“井上元コーチ”への独占インタビューから考える、日大アメフト部騒動とテレビの「過熱報道」
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 12月13日、兵庫県尼崎市。身長185cm・体重90kgという、大きな体の男が現れた。2018年5月、日大アメフト部悪質タックル問題で監督と共に謝罪会見を行った、井上奨・元コーチ(取材時30歳)だ。

 会見では「“QBを潰して来い”と言ったのは真実。ただ、怪我させることを目的としては正直、言ってない」と、あくまで選手を鼓舞するために指示を行ったことは認めたが、怪我をさせる気はなかったと説明した井上元コーチ。しかし、当該選手が「コーチや監督からの指示だった」と会見で話したこと、さらに傷害容疑での刑事告訴も加わって、ワイドショーや週刊誌には“悪質タックル指示の決定的証拠を公開”“監督逮捕Xデー 日大「暗黒のブランド」”“日大監督「どす黒い男」”“殺人タックルの指令を出した監督”“鬼コーチの「私生活」”など、日大アメフト部を悪の巣窟であるかのような報道が溢れた。

あの記者会見がほんまに全てになってしまって、やっぱり僕も何か発信しなあかんなとも考えたり、いま言ったらまた叩かれるやろなとか考えたり。でも、ずっと黙っているのは、ちょっとどこかで逃げているような感じがした」。

 あれから1年7カ月、昨年11月には「嫌疑不十分」として不起訴が決定。検察は彼を罪に問えないとの判断を下した。そして今回、井上元コーチが長きにわたる沈黙を破り、AbemaTV『AbemaPrime』に騒動の真相を激白した。聞き手は、当時、ワイドショーなどで日大批判を行っていたと話すカンニング竹山だ。

■「アプローチの仕方がもっと他にあったと思う」

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 すべての始まりは、あのタックルからだった。日本大学と関西学院大学のアメリカンフットボール部による伝統の一戦。アメフトはボールを前に進めていくスポーツで、相手の前進を阻むため、ボールを持った選手にタックルに行くことになる。その中でメディアが問題視したのが、ボールを投げ終わり、自身はプレーにまったく関係ない状態になっていた選手に行った、あわや大怪我の悪質タックルだ。そして浮上したのは、「誰がこの悪質タックルを指示したのか」という、騒動の争点かつ最大の疑問だった。

竹山:「どんな手を使ってでもやれ」「あのQBディフェンスラインやから潰しとけよ、ちゃんと」と言ったのか。あの試合の前に何があったのか。

井上:「お前、関学のQB潰して来いよ」「どうする?試合出る?出たいの?」と言った。「潰すんやったら出てええよ」と言った。「仲良しでやってるんちゃうねんから、お前、本気にやれよ!」と「監督もそうやって言うてんぞ!」と言った。

竹山:それは本当に内田監督から聞いたのではなく、井上さんが言ったのか?

井上:そう。僕もちょっと熱が入ってしまった。多分それが最終的に、監督が言ったことになったのかなというのもあるが、「ハングリーにタックルして来い!」という意味。僕の感覚やったら、意味分かるよな、というか。勝手に思っていたのかもしれないけど。

 騒動後、タックルを行った選手は1人で会見を行い、「コーチと監督から“相手選手が怪我をし、その後の試合に出られなかったら得だろう。やらなきゃ意味ないよ”と、2人の指示によって悪質タックルを行った」と語った。しかし井上氏は、選手の闘志に火を付けるため「つぶしてこい」とは言ったものの、ケガさせることを指示したわけではないと主張し、両者の答えはすれ違っている。

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 そして、外せないのが、井上氏と選手の関係性だ。2人の出会いは、選手がまだ高校生の頃に遡る。彼の持って生まれた体格、そして高い身体能力にほれ込んだ井上元コーチは、彼を本気で育てたいと思ったという。実際に指導をする中で、選手はメキメキと力を伸ばしてゆき、世代別の日本代表に選ばれるほどになった。当時、選手は井上元コーチのことを「つとむさん」と呼ぶほど頼りにし、互いに何でも言い合える親しい関係だったという。

井上:彼と僕の関係はほんま高校時代に遡るくらい、気持ちと気持ちがずっとあったというか…。(高校2年の時に)彼の体型を見て、身長が高くて、思いっきりディフェンスエンドの体型。「この子を最高のディフェンスエンドにしよう!」と思った。「大学ではフットボールやって欲しいねん」と言った。

 1年生ながら素晴らしい才能でレギュラーとなった選手。しかし、プレーにムラがあり、ビッグプレーの反面、大きな致命的なミスをすることもあったのだという。27年ぶりに念願の学生日本一に返り咲いていた日大アメフト部で、上級生が卒業した後、彼こそチームを引っ張るリーダーになってほしいと考えていた井上元コーチ。そして2人の関係は少しずつ変わっていったという。

井上:彼に優しく接しているから、彼も甘えてるんちゃうかなって思いだしたりして、僕も変わらなあかんというか、ちょっとキツイ言葉を言ったり、怒ったりが増えた。だから彼は多分、『高校時代のつとむさんちゃうな』っていうのはどこかで持っていたと思う。何でも日本一になるのは簡単ではないけど、でも卒業して日本一になったというプライドが、どれだけ自分の糧になるかを僕らは教えたかった。ほんまにベストは(学生たちが)自分たちでやること。自主性。自分ら仲間同士で厳しくする、要は追求する。

竹山:学生同士で?

井上:学生同士。でもやっぱり、それはすごい難しい。だからある程度、こっちが発破をかけてやらないと勝てないと思う。手を出すとかではない。これは全然違う。でも、厳しく怒る。何で俺は怒ってんねんっていうのも伝えなあかん。厳しくしようとか、ガチガチにはめるってのは、今すごい否定されてるけど、でもそれを一概にパワハラって言うと、それは違うと思う。そして「(試合に)出されへん!」というのは言った。ほんまに怒った。でも、外すというのは僕の計画というか、1回外してみて、彼がどういう顔するんやろう、どういう反応するんやろうと。彼に問いたかったのは「自分どうしたいねん?」と。試合に出たいのか、練習したいのか、QBサックしたいのか、お前はどうしたいねん!?ということで、もっと来て欲しかった。

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竹山:では、ラフプレーを見た時の印象は?

井上:ほんまになんていうか、(心臓が)ドキドキってなったというか、これはちゃう!って思ったけど、僕も初めて見た。もうビックリして。ほんまに何か、ほんまに何か「えっ?そこまで行く!?」という、そんな感じ。

井上元コーチも理解できなかったというあのタックル。試合後、SNS動画が拡散され、人々に知れ渡ることになるが、井上氏はすぐに選手と話をしたという。

井上:犯罪者みたいな扱いされて、SNSでああやこうや言われて。「でもお前、悪ないからフットボール続けてくれ!」と選手には言った。「辞めて欲しない!絶対辞めるなよ!!」と言った。でも、「もう辞めます。辞めさせて下さい」と。「何で?どうするの?」と。「いや、もうあんなタックルしろって言われて、やれって言われてね、やって…」って。彼としては「やれって言われてやりました」ということ。だからもう「ええっ?」と思った。

 井上元コーチはその後、もしかしたら自らが選手を追い込んでしまったのではないかと考え始める。

井上:彼に対しては、僕は多分間違っていた。彼と僕の関係だけ。

竹山:個人的な指導ということ?

井上:はい。アプローチの仕方がもっと他にあったと思う。でもそれが何かは、あの時は分からなかった。僕がプレッシャーをかけたからやってしまったというのも、どこかであったような。今でも分からないけど、彼と僕はどこで離れてしまったのかな。

■「テレビは最終的に何を伝えたいのかなと思っていた」

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 指示をしたのか、しなかったのか。その答えは、井上氏のインタビューを踏まえても定かではない。しかし、あのタックルをした選手は、会見後、一度は引退を決意したものの、思い直して試合に復帰。それでも今後、アメフトを続けるかは未定だという。

 そして、傷害容疑で刑事告訴された監督、コーチ、選手は皆、昨年11月に不起訴という判断が司法により下された。日大を懲戒解雇された監督は、解雇の無効を求めた裁判で和解が成立した。

 問題の発生から1年と7カ月、時計の針は少しずつ動いている。しかし時間が経ったが故に浮上した新たな問題が浮上した。結果として嫌疑不十分として不起訴となったものの、当時、関係者の証言や検証機関などの調査結果を元に、彼らをまるで犯罪者のように伝えていたメディアが、不起訴処分の判断について長い時間を割き報道することはなかったのだ。

 例えば日大の会見を報じた時間(当日・翌日)は、NHKが2時間41分32秒、日テレが7時間47分45秒、テレ朝が8時間13分52秒、TBSが10時間23分00秒、テレ東が4分56秒、フジが11時間36分21秒で、合計40時間47分26秒に上る。これに対し、不起訴処分決定を報じた時間(当日・翌日)は、NHKが1分59秒、日テレが2分18秒、テレ朝が3分08秒、TBSが2分12秒、テレ東が0分00秒、フジが2分25秒で、合計12分02秒に過ぎない。

 こうした点について井上元コーチは「監督とコーチの指示があった」「日大アメフト部の指導体制に問題」などと結論付けた日大の第三者委員会、関東学生連盟の調査はあまりにずさんなものだったとして、強い憤りを隠さない。

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井上:偏った報道があって、僕らはほんまの悪者になって。多分、世間の人の印象はそのまま。そして、第三者委員会に呼ばれたのは1回だけ。もっと話すことがあるし、でも3時間と時間が決められていて。納得いかんと思っていたけど、また呼ばれると思ってた。結局、呼ばれないまま認定されてしまった。「指示した」と。それはあり得へん!と思った。学生にもアンケートみたいなのを取っていて、僕と監督の会話で、あのプレーについて「監督やりましたね」で、監督が「おう!」って。そんなん…。そんな会話いつしたん!?みたいな。それを聞いた学生がおるから、みたいな。僕は聞かれたときに「絶対に言っていない!そんな会話するわけない」と言った。(内田監督の)“独裁”というのにも、すごい違和感がある。

竹山:内田監督を頂点とする、というような感じではなかった?

井上:ない!全然違う。内田前監督は学生に対しては優しい。でも、第三者委員会も連盟もそうだけど「パワハラ(ありき)」。パワハラで、厳しい指導で、選手は怯えていると。彼のタックルに限らず、全部やらされて、恐怖に怯えながらやっていたと。

 調査結果に関して何が正しかったのか、その答えは分からない。しかし、報道するということは時として、人の人生を変えてしまうことがある。結果として、彼は日大職員という職を失い、いまだに後ろ指を差される日々だ。

井上:テレビは最終的に何を伝えたいのかなと思っていた。ありもしない話が出てきたり。話がすごく偏ってる。でもそれはほんまにパワハラをなくそうとしてるのかと思う。なくそうとしてるのなら、こっちの目線もあって、こっちの目線もあってということをやって欲しい。皆が皆一緒の指導をして一緒にうまくなるんじゃない。色々な指導の仕方がある。正解はまだ見つからないと思うけど、その正解をもっと話す必要があると思う。今こそ議論するべき。

■「またここで一からやって、会社のために頑張ろう!」

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 2時間に及ぶインタビューの終了後、井上元コーチを側で見守っていた同級生からは「熱くなり過ぎ!」「顔が怖くなってる!」「優しいのに!」との言葉が投げかけられた。職を失った井上元コーチに「一緒に働かないか」と手を差し伸べた、大学時代のチームメイトだ。

竹山:現在は何をしているのか?指導はもうやっていない?

井上:全く違う仕事をやっている。工場や建設現場に人を手配する仕事をしている。

竹山:アメフトに関係のない、学生を指導するという仕事以外の仕事は初めて?

井上:初めて。何カ月間かは現場に出て修行していた。ヘルメット被って。

竹山:同じ現場の同僚など、一緒に働いている方に気付かれたり?

井上:体も大きいので「何やってたん?」と聞かれた。「アメフト教えてて…」と言ったら「あぁ!」と。そういうのは結構あった。(その時は)隠さないで「そう」と。(新しい職場では)皆、偏見を持たないというか、快く受け止めてくれた感じなので、その辺はほんま感謝している。

竹山:アメリカンフットボールの指導者に戻りたい?

井上:今はない。新しい仕事に就いて、またここで一からやって、会社のために頑張ろう!という気持ち。

■「蒸し返すのではなく、報じ直すのが我々の責任ではないか」

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 井上元コーチについて「顔が柔らかかった。一般の優しいおじさんに見えた。メディアで見た顔と違う。ちょっと色付きの眼鏡だった」と、報道時とのイメージの違いを語ったカンニング竹山に、「それが違う。もっと色付き(眼鏡を)かけていた。色が付いてたけど、色付いてたといってもチンピラみたいなやつじゃない。でも、記者会見をやる前に、“この眼鏡、ヤバいな”って。職員としてパソコンやるから、目のための色。でも、これじゃ記者会見は失礼やなと思って、急遽、透明なやつを家から持ってきた。それがあれしかなかった。それやったら眼鏡かけへん方が…。あれはマジで失敗」と会見の裏話を語った。

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 そして、「そういうところは話さないとやっぱり分からない。いまの話はものすごくバラエティー的な話。ものすごい面白い話だから、別に誘ってるとか出てくださいという話じゃない。バラエティーに出た時、その話すると相当ウケる話。面白いな!ってなる」と声をかけた竹山。インタビューを終え、「なぜあのタックルが起きたのかも誤解があったりする問題で、白黒はっきりつけられないところがある。ただ、メディアの報道、僕もそれに乗っかってやっていたが、伝える立場としては公平性が無いままにやってきたのかもしれないという恐怖が残っている。もしそうだとしたら、蒸し返すのではなく、キチッと報じ直すのが我々の責任ではないか」と問題提起する。

 「結局、どこの番組もお金もない、でも数字を取らなければいけない。そのためにはどうするか。正義と悪の“ウルトラマン構造”はわかりやすい。そういうストーリー仕立てにして我々は流してしまう。それで実際に数字が上がる。だから明日もやろう、その次の日もやろうと、各局がやってきたツケだ。商業主義になって、本当に伝えるべき真実を我々は忘れている」。

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 明星大学の藤井靖准教授(臨床心理学)は「井上元コーチが告白したことにすごく敬意を表したい。話し方を見たり内容を聞いたりしていると、すごく純粋で、学生との距離がものすごく近かったのだと思う。一方で、集団の雰囲気としては、コーチも含めてかなり追い込まれていたと思うので、洗脳が起こりやすい環境でもあったと思うし、パワハラや指示の加害者同然の問題だったとも思う。学生同士で話し合わせ、主体的にやらせようとしたのが上手く行かず、そこから道を間違えたのだとすれば、そのことを今後に活かすという意味での分析や報道は不足していたと言える」と指摘した。

 編集者・ライターの速水健朗氏は「検証報道が必要だと思う。インタビューの中で眼鏡の話が出てきたが、あれがどういう印象を与えたか。そのカラクリをちゃんと突っ込むと、漫才みたいな話だ。しかしそれは単に笑い話ではなく、こういうメディアの“ずらす”ような報道があったということは実際に出ている。僕らが受けた印象の理由の一つが眼鏡だったということを後からちゃんと聞くこと。これが本当の検証だと思う」と語っていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:井上元コーチへのインタビュー映像

井上元コーチへのインタビュー映像
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