「死の組」と呼ばれたF組。ともにオーストラリアに敗れたドイツとカナダは、最終試合で2位争いのガチンコ勝負を迎えた。6つの組の中から2位で決勝トーナメントに上がれるのは2カ国だけ。勝敗→取得セット数→取得ゲーム数の順で予選抜けの2チームが決まるので、すべての試合が終わるまでどの国も気が抜けない。唯一つだけ言えるのは、一つでも多く勝って、一つでも多くゲームを奪うこと。そんな中でストルフとオジェ アリアシムの戦いが始まる。
この第2シングルスのストルフは強かった。アリアシムは2セットで3つのブレークを許し、一つもストルフのサーブを破ることができなかった。エース同士の第1シングルスはドイツがズベレフ、カナダがシャポバロフの対戦。注目の的は何と言っても、第一戦のオーストラリア戦(対デミノー)で14本、第二戦のギリシャ戦(対チチパス)で10本のダブルフォールトを犯したズベレフ。一部では「サービスイップス」に陥っていると噂されるほどの不調ぶりだ。
確定したのは、このエース対決で敗れた国の予選突破はない、ということ。その情報は両国にも届いている。つまり、本当の意味の「サドンデス」となったのがズベレフとシャポバロフの戦いだった。
そうした中でズベレフの表情が冴えない。第1ゲームから早くもダブルフォールトを犯し、誰の目にもフラストレーションを抱えながらプレイしているのがわかる。ベンチにはベッカー監督だけでなく父親(コーチ)まで入っていたが2人ともかける言葉がない。一方のシャポバロフは世界に自分をアピールするかのような躍動感溢れるテニスを見せ、6−2、6−2でズベレフを一蹴。アリアシムと組んだダブルスでもドイツ組をストレートで下し、カナダは3戦トータル、5勝4敗で予選リーグを戦い終えた。
ATPカップの面白さと残酷さがはっきりしたのは最終日の集計が終ってからのこと。予選リーグを1位で勝ち抜けたのは、最終日の試合でクロアチアに3タテをつけたアルゼンチン。その結果を受けて2位抜けを決めたのがカナダ。2019年のデ杯で決勝まで進んだ実力国カナダは、自力ではなく、漁父の利で決勝トーナメントに進むことになった。
アルゼンチン戦で1勝していれば予選を抜けたのはクロアチアだった。同じように、スペイン戦で西岡が、ダブルスが勝っていれば予選を抜けていた日本。5勝4敗だった国は、どこもが「あそこで1勝していれば」という戦いがあった。第2回目以降のATPカップは、今回の予選リーグの結果を踏まえてさらに真剣で厳しい戦いが繰り広げられるのではないだろうか?
そして、これで終わりではない。これからが本番を迎えるのだ。
文/井山夏生(元テニスジャーナル編集長)