坂桂輔。2015年12月31日の大晦日、その名は全国にとどろいた。
札幌大谷高校の守護神として高校サッカー選手権に出場して迎えた1回戦。1点ビハインドの後半にPKを獲得すると、坂がキッカーを務めて同点に追いつくことに成功した。試合はその後PK戦へと突入すると、今度は相手シュートを2本もセーブ。大舞台でPKを“決めて止めて”、同校の全国初勝利を引き寄せたのだ。
そんな伝説的な活躍を見せたGKが高校卒業後に選んだ進路は「フットサル」だった。
舞台をFリーグに移した坂は今、相変わらずピッチで大暴れしている。
ゴールは、気分いいっすね!
昨年11月、エスポラーダ北海道は強敵・ペスカドーラ町田に2-1で打ち勝った。決勝点を挙げたのが坂だ。
そのシュートは、まさに圧巻。ピッチ中央でパスを受けた坂は、狙いすました低弾道のミドルシュートをゴール左隅に突き刺す。正面で構えていたフットサル日本代表の守護神・イゴールが反応し切れない、見事な決勝弾だった。何よりも驚きなのは、坂がフィールドプレーヤーではなく、GK(ゴレイロ)という点だ。
ゴレイロのゴールは、フットサルでは珍しいことではない。ただし、そのほとんどは「パワープレー返し」によるもの。ビハインドを負ったチームが試合終盤、自陣ゴール前をガラ空きにして攻め込むパワープレーを受けて、シュートをキャッチしたゴレイロがパントキックで無人のゴールに蹴り込む、というものだ。
坂は今シーズン3ゴールをマークしてきたが、パワープレー返しは一つもない。加えて、強烈なミドルシュートだけではなく、試合中に何度もドリブル突破を図るなど、規格外のプレーを連発している。中学までFWだったというだけあって、足元の技術は高水準。超攻撃的なスタイルは、坂の専売特許だといえる。
坂がフットサルに真剣に取り組み始めたのは4年前。
2015年8月に開催された第2回全日本ユース(U-18)フットサル大会に初出場した札幌大谷高校をベスト8に導いた活躍を認められ、フットサルへの道が開かれていった。大会後、U-18フットサル日本代表に選出。高校卒業後、地元のエスポラーダ北海道へと加入して、競技フットサルへと没頭していったのだ。
「自分の課題は基礎的な技術。Fリーグ選抜で戦えたことがかなり大きかった」
翌シーズンは、新設された24歳以下の選手で構成されるFリーグ選抜へと加入して、1年間、フットサルのノウハウを学んだ。その期間にA代表候補合宿にも呼ばれるなど、メキメキと頭角を現していく。そして今シーズンから北海道に復帰すると、早速、守護神の座を射止めた。12月には再び日本代表候補合宿に招集。チームはリーグ戦2試合を残して11位と沈むが、そのチームにあって、坂は異質の存在感を放っている。
「(自分の仕掛けで)ピンチを招いてしまうこともありますが、だからといって歯止めをかけることはあまり考えない。それでもやらないと、自分もうまくなれないですから。ゴールは、気分いいっすね!」
明るい性格の持ち主で、チームのムードメーカー。ピッチ内外で北海道の話題をさらっている。12月には、自身のSNSを通して結婚を報告。奥様との仲睦まじい姿を公開するなど、“ピッチ外の活躍”もめざましい。
ドリブル、ミドル、決勝弾。高校サッカーからフットサルに転身しても、自分の武器を存分に発揮しながらピッチで大暴れして輝き続ける。高校サッカー伝説のGK・坂桂輔のプレーから、目が離せない。
文・本田好伸(SAL編集部)