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(最上級のフィニッシュであるケツァル・コアトルで試合を決めた赤井)

 芸能界からプロレスに挑戦する選手は、決して珍しくない。特に女子にその傾向が強く、熱心なファンも多い。そんな現在の流れのパイオニアは“グラレスラー”愛川ゆず季だろう。

それに続いたのがDDTの赤井沙希。彼女がレスラーデビューした2013年はまだ芸能界からの挑戦は少なく、それゆえ今よりも偏見が強かったと言える。まして赤井英和の娘。話題性があるだけに、それに頼り切ってしまうと「所詮は芸能人」、「親の七光り」と言われてしまう。

 芸能人であることとプロレスラーであることをいかに両立させるか。そのことに苦しんできた赤井は、同じ立場の後輩たちを常に気にかけている。その一人である上福ゆきは「直の後輩という感じ」だそうだ。いわゆるアイドル路線ではなく「長身で髪が長くて、お姉さん系で」。また「たぶん彼女も誤解されやすいタイプなんだけど、一生懸命やっている」という言葉も。

 上福にとっては、赤井は憧れでありお手本であり、超えるべき存在でもある。2019年、タッグ王座挑戦をはじめ力をつけた上福。リング上でクロちゃんにヒザを舐められたことも話題になった。そこでめぐってきたチャンスが、1月4日のビッグマッチ、後楽園ホール大会でのシングルマッチだった。

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(試合後は上福の健闘を称えた)

 まだまだ実力差のある顔合わせであり、試合は終始、赤井がリード。何発も蹴りを叩き込んでいった。上福は持ち味である明るさを発揮することができず、ただただ必死で立ち向かう。エルボーを連打し、蹴りを返しと、できたことは決して多くなかった。

 ただ赤井としては、上福の必死さを感じることが何よりも大事だったのだろう。攻撃をあえて受けて立つような場面も目立った。

「蹴りも全部痛かったけど、痛みの中に沙希さん的な愛情があった気がして、凄くいい新年を迎えました」

試合後の上福はそう語っている。フィニッシュとなったのは赤井の最上級の決め技ケツァル・コアトル。舞台出演がきっかけで生まれた技で、ネーミングも役名から。赤井曰く「芸能とプロレス、両方(の活動)から生まれた大切なフィニッシュ」だ。「出す相手も選んでるんですけど(上福には)その資格があると思いました」と赤井。

「今日感じたのは(上福は)やる覚悟も、やられる覚悟も最低限は持っているなと。ただプロレスをやってるタレントさんじゃなくて、プロレス界で何を残すか。キレイなお姉ちゃんなんていっぱいいるので」

 この言葉は、そのまま上福の2020年のテーマにもなるだろう。得意技の一つは「目突き」。そうかと思えばコーナー上の相手をドロップキックで撃ち落とす。楽しく、奇妙で、かつ華がある上福のプロレスは「クロちゃんにヒザを舐められた女」で終わる程度のポテンシャルではない。

文・橋本宗洋

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