タイの破壊神による猛攻を受け、イギリスの神童の耳から鮮血が飛び散った。
22歳の2人がトップ争いを繰り広げるONEムエタイの世界戦「ロッタンvsハガティーPart2」の激しい戦い。そして客席には同世代でロッタンとはライバル関係にある那須川天心の姿があった。
1月10日タイ・バンコクで開催されたONE Championship「ONE:A NEW TOMORROW」。新年最初の大会のメインイベント・フライ級ムエタイ世界タイトルマッチは、王者・ロッタン・ジットムアンノン(タイ)が前王者・ジョナサン・ハガティー(英国)に3ラウンドKOで完勝。リマッチ戦での同年代対決で、圧倒的な差を見せつけた。
立ち技のキックとムエタイ、総合格闘技の3本立てでアジアを中心に世界の強豪を集め拡大してきたONEだが、激戦区キック/ムエタイの戦いを盛り上げてきたのが、欧州勢とチャンピオン・トップランカーを次々と送り込んできたタイ勢との戦いである。
特に英国のムエタイリーグでKOの山を築き10代で王者になったハガティーは、いうなればイギリス版の「神童」だ。ONEデビュー2戦目で、レジェンド・ファイター、サムエー・ガイヤーンハーダオから2度のダウンを奪う番狂わせで、若干20歳でフライ級王者になり欧州勢躍進の立役者となった。
そんなハガティーの防衛ロードに待ったをかけたのが、那須川天心との激闘を演じたことで日本でもお馴染みとなったロッタンだ。昨年8月のマニラ大会で0-3の判定で下し新王者となり今回が2度目の防衛となる。前回5ラウンドまでもつれた両者の対決だが、4カ月ぶりの対決でロッタンの「破壊神」ぶりが際立つ試合内容となった。
(写真右/ロッタンを拍手で称えるハガティー)
1ラウンド序盤から激しいローキックの打ち合い。普段はスロースターターのロッタンが積極的に前に出て、一発貰うと自らの顔をポンと叩き「もっと打って来いよ」と煽る、その後ボディに強烈な連打を放つとハガティーは悶絶して倒れ込んだ。なんとか立ち上がったハガティーだが、その後もロッタンの容赦ないボディを数発浴びる苦しい展開。何とか遠い距離を保つことでラウンドを耐えきった。
2ラウンド、ロッタンの執拗なボディ攻めは続く。ハガティーは左右スイッチを繰り替えし、リーチを活かした遠い距離からのローや前蹴りで打開を試みるが、ロッタンは距離を縮めてボディへのパンチ、ミドルでじわじわと削っていく。距離が欲しいハガティーに、ロッタンが重い左ボディを浴びせ後退させるシーンが繰り返された。
3ラウンド。序盤、首相撲でもハガティーが完全に投げ飛ばされ「王者vs元王者」対決の面影はすでにない。部分的にはハガティーも顔面に前蹴りをヒットさせるなど気を吐いたが、物ともせずに前進するロッタンの迫力に完全に飲み込まれた。ロッタン得意の「もっと打ってこい」のアピールにハガティーが打ち返すと腹パンチ。追い込まれたハガティーはアイポークをアピールし逃げると、ロッタンの苛立ちは最高潮に……。
己を鼓舞するように観客を煽ったロッタンは、試合が再開すると進撃のボディを連発。ダウンするハガティーの耳が切れて鮮血がほとばしった。ハガティーが立ち上がるも、破壊神の容赦ない連打に座りこみ2度目のダウン。瀕死のハガティーにさらに左ボディ、3度崩れ落ちる元王者、レフェリーが試合を止めた。
ハガティーとしては、序盤からボディというウィークポイントを露呈してしまい為す術がない試合内容だった。とはいえ、やはり際立ったのはクリティカルな打撃に対して物ともしないロッタンの鋼鉄のような肉体だ。打っても打っても効かない、2018年対戦した那須川天心が語った「手応えがあるのに倒れない」という表現そのままの屈強ぶりを改めて示した試合だった。