解説を務めた武尊がスタンディングし「命を削った試合だった」と振り返るほどの激しい殴り合い、劇的な復活劇だった。
20歳前後でチャンピオンになる選手も多く、新世代の台頭が著しいK-1 KRUSH FIGHTでは、それだけベテランが生き残るのも厳しい。過去の実績に安住などできず、常に最前線で結果を出すことが求められる。
12月15日の後楽園ホール大会には、2人の元チャンピオンが出場した。1人は元ウェルター級王者の牧平圭太だ。加藤虎於奈と対戦した牧平は左ストレートで先制のダウンを奪ったが、逆転KO負け。元王者を“食った”加藤はタイトル挑戦をアピールしている。まさに明暗がはっきりと出る試合だった。
対照的に、元スーパー・フェザー級王者の島野浩太朗はSATORU成合を相手に逆転勝利を収めている。キャリア30戦以上、何よりもKRUSHのベルトにこだわり続けた島野は昨年6月に戴冠したものの、今年3月、まだ10代の西京佑馬に敗れてベルトを手放した。
この敗戦のショックがかなり大きかったという島野だが、あらためて「この階級のトップに立ちたい」とリングに戻ってきた。対戦相手の成合は3連属KO勝利中の新勢力。その勢いに飲まれてしまうか、自身が復活を果たすかの重要な一戦だった。
落ち着いて試合を進めているように見えた島野だが、2ラウンドに成合のパンチを直撃され、ダウン。やはり成合のパンチは強力だった。しかし、ここからが島野の真骨頂だ。それまで以上に圧力をかけ、パンチを放って成合をたじろがせる。そしてロープに詰めると強烈な右。猛烈な逆襲で試合をイーブンに戻すと、3ラウンドにも攻撃の手を緩めず、パンチを連打。成合がコーナーで動きを止めると、レフェリーがダウンを宣告した。
これが決定的なポイントになり、島野は判定勝ち。連勝中の新鋭をストップし、かつインパクトのある逆転勝利だ。島野は堂々、タイトル戦線に返り咲きしたと言っていいだろう。ダウンを奪われてからの闘いについて「開き直って勝負にいきました」と島野。前に出て常に攻める、その姿勢が逆転を呼びこんだ。そしてそれは、まさに“KRUSHらしさ”に満ちたものだった。KRUSHで勝つ最善の道は、KRUSHらしい闘いを体現することなのだ。
今後の展望については、まだ具体的には考えられないと島野。なぜなら「いろいろ考えていたんですが、この試合にすべてをかける気持ちになっていたので」。一戦必勝。誰と闘いたいとかベルトがほしいとかではなく、今この瞬間に集中していたからこその勝利でもあったのだ。その闘いを続けていけば、いずれ自然に大きなチャンスが巡ってくるだろう。
文・橋本宗洋