ATP(男子プロテニス協会)が主催する『ATPカップ』は4日目を終えた時点で、全てのグループステージの2戦目が終了。各グループともに決勝トーナメント(準々決勝)に出場するためのシナリオが絞られてきた。
まず、グループステージの最終戦を待たずに準々決勝進出を決めているチームを紹介しよう。グループAのセルビアとグループFのオーストラリア。地元オーストラリアは若手スターが揃う「死の組」でドイツとカナダを連破し、ギリシャとの最終戦を残して1位を決めた。20歳のエース、アレックス・デミノーは世界ランク18位でこのグループ内のエースの中では最下位だが、30位のニック・キリオス、48位のジョン・ミルマンと、トップ50に3人を擁する層の厚さに圧倒的な応援を味方につけて、ここまで1試合も落としていない。キャプテンは元王者レイトン・ヒューイット。デミノーは彼の秘蔵っ子でもある優等生で、個性もガラは悪いが根はやさしいキリオスと、どこを切り取ってもナイスガイのミルマンが脇を固めている構図。一見、個性はバラバラだが、意外と調和がとれているようだ。
セルビアは2戦目でフランスに勝てば1位が決まるという状況で勝負の行方ダブルスまでもつれたが、ノバク・ジョコビッチ/ビクトル・トロイツキがニコラ・マウ/エドゥアール・ロジェ-バセランをスーパータイブレークの接戦で破った。オーストラリアには旧ユーゴスラビア系移民が多く、セルビアはまるでホームのような雰囲気の中で戦っている。グランドスラム16回の優勝を誇るジョコビッチの燃えたぎる闘志、決して得意でないダブルスでもエネルギーを惜しまず戦い、ダブルス巧者のフランスペアを破った原動力は、この環境に違いない。祖国の英雄ジョコビッチの「シドニーで会おう!」の呼びかけにスタンドは大熱狂した。
この2つのグループ以外の4グループは、最終戦の結果によって準々決勝進出が決まる。気になるのはもちろん日本のいるグループB。ここまで2勝を挙げている日本の最後の相手は最強スペインだ。スコアに関わらず、この対戦の勝者が1位通過となる。王者ラファエル・ナダルに世界ランク9位のロベルト・バウティスタ アグート、熟練のダブルス名手フェリシアーノ・ロペスと穴のないスペインに対し、完全にチャレンジャーの立場である日本がどこまで迫れるか。中でも、ここまで格上相手に完璧なテニスを見せている西岡のナダルへの挑戦は見ものだ。
やはり波乱の展開を見せているのがグループC。なぜ「やはり」なのかというと、このグループはもともとロジャー・フェデラーを擁するスイスがシードされていたグループだからだ。フェデラーの欠場で出場資格を失ったスイスが消え、さらに、イギリスのメンバーから今季完全復活を目指したはずの元王者アンディ・マレーが抜けた。そんな中、世界ランク20位のグリゴール・ディミトロフ以外は400以内にすら誰もいないブルガリアが大健闘。ベルギーを破れば1位通過を決める。しかし、ベルギーとイギリスにも可能性は残されており、三つ巴の終盤だ。このグループの勝者が準々決勝でオーストラリアと対戦することが決まっている。
グループDは現在2勝しているロシアがノルウェーに勝てば1位となる。ダニール・メドベージェフとカレン・ハチャノフの23歳コンビと、元王者マラト・サフィンの監督姿から目が離せない魅力的な若いチームだ。21歳のキャスパー・ルードの活躍が目覚ましいノルウェーにもチャンスはあるが、ロシアを3-0で破らなくてはならないという厳しい条件尽き。イタリアとアメリカには1位通過の可能性はない。
もっとも行方の見えないのが、オーストリアをシードとするグループEだろう。現在グループのトップはそのオーストリアではなくクロアチア。エースのボルナ・チョリッチは世界ランク28位だが、元世界3位で現在38位のマリン・チリッチをナンバー2に据え、ダブルスにはグランドスラム優勝経験もあるベテランのイワン・ドディグを擁する層の厚さでここまで2 連勝。アルゼンチンに勝てばすんなり1位通過だが、アルゼンチンが1位になる可能性もある。その条件はまずクロアチアに勝つこと、そしてポーランドがオーストリアに勝つことだが、この二つは十分に起こりうる。世界ランク13位のディエゴ・シュワルツマンと25位のギド・ペラを擁するアルゼンチンは、現在のランキングだけ見ればクロアチアよりも上だ。オーストリアは世界4位のドミニク・ティームが柱だが、錦織圭に昨年2連勝したポーランドのホベルト・ホルカシュは世界ランク37位ながら侮れないし、ポーランドにはダブルス世界6位のルーカシュ・クボトもいる。また、条件はより厳しくなるが、オーストリアにもチャンスはある。最後に熱いドラマが繰り広げられそうだ。
1位がダメでも希望が潰えるわけではない。各グループ2位の中から2チームにも準々決勝進出の切符は与えられる。シドニーでもブリスベンでもパースでも、これまで「まさかの展開」がしばしば繰り広げられ、チーム戦の醍醐味を存分に見せてくれているATP カップ。いよいよ大会中盤の山場がやってくる。
文/山口奈緒美
【決勝T進出の最低条件】「スペインから1勝すること」
グループFの2位カナダは 2勝1敗(選手5勝4敗) 勝利セット率60.0% 。日本選手がスペイン選手にストレート負けした場合、 日本は2勝1敗(選手5勝4敗) 仮に全てフルセットでも勝利セット率は59.1%なのでカナダを上回れない。つまり日本はスペイン選手に1勝することが決勝トーナメント進出の最低条件となる。
日本チームが決勝ラウンドに進出するためにまず考えるべきは6勝3敗で2位になるチームが何チームになるか。グループCのイギリス、ブルガリア、ベルギーは現在のナイトセッションの試合の結果に限らず、どこかが3敗で2位に入るので、1カ国は確定する。
そのほかに可能性があるのは明日行われるグループEのオーストリアとクロアチア かグループAの南アフリカかフランス。オーストリアはポーランドと対戦 これに3連勝すると6勝3敗で2位となる。クロアチア はアルゼンチンに1勝2敗で負けた場合は6勝3敗で2位となる。またグループAは明日、南アフリカとフランスが対戦し、どちらかが3連勝で勝った場合は、6勝3敗で2位となる。最大3チームが3敗で2位になる可能性があり、日本がスペイン戦で1勝できた場合は、 ここの争いに加わることができる。