることになる。こうした状況に、ネット上には「その優しさを今知ったところでその手で奪った多くの命はもう二度と戻ってこない」「そもそも治療にかかったお金払えるの?払えなければ私たちの税金から賄うんだろ。ふざけんな」といった厳しい意見もみられる。
■「治す必要はないのではないかと思った」医療者たちの葛藤
「例えば大量殺人犯がいたとして、その犯人が病気や怪我になったときになぜ全力で治療をせねばならないのか」。犯罪加害者の治療について抱える葛藤について医療従事者の立場から綴った「京アニ放火事件の容疑者を治療するということ 葛藤と苦悩」という記事をYahoo!ニュース個人に投稿、医療従事者としてはタブーであるはずのテーマについて、率直な意見を述べるのが中山祐次郎医師だ。
「医療者はプロなので、その人がどんなバックグラウンドを持っているか、極端なことを言えば、金持ちかそうでないか、人種はどうか、見た目がいいか悪いか、あるいは犯罪を犯しているか犯していないかなどには一切関係なく治療する。(優先度として)そこにあるのは、単に医療的な重症度だけだ。それ以外の要素は一切ない」。そう話す中山医師だが、自身が暴行事件で手を怪我したとう犯罪加害者の治療に当たった時には激しく悩んだという。
「傷が大きく、手が痛いと言った。そんなものは自業自得だし、正直、治す必要はないのではないかと思った。“なんでやらなきゃいけないんだ。しょうがないか”と何度も揺れ動きながら手当をしたが、後味の悪い感じは残った。私も含めて、特に重大な犯罪の“容疑者”と呼ばれる人たちの治療を経験した医者たちには、そのような葛藤が少なからずあると思う。火傷の治療は非常に大変だ。全く動かないような人を6、7人がかりでお風呂に入れ、全身に軟膏を塗り、24時間つきっきりで治るかどうか。すごく苦しい状況で治療をしているだろうと思ったし、場合によってはこの事件で知り合いが死んだ、という人もいるかもしれない。吐きながら治療したと思う」。
「青葉容疑者の治療に当たる医療関係者へのエールとして書いた」という前出の記事に対しては、「医療者の方々から“分かる”“言ってくれてありがとう”みたいなことを言っていただいた」と明かした。
■被害者支援に取り組む弁護士「加害者支援を同列にするのは納得できない」
国選弁護士費用や矯正収容費など、加害者に充てられた支出額は昨年、406億円に上る。その一方、被害者関連の支出額は11億3000万にとどまっている。
「留置所や刑務所にいる加害者は税金で衣食住が保証され、最高の治療が受けられる。一方、被害者の治療には犯罪被害者等給付金の重傷病給付金というものがあるが、3年間で上限が120万円だ。これを超えれば原則的に自己負担となる。これはどう考えてもおかしいと思う」と話すのが、『なぜ被害者より加害者を助けるのか』の著書でもある後藤啓二弁護士だ。
さらに後藤弁護士は「加害者には被害者に賠償する義務があるが、凶悪犯罪を起こした加害者ほどしていない。だから大黒柱を失った遺族の場合、国から給付金を受けて生きていくしかない。まずは被害者に真摯に謝罪して、できるだけの賠償はするというところから、反省が始まるのではないか。そういう実態を抜きにしたまま、被害者支援と加害者支援を同列にするのは納得できない」と指摘した。
■「償うためにこそ加害者とその家族の支援を」
一方、“日本は被害者よりも加害者が守られている”。そんな見方に疑問を呈するのが、加害者家族支援団体の阿部恭子理事長だ。阿部氏のもとには、加害者を家族に持つ人々からの相談が、年間300件も寄せられている。
「犯罪を犯した人と長期的に接しているが、葛藤だらけだ。大きな罪を犯した人であるほど、簡単に反省することはない。その一方で、自分も被害者だ、かわいそうな人間だと思っている。だからこそ向き合って、本当にそうなのか、被害者の家族がどんな思いをしているかと話し続ける。そうすることで苦しみ、葛藤が始まり、変わっていく人もいる。それこそが償いだと思うし、理解するまで生きてほしいと思って支援に関わっている」。
その上で阿部氏は「今まで殺人事件だけで200件を調査しているが、実態を見れば見るほど、普通の人でも何かのきっかけによって加害者になってしまうかもしれないと感じる。そうであれば、加害者も市民だ、という視点で救済されなければいけないのではないか。そして、自分の生活がままならなければ、賠償どころではない。だからこそ、家族が賠償金を負担しているケースも多い。きちんと罪を償うということを考えれば、まず仕事を持つことが前提になってくる。しかし家族まで犯人の一味として追い詰めてしまえば、被害者の方に賠償がいかなくなってしまう。こういう悪循環が今の日本にある」と訴えた。
阿部氏の話を受け、中山医師は「社会の構造の中で生まれてきた犯罪者も一定数いると思う。その人だけに問題にし、罰を与えるのは何の解決にもならないのではないか」、後藤弁護士は「私は犯罪被害者支援と合わせて、児童虐待防止の活動をやっている。犯罪を犯した人には子ども時代に虐待を受けていたケースが多い。ただ、虐待を受けたから、かわいそうだから罪がないことにしようとするのは無理だ。罪は罪だし、加害者は償わないとダメだ。被害者も救済されないといけない。そこの問題は分けて整理しないと」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:加害者をどこまで守るべき?京アニ事件から考える
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