ガジェット通信が発表した「ネット流行語大賞」で「NHKから国民を守る党」の「NHKをぶっ壊す!」が金賞を受賞、かんぽ生命の不正販売を特集した「クローズアップ現代+」をめぐる、日本郵政からの“圧力”やガバナンスの問題、さらには大河ドラマ『いだてん』の低視聴率が取り沙汰されるなど、昨年はNHKが良い意味でも悪い意味でも注目を集めた1年だった。
そんなNHKは今年、ネット同時配信を開始する。しかし高市早苗総務大臣は「業務、受信料、ガバナンスを三位一体で改革していくことが必要であり、インターネット活用業務を含む協会の業務全体を肥大化させないことが求められる」と釘を刺している。
街頭では「問題になったことを圧力に負けないで正しいことを放送して、国民が見るものだから正当性のある公平なものを映したらいい」「面白いエンタメあるんだよっていうのは別にいらない、NHKは。ひたすらニュースやって事実だけを報道する番組がないからそれだけやってくれたらいい。国民の番組って感じがする」と、まだまだ視聴者の期待感は高い。
そこで大晦日のAbemaTV『AbemaPrime』では、前NHK会長の籾井勝人氏と、元NHK記者で大阪日日新聞論説委員の相澤冬樹氏を招き、話を聞いた。
■「会長は何でもできるが、政権への忖度はない」
任期中は発言が度々物議を醸していた籾井氏は三井物産の副社長、日本ユニシス社長などの要職を歴任後、第21代NHK会長に就任した。
相澤氏は「私は初めて籾井さんとお会いするが、1階の食堂でよく食事をしているという話が職員の間では話題になっていた。三井物産時代や日本ユニシス時代のことを知る人たちに聞いたところ、皆さん言うことが一致していた。つまり、口が悪く、すぐ怒る。すごく怖い人。だけど理由があって怒るし、終わったらすぐに忘れ、さっぱりしていると。一言でいうと、いわゆる“川筋気質”だ」と話す。
これに対し籾井氏は「少し褒めすぎじゃないか(笑)。語彙が少なく、ストレートに物を言うのが生来の性格で、相手を傷つけようとして物を言ったことはない。NHK会長時代も物議を醸そうと喋っていたわけではないが、思ったことをストレートに言っていることが多かったので、誤解を招いたとのだと思う。こういう言い方をしていいかは分からないが、楽しい3年間だった。人生を振り返ってみても、NHK会長の3年間が無ければ画竜点睛を欠くというか、大きな石が足りないような感じだったのではないかと思う。何の悔いもない良い3年の任期だったし、良い職員たちと仕事をさせてもらった。いまだに良い思い出だ。紅白は3年間、どこからも目立たないようなカメラ横の席でちっちゃくなって見ていた」と振り返る。
「ラジオ講座は聴いていたし、テレビも常に見てはいた。ただ、特別な興味があったわけではないので、会長の話が来たときは“え?”という感じだった」と振り返る籾井氏。NHK会長の権限や職務については「無いのは自分自身の罷免権と、後任を選ぶ権利だけで、やろうと思えばいろんなことができるので、権力が集中しすぎていると言ってもいいくらいだ。仕事は中のことが8割くらいを占めていて、民間企業と同じように、こうすべきだと思って一生懸命やれば組織を良くすることもできる。それを大変だからといって辞めるから何も変わらない。ただ、番組内容への介入は権限のあるなしに関わらずすべきではないと思っていた」と明かした。
また、自身の会長時代、局内に内閣への“忖度”があったのかと尋ねられると「それぞれの現場でそれなりの繋がりもあるので、そこで何が起こっていたのかは分からない。放送法には“事実に基づき公平公正、不偏不党、何人からも規律されず独立してやれ”と書いてある。会長としては会議があるたびにこのことを言っていた。そのくらい言われると頭にこびりつくものだし、皆も守ってくれたと思う。そういう意味において、忖度や上からのプレッシャーなどはなかったと思う」と断言。
相澤氏に「象徴的なのは2015年8月30日の安保法制反対デモについてだ。主催者発表で12万人が国会を取り巻いたといわれていて、ほとんどのマスコミが報道した。しかしNHKは翌朝の『おはよう日本』で取り上げることをせず、東南アジアの2万人のデモを取り上げた。こんなことは現場のニュース編集者の判断でできるはずがなく、上が“止めろ”と言わない限り起こらない。さきほど楽屋でこの話を籾井さんに伺ったら、覚えていらっしゃらなかったが、当時、最高責任者として“これを取り上げるな”と言ったことはないか」と質されると、「ない。ただ、デモに関する報道について申し上げたいのは、わーっと騒いでいるところだけ映すことによって、ものすごい影響がある。私は必ず主催者発表と警察発表の両方を報じなければならないと思う」と応じた。
■どうすれば受信料に納得感を持ってもらえる?
現在、NHKのひと月あたりの受信料は地上波契約が1260円、衛生契約を含めた場合は2230円だ。支払率と受信料収入は徐々に増加しており、2018年度の受信料は7122億円、支払率は81.2%と過去最高を記録している。
また、籾井氏は受信料について「NHKは7000億円あまり頂いている受信料の中から制作費や職員の給料などの全てを賄っている。一方、特殊法人なので税金を納めなくてよく、余ったらお返しをし、足りなくなったらまた頂くというものだと思う。今は1000億円くらいの剰余金があり、それはいくらなんでも多すぎるということで、私は会長時代に値下げの話も出した。しかし経営委員会で却下された。理由については色々説明されたが、私としては納得がいかなかった。その頃、新放送センター建設のための積立をしていて、最後の2年には200億円も積み立てていた。予定通りに積立が終わったので、200億円返すのが一番良いが、とりあえずは50億円返しましょうと言ったところで却下された。今回、総務大臣に同時配信が却下された話だって、きちんと料金を下げていれば、もっと合理化しろという話にはならなかったのではないか」とコメント。
もし受信料の値下げが可能であるなら、どれくらいの金額まで下げられるのか尋ねられると、「今も年間で200億円分は下げられるのではないかと思っている。ドイツでは税金として徴収、イギリスではテレビが映るものがあれば全て徴収するなどの決まりがあり、とりっぱぐれがない。日本のNHK受信料の場合、裁判もやりながら、8割強の方に払っていただいていて、残り2割の方が未払いという状況にまで来ている。100%の方が払ったならば、少なくとも今は8割だからこの2割は逆にお返しできる」とした。
番組には「ネットでも受信料っておかしい。見たい人だけ契約する方がいい」「契約者の受信料で紅白歌合戦なんてとんでもないエンタメはいらない」「NHKは受信料で制作したコンテンツをDVDなどで販売して子会社が利益をあげているのはどうなのか」「良い番組と視聴率は関係あるのか」「バラエティはいるのか」などのコメントが寄せられた。
籾井氏は「なかなか難しい問題だが、私の考えは“良い番組を作りましょう”ということだ。お金をいただいているのだから、お金をかけて良い番組を作るというのが私のやり方だった。予算を削ってどうでも良い番組ばかりを作っても意味がない。民放の場合、株式会社で利益をあげないといけないが、その中ではやりにくい自然の番組などはNHKがやらないといけないと思う」と話した。
この点についてカンニング竹山は「キャスティングを会社の偉い人が直接いじるということはむしろ民放でめちゃくちゃある。NHKと民放では会社の組織が違うので叩かれないだけだ。実はNHKがやばいのではなくて民放が本当にやばい。そしてバラエティに関しても、民放ではここまでの準備はできないというところまでできるのがNHK。結果的につまらなかったということもあるが、“良い番組って何ですか”、というのは個人の主観なので誰も答えられない。視聴率をものすごく取っているクソ番組もいっぱいある」、編集者・ライターの速水健朗氏は「Netflixなどがどんどん出てきている時代、その対抗軸としては民放のドラマよりもNHKの方が期待できると思う。僕が2019年に一番良かったテレビ番組は大河ドラマ『いだてん』だった。ああいうものを作ってもらえるのであれば受信料を払ってもいいと納得した部分もある」とコメントした。
また、相澤氏が「受信料を払ってくれている視聴者がお客様なので、もちろんそちらの方を見なければいけないはずだが、本当にそうなっていれば皆がハッピーで受信料も払われるだろう。ただ、そうではないと感じ、そっぽを向いた人が多かったので、“NHKをぶっ壊す”と言っている政党が躍進した。考えてみれば籾井さんが会長だった時代にはN国党は躍進していないので、この1年間でNHKの何が変わったのかが大事だと思う」と指摘、「いま、受信料を払っている視聴者がNHKに対して意思表示できるシステムがあるのかというと、ない。そして全権限を持つ会長を任命する経営委員会のメンバーは内閣総理大臣が任命する。つまり、間接的に内閣の影響が及んでいるということで、これが問題なのではないか」と指摘すると、籾井氏は「経営委員会が地方に行って人々の意見を聞く場に役員が参加して話を聞くことや放送番組審議会のあり方を見直すなど、より視聴者目線でものを考えていく仕組みが必要だ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:NHKはぶっ壊すべき? 前会長と生討論!
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