先週、国立感染症研究所が今年の12月1日までの梅毒患者報告数が、2年連続で6000人超えになることを明らかにした。6000人を超えるのは1970年以来となるが、一時は比較的落ち着いていた患者数が2015年から急上昇を見せ始めている。
独協医科大学埼玉医療センターで泌尿器科医を務める小堀善友医師は「そもそも梅毒はHIVと一緒でゲイの人に多い病気だった。それがここ5年、とくに若い女性にすごく多いというのが特徴になっている」と傾向を話した。今年前半の報告では女性患者1,117人のうち、1割近くにあたる106人が妊婦であったこともわかっている。
日本では1510年以降に広がったとされており、杉田玄白が書いた医学書には「患者1,000人のうち700~800人が梅毒患者」といった記述もあったほど、かつて日本では大流行していた。1927年には梅毒患者をマラリアに感染させる荒療治をオーストリア人のワーグナー・ヤウレック医師が行い、このトンデモ治療法が後にノーベル生理医学賞を受賞している。
最悪の場合、死に至る危険性もあるこの性感染症について、街の若者に聞いてみると「梅毒?」と病名すら聞いたことの無い様子の10代女性から、「ピュアだから知らない」と笑ってごまかす20代女性など、反応は様々だったが、梅毒自体を知らない人がおよそ4割で、聞いたことがある場合でも「詳しいことは知らない」という点だけ概ね一致していた。
■コワい「潜伏梅毒」皮膚や骨が崩れることも
「ハッキリ言うと、ここまで増加している理由がよくわからないというのが現状だ」
そう話した小堀氏は「風疹というのも流行っているが、これはワクチンを接種していない人たちの世代での広がりといえる。しかし梅毒に関しては、それがない。性感染症には流行の波があるが、今はその波が来ている。梅毒のトレンドとして海外では男性の感染が多いが、日本では女性の感染も多い。性産業に従事する女性が感染して、そこから男性、その後に一般女性に感染する流れができていると言われている」と話す。
また梅毒の主な症状について小堀氏は「症状が分かりづらい」と指摘すると、男性器だったり、女性器だったり、口など最初に梅毒に感染した場所に初期こう血といわれる塊が1カ月くらいできる。それらがいったん消えた後、1カ月~3カ月後に身体や手のひら、足の裏に発疹があらわれる。それもまた消える。つまり、かかっているか分からない「潜伏梅毒」を経て、数年後に重い症状が出る場合は神経や重要な臓器、皮膚や骨が崩れるなどに至る。ただ現在では抗生物質が良くなっており、風邪を引いた際に処方された抗生物質で知らずのうちに完治するケースもある。しかし、そういった抗生物質の使い方は『耐性菌』を作ってしまうので、決していいものではない」など、知られざる梅毒の怖さや問題点を指摘した。
■衝撃の事実「医師も梅毒を知らない」ケースが
梅毒の実態が若者にあまり知られていないことは前述したが、小堀氏は「医者の間でも梅毒は知られていない」と驚きの告白を行った。
「私も泌尿器科で性感染症というものを診るのだが、この仕事を20年くらいやっていて、梅毒を実際に初めて診たのが、5年前のことだった。発疹が出ている梅毒患者を診たことが無かったが、5年前から何人か診るようになってきたら、ここ数年のアウトブレイクが始まった。今まさに流行り始めだ」
医師でも知らない場合があるという梅毒を知る手段について問われた小堀氏は、「血液検査でわかるが、皮膚科などで発疹の塗り薬を処方された結果、消えてなくなることも考えられる。潜伏期間や症状が非常に多様なこともあり、医者であっても『梅毒だ』と疑ってかからないとわからない」と述べた。
また気になる「赤ちゃんへの影響」についてだが、実際のところ、出産前の血液検査で偶然見つかるケースもあるという。早期に発見して治療を受ければ問題はないが、治療を受けずに出産に至ると、最悪の場合は赤ちゃんも梅毒に感染してしまい発達障害や骨、神経などへのダメージとなる場合も。
感染経路は接触感染であるため、梅毒がある場合はキスなどでも感染に至ってしまう。治療法については「海外は注射1発だが、日本ではアレルギーショックで死亡事故例が出て以来、厚生労働省の指導により『処方された薬を4週間内服する』となって今までずっと来ている。しかし、内服するかしないかは個人によるので、海外に合わせて1発注射にすべきだ」と主張した。そのうえで、自宅で感染症の有無を診断できるキットの活用を呼び掛けた。(AbemaTV『Abema的ニュースショー』より)
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