16日のAbemaTV『AbemaPrime』が取り上げた「小児性愛障害」の番組内容について、様々な意見が寄せられた。
一つには、強制わいせつ未遂事件で懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けた当事者の加藤孝さんが実名・顔出しで出演したことだ。事件から19年、加藤さんは病院や自助グループで再発防止プログラムに取り組み続け、子どもへの性的加害行為は行ってはいないが、衝動が無くなったわけではなく、今も苦しんでいるということなどを語った。
番組では子どもたちへの性被害をなくすためには加害者の心情や動機などを解明する事が必要と考え、フラッシュバックを含めた二次被害に関しては、予めアナウンスをすることで配慮に努めた。加えて加藤さん本人が同じ思いから顔出し・実名で出演することをご希望したこと、さらに小児性愛者の治療に取り組む精神保健福祉士であり社会福祉士の斉藤章佳氏にも同席してもらい、加藤さんの心理面にも配慮した。
この企画について視聴者からは、「加害者が生出演して語った勇気は否定するべきものではない」「絶対ダメだが、あの人(加藤氏)も辛いというのは感じた」という意見があったものの、「我慢ができず性犯罪をしてしまうのなら去勢等の手段を取る必要もあるのではないか」「語ることで、また人が傷つくことは考えないのか」といった指摘もあった。また、番組を視聴していないと思われる人物による「女児10人レイプしたおじさんが実名顔出しでAbemaTVに出演“自分がレイプした被害者に会いたい”」というツイートは1.9万回もリツイートもされた。その後、指摘を受けたアカウントが謝罪、削除したものの、番組を視聴しないまま拡散した人も多かったようだ。
それでも加藤さんは「ネガティブな反応が予想以上に多かったが、同じ悩みを持つ人の共感や関心の声などもあったことは良かった」とし、顔出し・実名での出演については「問題解決の一歩になったと思うので後悔していない」と話している。
また、スタジオで議論になったのは、アニメや漫画などの作品が犯罪のトリガーになってしまう、という問題だった。加藤さんは「児童ポルノによってすごく刺激を受けたし、アイデンティファイされた。妄想が強化され、自己正当化につながったのは間違いない」と証言している。
23日の『AbemaPrime』では、性犯罪を惹起する可能性のあるポルノの問題に焦点を当てて議論した。
アニメ、漫画、ゲームソフトなど実在しない子どもを対象としたフィクション作品は国際的に「準児童ポルノ」と位置づけられており、イギリスや韓国では規制が行われている。一方、日本では「写真や映像」については児童ポルノ禁止法で規制の対象となっているものの、準児童ポルノは規制の対象外だ。
高橋裕樹弁護士は「法律上、一定のルールの下で準児童ポルノを規制することもできるのかもしれない。ただ、アニメの場合は見るからに10歳であっても21歳と書くこともできてしまうし、半分動物・半分人間というキャラクターへの性的な行為は対象になるのかといった議論も出てくる。枠を決めるのが非常に難しい上に、萎縮効果が生まれてしまうリスクがあるということだ。やはり規制によって性犯罪が減るといった社会的事実が確認されない限り、表現の自由を規制する、なおかつ刑罰まで課すのは難しい」と説明。「ポルノが犯罪の遠因なのか、直接的なトリガーなのかで意味合いは異なる。ポルノを見ることと犯罪をすることのハードルは別のレベルだという認識の上で規制を検討しなければならないし、“児童ポルノが制御になっている”という意見もある以上、バランスをとって立法していかなければいけない」と実情を説明する。
さらに、規制を重視すべきとする意見に対して異議を唱えるのが、漫画家の江川達也氏だ。「漫画があったおかげで間違った道に進まないで済んだという人も現実にはたくさんいる。そして、表現することと犯罪は紙一重な部分もある。表現をしていない人はそこが分かっていない。自分を客観視できなくなり、現実と妄想との境が曖昧になって犯罪にいってしまうことを議論すべきであって、やはり抑止するには教育側が現実とフィクションの違いを教え、漫画でもVRでも使って“自己コントロール”という部分のある作品を増やすしかない」と話す。
「加藤さんの場合、子どもの“子”という字を見ただけで性的な衝動が出てしまうわけで、規制で防ぐとしたら、“子”の字を規制しなければならなくなる。そうではなく、加藤さんが言っていた“児童ポルノによって自己正当化してしまったと思う”という点が重要だ。つまり、自己正当化を助長するようなものではなく、欲望をうまく制御できるようなものも含めたコンテンツをつくっていくことが重要だということだ。全ての漫画は、自己正当化するように作ると売れる。逆に、コントロールみたいなテーマを入れると売れなくなる。だからエンターテインメントをやりながら教育的なものを作るには作り手側の良心にかかっているし、相当高度な技術が必要だ。しかし、作家としてはそういうものに挑戦しなければならない。そして、第三者の中でも、教育関係の人が作っていくことが大事だ」。
加藤さんと議論した池澤あやかは「加藤さんは、性虐待サバイバーの方の手記を読んだのが立ち直るきっかけだったというお話をされていた。児童ポルノにはエンターテインメントの側面があると思うので、正確に恐怖や苦しみなどを描けるのかという疑問があるし、それができなければ認知の歪みが発生すると思う」とコメント。
幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「江川さんのおっしゃることはその通りだと思うが、はっきり言って現実には作品を作る時に社会的正義や教育的観点はない。あるのは作品にどれだけ多くの人が共感してくれるかということだ。そして実社会でやってしまえば犯罪だが、表現としてはありだよね、ということを突き詰めることが、よくも悪くも作品化するということだと思う。そこに教育的な観点を入れるためには第三者の視点を入れなければ無理だし、それは作品をつくる行為と真逆で、成立する気があまりしない。結局、第三者がチェックしようとすれば、“乳首が出たらダメ”みたいな、そういうレベルにしかならず。作品の中に入っている想いや、読者が共感してしまう点についてはチェックしようがない」と指摘した。
箕輪氏の指摘に、江川氏は「作家性のある人はできるし、自分はある程度やってきたが、確かに第三者がやってしまうと、表層的なものになってしまう可能性はある。やはり作り手側にしか分からない部分があって、皆は気づかない」と話した。
コンテンツプロデューサーの陳暁夏代氏は「今後VRやARという技術が発展してくれば、もっと現実との境界が分からなくなってくると思う。そこを補うのが教育で成り立つのであれば、もちろんした方がいいし、どうすればいいのかを考えなければいけない」と指摘。
前回のオンエアで児童ポルノの問題を指摘した慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「いわば“グレーゾーン”な作品についての議論になっているが、実際には作品性も何もなく、ただ性欲を刺激するためだけに描かれたものやレイプものも溢れている。そして、若い頃にそうしたものに触れてしまった人が、“女性って、そうは言っても気持ち良くなってるんだ”と考えていたというケースもある」と指摘。「先日、ある週刊誌に犬と一緒に写った記事が載ったので、家に持ち帰ろうとしたが、他の頁にエロが多かったので、自分の記事だけ切り取った。やはり子どもが小中学生だったとして見せられるのか、というものがコンビニで普通に売られているのは異常だ。日本が“表現の自由が”と議論して何も進んでいない間に、アップルは基準を厳しく、今やiOS上で本当にエロい漫画は見られなくなっている。つまり、インターネットよりもiPhoneを持っている方が安全になっているということだ。アップルの理屈や感覚でいいのかという議論があるのかもしれないが、グローバル基準はそうなっているんだし、子どもに持たせるならそっちがいい」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:小児性愛特集に反響 児ポ規制は必要?
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