元TBS記者の山口敬之氏から性的暴行を受けたとしてジャーナリストの伊藤詩織さんが慰謝料など1100万円を求めていた裁判で、東京地裁は18日、「酩酊状態にあって意識のない原告に対し、合意のないまま本件行為に及んだ。原告が意識を回復して性行為を拒絶した後も、体を押さえつけて性行為を継続しようとした」と認定、山口氏に330万円の支払いを命じた。また、伊藤氏側の発信で名誉を毀損されたとして慰謝料や謝罪広告を求めた山口氏側の反訴を棄却した。
伊藤さんは2017年、当時ワシントン支局長だった山口氏と会食し飲酒、意識不明の状態で性的暴行を受けた(2015年4月)と、顔と名前を明かした上で公表。この問題についての著書も出版、BBCやニューヨーク・タイムズなど海外メディアでも報じられ注目された。また、同時期に広まった「MeToo運動」の象徴とも言われた。
伊藤さんは判決後の会見で「初めてこの場で、2017年の5月の末に会見をしたときは、本当にその後どうなるのか自分の私生活を含め分からないまま、性暴力被害者が取り巻かれている社会的、法的状況を改善したいという思いで会見をした」「今回の民事訴訟というのはもちろんすばらしい結果になったと思う。刑事事件では分からなかったことであったり、今まで公にできなかったことを皆さんに見ていただけたのかなと思っている」としながらも、「勝訴したからといって、このことがなかったことになるわけではない」「これまで受けてきた傷が癒えるというわけではない。だからこれが終わりでもない」とかたった。
一方、裁判に集中するために一切の発信をしてこなかった山口氏側も会見を開き「全く納得できないのですぐ控訴する。まず最も強調したいのは、私は法に触れる行為を一切していないということ。それからこの判決について、私たち側が客観的証拠に基づいて伊藤さんの主張の矛盾点を複数主張したが、これが検証されることなく、我々の主張が間違っているという事実認定もないまま無視されている状態であるということについては、高等裁判所での裁判を通じて強く訴えていく」と話し、「私が2年間沈黙している間に、国内でもあるいは海外でも、ニューヨーク・タイムズとかBBCとかに伊藤さんだけが出る、あるいは伊藤さんの主張を一方的に載せる。世界中で伊藤さんと周りの方々の発信で、私があたかも犯罪者であるかのような強い印象が流布され、固定化されつつあることが私としては残念かつ、そこを覆していかなくてはいけないという思いが強い」とも主張した。
今回の訴訟の争点になったのは信用性だ。判決では伊藤さんが「シャワーも浴びずに立ち去ったこと」「同日にアフターピルの処方を受けていること」「友人2人に相談し、警察に親告していること」から、性行為が「予期しないものであった」と認定し、さらに証言についても「虚偽を申告する動機は見当たらない」とした。一方で、山口氏の証言については証拠のメールとの矛盾を指摘。「あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました」とする山口氏から送られたメールの内容と、山口氏自身が伊藤氏のベッドに移ったとする証言に隔たりがあることから、山口氏側の供述について「信用性に重大な疑念がある」とした。それらを総合したうえで、裁判所は合意なき性行為だったと認定した。
今回の判決について、高田沙代子弁護士は「他の部分でも矛盾があったということで指摘しており、そうした点を総合的に判断したのだろう。もうちょっと損害額が上がっていてもよかったのかなという思いはあるが、内容的には妥当な判決だ。今回、証人尋問で両者のやり取りがつまびらかになった部分があり、それがあっての判決だったのではないかと思うが、セカンドレイプのような質問もかなり多かったと聞いているので、そこは難しいところだ」と話す。
一方、伊藤さんは準強姦の容疑で警察に被害届を出していたものの、東京地検は嫌疑不十分として不起訴処分とし、検察審査会でも不起訴相当と判断されている。
「民事と刑事では証拠として認めるものが全く違うので、刑事では不起訴になっても民事の方では認められるということはよくあることだ。検察としては証拠として若干足りず、有罪にはならないと判断したのかもしれない。やはり損害賠償の民事にくらべ、人を処罰する刑事は認定もかなり厳しく、高いハードルが課される。性犯罪は密室で起きることが多く、証拠も証言でしかありえない。やはり被害者、加害者どちらにとっても辛い裁判になる。ただ、スカートが短かったら(合意している)というような、要するに偏見は社会に残っていると思うし、被害者が怖くて固まってしまうというのはよくあること。にもかかわらず、抗拒不能の状態だったということの立証を求める今の刑法は本当に正しいのかとも思う」(高田弁護士)
こうした実情から、性犯罪に遭っても被害届を出すまでに至る女性の割合は少なく、内閣府の調査では、わずか2.8%にとどまるという。「男性もそうだが、女性であれば電車内で痴漢にあったことのある人は多いと思う。しかし、それで被害届まで出したというケースは私の周りにもいない。やはり勇気を持って声を上げた、本当に一部のケースだけが刑事事件になっているという現状はあると思う」(高田弁護士)。
経済評論家の上念司氏は「問題が発覚する前から山口さんのことは個人的に知っていたので、僕は今まで彼のことを擁護してきた。しかし今回の判決で、彼の主張は認定されなかったし、伊藤さんの言っていることの方が正しいとされた。僕もその前提に立って、山口さんに“もう守りきれません”とメールを送った。ただ、この件については悪かったが、刑事は別の問題だし、犯罪者だなんだと彼を誹謗中傷するのは違う。その点は区別しつつ、今後は彼と向き合っていく」とコメント。
堀潤氏は「刑法が改正されたが、性犯罪を成立させるための要件が厳しすぎる。多くが知り合いに密室で行われた行為であり、そこで暴行や強迫があったことを立証しなければならないのでハードルが高い。 伊藤さんの問題は、そんな日本の刑法、性犯罪のあり方に一石を投じたと思う。しかしSNS上のコメントを見ていると伊藤さんへの誹謗中傷も止まない。今回の判決は大きな前進だが、課題はまだまだ残されたままだ」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:伊藤詩織さん勝訴なぜ不起訴から一転?
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