「叶えられそうにもないけれど、夫と温泉旅行に行きたい」年金だけでは生活費が足りず、働かざるを得ない高齢者たち
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 あなたは70歳を過ぎて働く自らの姿を想像できるだろうか。総務省の家計調査報告によると、高齢者2人暮らしの生活費(2018年)は、必要な支出26万4707円に対し、年金受給額を含む実収入は22万2834円となっており、4万1873円が毎月不足する計算だ。少子高齢化により受給額は減少、不足額はさらに拡大するものと考えられる。

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 ベンチで一休みする作業着姿の高齢男性。話しかけてみると72歳で、年金だけでは生活できないことから、1日8時間の交通誘導の仕事に週6日も出勤しているという。「女房が寝たきりということもあるが、7万円ちょっとの私の年金だけでは暮らしていくのは無理だから」。

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 畑で農作業をしていた高齢者に話を聞いてみると、農家というわけではなく、アルバイトだという。寒空の下、5時間にわたる肉体労働で得られる賃金は4500円ほど。「蓄えのある家はいいかもしれないけどね。うちなんかは年金だってそんなにたくさんもらっていなから大変。仕事がいっぱいある時は月に10万円くらい。ない時は2万円くらいだ」(70代女性)。

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 ある集合団地では、午後7時前にもかかわらず、多くの部屋が真っ暗だった。「電気の節約だ。おそらく布団を敷いて寝てるはずだ」と住人の男性。平均年齢は80歳を超え、大半が年金暮らし。中には豆電球のわずかな光で夜を過ごす住人もいるという。

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 1年前に夫を亡くした吉田節子さん(78、仮名)も、薄暗い部屋で過ごすのが日常だ。夫の仕事の都合で24年間、アメリカ暮らしをし、その間、日本の年金に加入していなかったため、得られる年金は月に2万円。長男から仕送り(月7万円)と合わせても、1人暮らしの高齢者が月に使う16万1995円(総務省調べ)には及ばない。そのため、灯りの要らない日中に夕食作りを済ませ、テレビも極力見ない。風呂の残り湯を桶に溜めておき、トイレを流すのに使うなど、徹底した節約生活を送っている。

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 理容店を営む阿部正明さん(82)夫妻は、年金受給年齢になったら引退するつもりでいたが、気がつけば80歳を超えた今も働き続けている。ただ、頭痛や耳鳴りのほか、一昨年に交通事故に遭ってかあらは腰痛も抱えており、営業は週3日だけ。10名ほどの来店者があり4万円ほどの収入がある月もあるが、収入ゼロという月も。約30年にわたって国民年金保険料を支払ってきたが、受給額は妻と合わせて月に10万円ほど。支出は、光熱費、食費、医療費、通信費など約15万3000円かかるため、貯金を切り崩す日々だ。

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 「仕事は好きだし、お客さんもいるので、動けるうちは仕事をやっていきたいと思う。でも病院があるし、お金が入る見込みもない。あと何年もつか分からない。年金制度が始まった当時は、掛け金が100~200円くらいで、将来5万円が払われますよという説明だった。それが今は国民年金の掛け金は1万6000円くらいで、将来もらえるのが5万円くらいい。これでは払っている人たちに対して失礼だし、今の時代、5万円では生活できない」(正明さん)。

 妻の壽子さん(80)も、せめて自分たちの葬式代は捻出したいと今年からパートを始めた。「生き残るためには体に鞭打つしかないのだろうか。温泉旅行にせめて1泊でもいいから主人と行ってみたいなって。叶えられそうにもないけれど。若い時は、こういう世の中になるとは想像がつかなかった。老後は安泰だと、年金だけで生活できると安易に考えていた」。

■夏野剛氏「いい加減ベーシックインカムを考えるべきだ」

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 「“65歳を超えて働きたい”。8割の方がそう願っておられる。意欲ある高齢者の皆さんに70歳までの就業機会を確保する」。国会での安倍総理の言葉に、ネット上では「お金に余裕があれば老後はゆっくりしたいでしょ」「生活のために働くしかないだけじゃないの」「死ぬまで働けってことか」といった批判の声が続出した。

 法政大学教授の小黒一正氏は「厚労省が出しているモデルケースでは、基礎年金の受給額が1人あたり月に約6万5000円なので、夫婦2人で13万円くらいだ。そして厚生年金の平均的なモデルケースで月に9万円受給されるので、合計22万円くらいにはなる。しかし、これはフルに保険料を払ってきた人で、実際は月14万7000円くらいだ。これもかなりもらっている方で、年間84万円に満たない方が3割くらい、100人中3人くらいは生活保護水準の方だ。実際は100人中15人くらいが非常に厳しい生活をされているということだ。貯金が全くない高齢者の方々が65歳以上、70歳くらいになると2、3割くらいいらっしゃる」と指摘。「今の年金制度は“親への仕送り”になっている。2050年には75歳以上が2500万人くらいになる一方、現役世代は1000万人減るので、支えられない。我々自身も歯を食いしばって75歳くらいまで頑張って働く気概を持っていないと難しいが、2040年、2050年になると、月に5万円くらいしかもらえないことになる」と説明する。

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 慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「僕らの世代はもっと苦しい思いをすることになる。さらに今の30代、40代はもっとひどいことになる。一般の家計の貯蓄が1680兆円あって、その80%を60歳以上が持っている。つまり、ものすごく所得や資産のある人も年金をもらっているということなので、年金制度そのものを見直ししないといけない。しかし、見直しされたくない人たちが多いし、そこに踏み込む人はいない。年金制度はもう破綻しているのだから、いい加減ベーシックインカムを考えるべきだと思う。それによって高齢者と、シングルマザーも含む子育て世代は助かることになる。今のようにものすごい人件費をかけて“この人は受給適格か適格ではないか”を判断させるのはやめにして、役人には違う仕事をさせて生産性を上げてもらった方がいいと思う」と提言。

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 すると小黒氏も「年金支給開始を75歳以上にして、現在65歳~75歳未満の人の基礎年金の半分に充てている公費をそこに回せば、ベーシックインカムのような形ができる。加えて、ソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井さんのような方々の年金はカットしていくようにすれば、それなりにバランスできる仕組みも考えられる。しかし、かなり抜本的な改革になるので、実現は相当難しい」と応じ、「若い人は手に職をつけることも重要だ。それから貯蓄をする。そして、どうしても困る人のために制度改正をする。また、経済学的には年金制度が少子化を加速している側面もあるが、年金のない時代は子どもをたくさん作っていた。3人の子どもから2万円ずつもらえば6万円になる」とした。

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 幻冬舎の編集者、箕輪厚介氏は「高齢者が働かないと生きていけないという現実については国として改善しないといけない。でも、この現実の20年後、40年後を考えた時、こう言うと元も子もないけど、ぶっちゃけもう無理だ。そこから考え始めないと。そして、強い人や自分で考えて世界で活躍できる人はどうにかなるので、どこででも活躍できる力をつけようと思うしかないくらい希望がないことをまず認識すべきだ」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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