3日から始まっているテニス国別対抗戦「ATPカップ」。世界のランキングリストを見るとトップ100以内の選手が10名以上いるのは、アメリカ、スペインとここで紹介するフランスの3カ国だけ。超有名な選手はいないが層の厚さではピカイチなのがフランス。この「ATPカップ」でも隠れた優勝候補なのだ。しかも選手はとても個性的。流石に「人は人。俺は俺」の国らしい個性豊かな選手が集まっている。
なかでも「やる気があるのかないのかわからない」のがシングルス2のペールだ。2019年はツアーで2勝している実力者で、錦織圭選手は「彼のバックハンドは世界一」と評しているように武器も持っている。それなのに1回戦負けも多い。気が向かないと適当にプレイする傾向があって、ラケットを投げたり、折ったりする姿もよく見かける。
それに特徴的なのがベンチに座っているときの超リラックスした姿勢。キャプテンのシモンが真面目にアドバイスしているとき、脚を組んで実にリラックス。視線はまっすぐで話を聞いているのかいないのか……。このシーンに試合を中継したAbemaTVの放送席では「脚をストレッチしている」「日本のスポーツ界だったら絶対に許されない態度だろう」など、ちょっとした論争に発展した。
その後、チリのジャリーとの一戦もスコアは競ったが、試合はまさに「ペールの不思議な世界」に包まれてジャリーの逆転負け。ジャリーにとっては、どこが敗因かわからない試合ではなかったか……。もちろん、試合のどこかではペールのラケットが飛んでいる(笑)ので、映像でその飛距離もしっかりとチェックしてほしい。
テニス選手の中でフィジカル的な能力で定評があるのがフランスのモンフィスだ。特に凄いのがコートカバーリングするときの走り。とても追いつけないようなボールを拾う姿はしなやかなネコ科の獣のようだ。モンフィスの凄さをダイジェストで見たい人は、ガリン戦の第2セット4−4からのプレイを見るといい。そこで見せたモンフィスのランニングは会場が一番沸いた場面だ。「人間ってあんなボールまで取れるんだ!」と驚くことだろう。
このブリスベーンの会場では女子のWTAツアーも同時開催されており、そこにはモンフィスのガールフレンドで2018年のWATファイナルを制したスビトリーナも参戦している。ガリンとの試合ではモンフィスを応援する彼女の姿が何度もカメラで抜かれていて微笑ましかった。また、チェンジエンドの合間には、選手たちの控え室の様子も映し出されていて、普段見られない選手の表情も見られて新鮮な気持ちになった。そうした試合以外のカメラワークも楽しめるブリスベーン大会なのだ。
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)