北米MMAの強豪を前に、1つのスリップが命取りに…。これも総合格闘技の残酷な一面といえるだろう。
1月10日にタイ・バンコクで開催されたONE Championship「ONE: A NEW TOMORROW」に参戦した高橋遼伍(KRAZY BEE)が、北米MMAの寵児、タン・リーとの戦いで致命傷となるミスを犯して悔しい敗戦を喫した。
日本随一のローキックを持つ修斗の「壊し屋」高橋。元修斗環太平洋フェザー級王者の高橋は近年国内では負け無し、昨年のONE参戦も含め8連勝と、日本勢が誇る最強の1人だ。代名詞となっている強烈なローは、現在MMAでトレンドとなりつつあるカーフキックで、かなり早い時点から習得して数多のTKOを築いてきた。
一方、アメリカ・LFAのフェザー級王者という実績を引っさげて昨年よりONEに参戦しているタン・リーは34歳のベテラン。テコンドーの名門一家の出で、アメリカのトップアスリートのMMA登竜門的側面もあるLFAを経てONEというキャリアは、自身がベトナム系アメリカ人というルーツもあってのことだろう。昨年は元ONE王者の朴光哲(KRAZY BEE)に打撃戦で完勝し、同門の高橋にとっては「仇討ち」というテーマも垣間見えるカードだ。
スタンドでの攻防でリーの蹴りを高橋がキャッチする場面からスタートしたこの試合。高橋の地を這うようなローキックが1発、2発と炸裂。蹴りに警戒するリーにローと見せかけて左フックも入る高橋ペースの序盤だ。
ローを嫌うリーは、神経質にスイッチを繰り替えし距離も遠めに取るが、素早く出し入れしながら打撃を打つなど、柔軟な対応ぶりも見せる。近い距離でのパンチの打ち合いは互角、高橋はゆったりとしたスタンスからローの恐怖を刷り込みながら、じわじわとプレッシャーをかけていった。
しかし1ラウンド中盤、足を滑らせてバランスを崩した高橋に、リーの左カウンターがヒット。絶好機を見逃さないリーが右ストレート、膝、背後からのパンチと連打を放ち、ここでレフェリーが試合を止めた。
終始プレッシャーをかけ有利な試合運びだっただけに、高橋にとっては悔やまれる敗戦となった。序盤、リーがカーフキックを嫌う場面もあり違うエンディングが期待できただけに非常に残念な試合だ。
試合後、高橋は「妥協せずに全部のトレーニングもやってきたし、悔しいけどこれが自分の今の現状」と試合を振り返っている。日本人ファイターのONE参戦については、アジア発の独特の格闘風土との適応力やルール解釈などがここ数年のテーマだった。しかし、タン・リーやジェイムス・ナカシマなど北米MMAの実力者の参戦で生態系が大きく変わりつつある。久々の敗戦となり2020年厳しいスタートとなった高橋だが、ONEフェザー級戦線でそのポテンシャルを示してくれることを期待したい。