1月3日から「ATPカップ」がスタートする。そのオープニングマッチに組まれたのがギリシャとカナダの対戦だ。これは絶対に見逃すわけにはいかない。なぜなら、ギリシャにはシーズン最終戦の「ATPファイナル」で優勝したステファノス・チチパスがいて、カナダには左利きの貴公子デニス・シャポバロフがいるから。男子テニス界でもっとも旬な2人の対戦が年明け早々から見ることができるのだ。
ランキングはチチパスが6位で、シャポバロフが15位。チチパスは1998年生まれで、シャポバロフは1999年生まれ。21歳のチチパスと20歳のシャポバロフは日本なら大学生の年齢。その2人が次代のチャンピオン候補とされている。2019年に急成長した2人は、ビッグ3(ジョコビッチ、ナダル、フェデラー)の後継者として名乗りを挙げているのだ。
ビヨン・ボルグが10代でテニス界にデビューしたときのことを思い出す。金髪の流れるような長髪をバンダナで押さえた美少年は「ボルグマニア」と呼ばれる少女たちに囲まれていた。ボルグはテニス界で初めて生まれたアイドルだった。そのときのイメージがチチパス、シャポバロフにはあるのだ。従前からのテニスファンなら2人のことはとっくに知っているけれど、この「ATPカップ」で初めてチチパス、シャポバロフを知った人はきっと驚くはずだ。立ち姿を見て「なんてカッコイイ」と思う人もいるだろう。また、戦う姿を見て「なんて激しいんだ」と感じる人もいることだろう。2人は魅力に溢れている。そこにいるだけで観客を惹き付けてしまうのだ。
ランキングではチチパスの方が上だが、対戦成績は2勝1敗とシャポバロフの方が勝ち越している。見所はシャポバロフの超攻撃ストローク。とくに片手打つバックハンドのジャンピングショットは誰も真似できない凄さだ。一方のチチパスは攻撃型のストロークを武器としながらミスが滅法少なく受けに強い。試合の展開は、攻めるシャポバロフ、カウンターで逆襲するチチパスという構図になりそうだ。
ただし、試合そのものを考えるとカナダが有利だ。なぜならカナダにはシングル2にランキング21位のオジェ・アリアシムが控えているからだ。アリアシムは2000生まれの19歳。彼も将来のナンバー1候補と言える。いまのカナダは恐ろしいほど人材豊富なのだ。対するギリシャのシングル2はランキング476位のミハイル・ペルボララキス。アリアシムとの対戦はちょっと荷が重い。ダブルスはどんなメンバーになるかわからないが、ランキング的にはカナダが勝ちそうな雰囲気。ギリシャはいずれにしろ、エースのチチパスが勝つしかない。チチパスが先勝すれば何が起こるかわからない。そこに団体戦の妙がある
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)
写真/Hiromasa MANO