「ATPカップ」は、4カ国が6つの組に分けてリーグ戦を行い、各組の1位と2位になった中から成績が良かった2カ国が決勝トーナメントに進むフォーマットとなっている。予選に相当するリーグ戦の組み分けはシングルスのランキング順になっており、それでA組のシード国がセルビア(ランキング1位のジョコビッチ)、B組のシード国がスペイン(ランキング2位のナダル)となっている。そうした中でランキング6位のアレキサンダー・ズベレフを擁するドイツはF組となっているわけである。
2019年の9月にオーストラリアのシドニーで行われた組み分け抽選は粛々と進み、ドイツがいるF組にはギリシャ、カナダと入る。もうそれだけで会場は騒然としていたのだが、そこに地元のオーストラリアがワイルドカード枠で飛び込んでしまった。オーストラリアのナンバー1プレイヤーは、ランキング18位のアレックス・デミノーだが、デミノーの才能は、ドイツのズベレフ、ギリシャのチチパス、カナダのシャポバロフと同等と見られており、2020年にトップ10に入ってきてもなんら不思議ではない。さらにオーストラリアには、ナンバー2シングルスにニック・キリオスが控えている。これは他の3国にとっても油断ならない。
せっかく「ATPカップ」を見るのなら、キリオスの試合は絶対に見逃さないでほしい。潜在的に持っている武器の大きさは男子ツアーでも1、2を誇るキリオスは、同時にあっと驚かすプレイを見せるショーマンであり、時には感情を爆発させてラケットを叩き折り審判に噛み付くやんちゃ坊主だ。そんなキリオスのパフォーマンスをテニスファンは楽しんでいるのだ。2019シーズンはランキング30位で終えたキリオスだが、それは度重なるケガによる欠場があったため。本当に強い日の彼はジョコビッチ、ナダル、フェデラーのビッグ3でも吹っ飛ばすパワーを秘めている。
一方ドイツは、ナンバー1シングルスにアレキサンダー・ズベレフ、ナンバー2シングルスにヤン レナード・ストルフの布陣で、こちらもバランスが良く隙がない。次代のチャンピオン候補筆頭に挙げられるズベレフは言うまでもないが、2番手に控えるストルフの存在が大きい。以前はダブルスプレイヤーとして活躍していたストルフが2019年はシングルスでも大躍進。29歳にして自己最高のランキング33位にまで上げてきた。
ドイツとオーストラリアの勝敗予測は難しい。ただ一つだけ言えるのは、このグループF組では1敗もすることが許されないということ。各国の実力が拮抗しているため2位で決勝トーナメントに上がれる可能性は低い。このグループは緒戦からガチンコ勝負になる。
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)
写真/Hiromasa MANO