教員も学生もあきらめムード…日本の大学は「“大卒”資格を得るためだけ」?
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 少子化に伴い、今や全国で194の大学が定員割れ、私大の3割が赤字という現実がある。生き残りをかけ、東北大などでは構内の移動手段として電動キックボードを導入、慶應義塾大学では宅配ロボットによるコンビニ商品の無人配送実験を行うなど学ぶ環境を充実させるべく力を注いでいる。

 志願者数で6年連続日本一を誇る近畿大学では、蔵書に2万冊の漫画を含む「アカデミックシアター」、さながらショッピングモールのフードコートのような食堂を相次いで整備。さらに英語ニュースが常時流れる「CNN Cafe」や日本語禁止のカフェ、卒業生のつんく♂氏がプロデュースする入学式を実施するなど、学生集めの施策に余念がない。

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 他方、年初には立命館大学の「立命館から、アメリカ大統領を。」という新聞広告が炎上。「こんな広告に莫大なお金かけるならもっと大学自体を充実させて欲しい」「私たちの学費をこんな形で使われたくない」「日本からアメリカ大統領なんて生まれるわけないだろ。こんなんで、この大学に入りたいと思うわけない」と、現役学生たちから批判を浴びた。

 また、今年4月からは低所得世帯の一部を対象に大学無償化がスタート。センター試験も「大学入学共通テスト」と名前を変えるなど、大学は変革の時期にあるが、「大学レベルの勉強ならオンラインで充分」との観点から、「そもそも大学に行く意味ある?」という意見も無視できなくなっている。

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 去年、大学を自主退学、来月からは海外の大学に編入することを決めた田原克哉さんは「生徒が授業にあんまり意欲的じゃなく、先生が“なんか意見のある人、手を挙げて”と言っても誰も反応しない。そういう状況に対して、先生もほとんど諦めている。もはや“最低限、単位が取れればいい”っていう構造になっている。日本の学生は大教室に入ったら後ろから席を詰めていく。向こうの大学は前の方から詰めていく。先生の話を遮って質問するくらい積極的に発言する。そういう所が違うんじゃないかと思う」。

 さらに田原さんは「昔の大学は勉強ができる人や勉強を究めたい人が行く特別な場所だったと思う。それが大学に行くことが当たり前になり、大学を卒業しないと就職ができない社会になってしまった。その意味で、大学は必要だと思うが、そのために誰にでも入れるように大学を用意しすぎて、全体のレベルが下がってしまっている。もう一度、大学の意味をしっかり考えるべきではないか」と指摘した。

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 実際、大学への進学理由を訪ねたアンケート調査では「学びたい学問・資格のため」が29.43%なのに対し、「就職のため」(30.42%)、「大卒の学歴を取得するため」(15.21%)、「まわりが進学するため」(5.49%)といった結果も出ている。ただ、大学4年間にかかる費用は、国立大学で約242万5200円、私立大学(平均)では文系が385万9543円、理系が521万7624円と、経済的負担は決して少なくない。

 大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は「大学からするとアンタッチャブルな話しで、やはり受験料などは結構大きな収入になる。30~40年前は4年制大学への進学率は30%台だったが、今は50%に達している。一方、4年制大学の数は20年前に比べて300校くらい増えている。国立大学の統合などの例を除いて、経営難で潰れたり募集停止になったりした大学はせいぜい15校くらい。意外と潰れそうで潰れないというのが4年制大学だ」と話す。その上で「2007年に大学設置基準が改正になり、出席が厳しくなっているので、極端な話、昔の学生のように大学に一切行かずにアルバイト三昧・サークルや飲み会ばかりでもいい、ということはない。特に夢もない、やりたいこともはっきりしない。でも大学4年間の出会いの中から面白いと感じるものを見つけていく学生も多いと思う。それを考えれば、こうした費用もそこまで高いものではないのではないか」との考えを述べた。

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 また、田原さんのような意見に対し、東京農工大学4年生の廣山晃也さんは「高校までは先生に言われるがまま、受け身で勉強しているだけでよかった。しかし大学は何をやっても自由。その中で自分から先回りして考え、仕掛けていく中で、“使える人材”になっていくと思う」と話す。「大学生という身分を得ることで、いろんなことに挑戦できる。学生だからこそ経営者に会ったり、インターンさせてもらったりすることもできる。そういう考え方もありではないか。ただ、今の大学は学問としてやることと、就職して社会に出てやることが直結しないところがある。時代の波に大学が合わせていくことも大切ではないか」。

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 「芸人になりたかったので、大学に行こうとは全く思わなかった」。そう話すのがインパルスの板倉俊之だ。それでも板倉は、日本社会で大学を出ていることの意味を実感することがあるのだという。

 「この歳になると、大学に行ってないというだけで、言い方は良くないが舐められる。例えばどぎつい下ネタを言った時、“ほら高卒だ”と言われる。仮に僕がハーバード大学を出ていたとしたら、見方はちょっと変わるのではないか。高校の段階でやりたいことを確定していて、そのために大学へ行く必要がないのなら行かなくてもいいと思っていた。だけど回り道をしてでも“大学を出ている”という、いわば国家資格みたいなものを取ることにも意味はあると思う。あるバンドのメンバーが、“バカがやってると思われるのが嫌だから東大に行ってからバンドを始めた”と話しているのを聴いて、めちゃめちゃかっこいいと思った」。

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 慶應大特任の若新雄純准教授は「入試制度と、企業がどういう人材を求めているか、ということが紐付いている。日本の大学の場合、入るまでの勉強も含めて、誰とも会話しなくてもできる内容だ。そして日本企業も、決められた時間に言われた通りに黙々とやれる能力ばかりを評価してきたのではないだろうか。一方、欧米の大学は黙っていてはダメで、議論しないといけないからこそ大変だ。ただ、日本でも学び、疑問を持ち、探求する。そして研究分野を深めていくという能力について、今は少しずつ見直されてはきている」とコメント。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏「数年前、“G大学(グローバル大学)とL大学(ローカル大学)”という議論があった。つまり旧帝大のようなエリート養成のための大学と、職業訓練校、専門学校的な大学に分けた方がいいのではないかという意見だ。これは大学人から猛反発を食らってしまったが、実際には多くの大学がL大学的になっていると思いう。そして設備にかなりの投資している割には、講師にお金をかけていない。非常勤講師の場合、授業の準備の時間も考慮に入れれば、マクドナルドで働いた方がいいのではないかと思えるほど安いのに、そのような状況がずっと放置されている。また、専門的な学びは働きながらOJTでもいいし、専門学校でもいい。一方、特にリベラルアーツ的な教養や世界観を学べるのが大学のキャンパスの価値だったと思う。それが提供できている大学が今の日本に一体どのくらいあるのだろうか。このままなら、日本の大学は無くてもいいのではないかと思ってしまうくらいだ」と話す。

 「企業側の学歴の扱いも問題だ。“大卒”がある種の資格みたいになってしまっていて、学んだことが重視されない。日本では下手すると院卒のほうが不利になる状況すらあるが、中国やアメリカでは大学院で人工知能の研究をした若者なら初任給1000万、1500万という世界だ。こうした企業の姿勢も変わらなければ、大学のあり方も変わらない」。

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 ふかわりょうは「私の時代は受験戦争、そして就職氷河期だった。“企業に入るためにはいい大学”という考え方が刷り込まれていた。しかし、それは過去のものになればいいと思う。そして、大学のキャンパスは高校卒業後すぐに行く人たちだけの場所ではなく、誰もがいつでも、何歳になっても学べる場所になるべきだ」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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