
インディーマット屈指の人気選手・木高イサミ率いるプロレスリングBASARAは、昨年いっぱいでDDTグループから独立し、単独の団体として新たなスタートを切った。シングル王座であるユニオンMAXのベルトを現在、保持しているのは高梨将弘。DDT所属の選手だが、そのスタンスは独自だ。昨年秋、ユニオンMAX挑戦表明以来BASARAにレギュラー参戦し、今年に入ると女子団体「我闘雲舞」の現場監督に就任している。
BASARAにとっては“外敵”になるのだが、高梨がこの団体の前身であるユニオンプロレスに強い思い入れを持っているのはファンもよく知るところ。11月3日のDDT両国国技館大会で関根龍一を下しベルトを巻くと、12月28日のBASARA後楽園大会(DDTグループとしてのラスト興行だった)ではイサミから悲願の勝利。
さらに1月22日、新宿FACEでのBASARA旗揚げ4周年大会では中津良太を相手に防衛を果たした。防衛回数はまだ2回だが、イサミ、関根、中津と所属のトップ3選手を破ったという結果は大きい。限りなく“絶対王者”に近い状態と言えるだろう。
メインイベントで勝利した高梨は、記念大会エンディングを締めることに。その瞬間、リングに走り込んで対戦要求したのが藤田ミノルだった。フリーの藤田だがBASARAではイサミ、関根と同じユニット「戦闘民族」のメンバー。所属同様の存在だ。それだけに「(BASARA3強が)3タテ。これはマズいぞと。BASARAは若くていい選手もいるんですけど、ここは自分が行くしかない」と挑戦の理由を語っている。
高梨の個人的な思い入れを分かった上で、他団体所属である以上はBASARA=藤田から見れば“王座流出”なのだ。ベルトがほしいとか団体を引っ張るといった気持ちが強いわけではない。BASARAは若い選手が目立たなくてはと思ってもいる。しかしここは自分がいかなくてはいけない。藤田曰く「使命感」である。ただ、藤田は高梨の実力を充分に認めてもいる。
「敵じゃなければ隣に立ちたい選手。万能型で、Mr.インディーと言ってもいいんじゃないですか。怖さはある。でもやるしかない」

(多彩な技術で中津を苦しめた高梨。最後は必殺技タカタニックを決めた)
高梨にとって、藤田はある種の憧れだった。
「メジャーとも渡り合うし、大きい選手とも軽量級ともいろんな試合ができて。こういう大人になりたい、こういうふうに成長したいってみんなが思う選手」
藤田はかつて新日本プロレスに上がり、またプロレス大賞ベストタッグを受賞したこともあるが、その時期よりも今のほうが輝いているとも高梨は語った。
実力、技量、プロとしての生き方を認め合う高梨と藤田、“Mr.インディー”と“場末のMr,プロレス”の対戦は“名人戦”の趣だ。技術と経験値を総動員しての闘いになるだろう。加えて重要なのは、やはり生き様だ。藤田はBASARAのために立ち上がった。一方、高梨も引き下がれない理由がある。
「このベルトを失ったら、元の場所に戻るだけ。それがどこかは言わねえけど、そんなのは嫌だ。BASARAのど真ん中に立ち続けてやる」
DDT総選挙で1位になったこともある高梨だが、リング上でのポジションは基本的に“名脇役”だった。チャンピオンとして中心に立ち、団体を引っ張るのは「16年プロレスやってて初めて」だ。
「まだやったことない経験があるってことは、まだ成長もできるんじゃないかって」
決戦の舞台は2月18日の新木場1st RING大会。BASARAの“ホーム”と言えるドリンク飲み放題付き興行『宴』に決まった。BASARAにとっては両国や後楽園よりも重要な場所ではないか。2.18新木場での王座戦を指定したのは藤田だった。
レスラーからの注目度も高そうなこの対戦、込められたドラマも技巧も一級品のものになるだろう。プロレスの“深さ”を堪能できるに違いない一戦だからこそ、より広く伝わってほしい。
文/橋本宗洋
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