大晦日のRIZINさいたまスーパーアリーナ大会で、那須川天心が2019年で最高の仕上がりを見せた。前年大晦日はフロイド・メイウェザーにKOされ涙を流した。だが2019年は公式戦全勝記録を更新。RISE世界トーナメントでも優勝している。

 テレビの生中継枠、大会の主役の一人として今年も大晦日を迎えた那須川。対戦したのは新日本キックボクシング協会のトップ選手である江幡塁だ。2019年はKNOCK OUTのスーパー・バンタム級トーナメントでも優勝。ヒジ打ち有効、“打倒ムエタイ”を目指すキックボクシングルールにおいて、この階級の日本最高峰と言える選手だ。那須川にとっては、キャリアの中でも最強の対戦相手の一人と言ってよかった。だが江幡の評価が高ければ高いほど、那須川は燃える自分を感じたという。

「江幡選手は強いとか、自分が負けるんじゃないかとか、そういう言葉をすべてひっくり返してやろうと」

 試合はその言葉通りになった。この試合のルールはヒジなし3ラウンド。那須川が得意とするルールなのだが、しかしルールの違いを超える圧倒ぶりだった。那須川は序盤から圧力をかけ、顔面に前蹴りをヒットすると一気にたたみかけた。パンチで立て続けにダウンを奪い、最後もラッシュから倒れ際に顔面蹴り。「ここまで差があったのか」と感服させられた。ラッシュ中に見せたジャンプしての回転蹴りは、フィギュアスケートにちなんで「アクセルキック」と命名。見せ技ではなく、本気で倒すつもりだったという。

 会心の勝利に、試合後の那須川はハイテンション。

「めちゃくちゃ気持ちよかった。大晦日なので絶対KOすると決めてました。日本人最強と言われる江幡選手にレベルの差を見せたかった」

 実は試合前から気合いが入りまくっていたそうだ。ウォーミングアップの段階で調子のよさを感じ「(早く)試合してえ!」という状態。その上で、テーマである「リラックスして闘う。本気で力を抜く」ことも意識した。そしてもう一つのテーマは「悪魔的な強さを見せる」。まさその言葉通りの勝利だった。

 好調の要因の一つは、久しぶりにベスト体重に近い56kgという契約体重で試合をしたことだ。体が絞れることで、当然ながら動きにキレが増した。

 2020年のライバルは、ズバリ東京オリンピックだ。

「オリンピックより面白いことがしたい。そのために何をすればいいのか分からないですけど、まずは勝ち続けることかなと。もう誰も勝てないんじゃないかっていう存在になりたい」

 “神童”と呼ばれた男が“悪魔”の強さを身につけ、上り詰める高みはどのくらいの位置にあるのか。もはや想像できる者はいないだろう。

文・橋本宗洋

(C)RIZIN FF

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