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 1月5日、東京ドームで内藤哲也がIWGPヘビー級とIWGPインターコンチネンタルの2冠王者となった。複数のタイトル保持者はプロレスの歴史上でも決して珍しいことではないが、「史上初の快挙」の言葉通り、新日本プロレスの上位2本のベルトを1人の選手が保持するのは過去に例のないことだ。

 東京ドーム大会を前に、無冠の内藤は「逆転の内藤哲也」というキーワードを常に提示してきた。IWGP王者のオカダ・カズチカ、インターコンチネンタル王者のジェイ・ホワイト、G1優勝者の飯伏幸太の中で唯一割って入った「丸腰が全てかっさらってやる」という意思表示をしたコメントだが、このダブルタイトル戴冠に至るまでの6年越しの「内藤哲也の逆転の物語」を含んでいるように思える。

 「制御不能」をキーワードに新しいダークヒーロー像を築き上げた内藤が、5年前まで真っ白なベビーフェイスのレスラーだったことは皆が知るところだろう。しかも、“つまらないレスラー”の烙印を押され、観客からブーイングを浴びる日々だったのだ。過去の試合にアクセスできる時代だ、ネットを掘り起こせば「俺の夢は新日本プロレスの主役になること。簡単な道じゃない、だからこそ諦めずに夢を追い続けたい」と真っ直ぐに語るコメント映像にもすぐ辿りつくことができる。

 そんな内藤が反骨心を持つ原動力となったのが、2014年の東京ドーム大会での「メイン剥奪事件」である。2013年に念願のG1初制覇を果たし、既定路線で夢にまでみた東京ドームのメインを確約されていたのが一転、大会直前のファン投票で、中邑真輔と棚橋弘至戦がメインカードに昇格し、G1覇者とIWGP王者の試合がダブルメインという体のいい言葉で格下げされた訳だ。

 この会社の裏切り、ファンの裏切り、その後スランプと観客のブーイング。IWGP王者の夢も後輩オカダに先を越され人気も地に落ちた。しかしメキシコ遠征をきっかけに、帰国後・新ユニット、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンを結成。過去のヒールの概念とは一味違う、目的のためには手段を選ばない「制御不能なカリスマ」という地位を築き上げ、ファンの共感を得て一躍トップレスラーに返り咲いて現在に至る。

 「逆転の内藤哲也」が夢を実現する物語は、オカダとのIWGPヘビー級を賭けた戦いに集約されている。2016年4月のIWGP初奪取の際は、新加入・SANADAの「お披露目介入」あっての戴冠だった。試合後、内藤は夢にまでみたIWGPヘビー級のベルトを宙に向け放り投げた。

 2018年、内藤は遂に東京ドームのメインのリングに立った。彼が中学生のときに掲げた「新日本のレスラーになる」「20代でIWGPヘビー級王者になる」「東京ドームのメイン」という3つの夢のうち2つは果されたが、オカダのレインメーカーの前に力敗けした。試合後のオカダの「内藤さん、東京ドームのメインイベント、最高に気持ちいいだろ? 勝つとな、もっと気持ちいいぞ!」という言葉も身にしみただろう。

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 2020年1月5日、前日のジェイ戦で古傷の膝を徹底的に責められ満身創痍で挑む。飯伏との死闘を制したオカダにもダメージの蓄積は感じられるが、どうみても内藤にとって分が悪い試合のように思えた。

 オカダのウィークポイントのクビにダメージを絞り、局面でバレンティア、リバース雪崩式フランケンシュタイナーなど持てる大技を出し切る。オカダのレインメーカー4発をしのぎデスティーノから、封印していたスターダストプレスまで放った。この技の生みの親で、この日引退した獣神サンダー・ライガーへの餞(はなむけ)という粋な理由ではなく、正統派時代のネタも含め、持ち得るもの全てを出し切ったレスラー・内藤哲也の素の闘争本能が出した技だと思う。

 内藤哲也がよく口にする言葉の1つに「一歩踏み出す勇気」という言葉がある。公式の場での会社批判、数々の対戦相手に対する挑発、ツバ吐きに代表されるリング上でのダーティーな振る舞い、全て彼が勇気を持って行ってきた行動なのだと思う。一度どん底を味わったレスラーが、新日本プロレスの群雄割拠のなかで一歩一歩この大逆転の物語を目指し進んできた。この泥臭さはある意味、今の時代にあったロールモデル像かもしれない。品行方正だけでは勝ち上がれない世の中、内藤のメッセージが支持される理由の1つだろう。

 ご存知の通り1.5東京ドームのエンディングはハッピーエンドでは終わらなかった。内藤の夢実った瞬間に乱入して全てをぶち壊したKENTA。今でも怒りが収まらないファンは多いだろう。2夜明け会見で内藤はあの襲撃について、会場に駆けつけたファンを裏切った点で苦言を呈しつつも、次のように語った。

「KENTA選手は色々なリスクを背負いながらも動いたわけですよね。ホント、その行動に関しては俺は素晴らしいことだと思いますね」

 逆境から手段を選ばずのし上がった内藤だからこそ、そしてそれに追随する者たちをいちレスラーとしては支持するというスタンスだ。筆者も余りにもお粗末で残念な1.5東京ドームの結末に打ちひしがれた1人だが、時が経つにつれてこれも「一歩踏み出す勇気」というメッセージの波及効果のように思えてきた。追われる立場になり、祝福よりも襲撃が先に来る「内藤哲也らしい戴冠の瞬間だったのかもしれないな……」そう思うのだ。

文/早坂ヒデキ

写真/新日本プロレスリング

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