かつて2万店ほどあった書店も、今や店舗数はほぼ半減、今年に入ってからは丸善ジュンク堂書店が京都・名古屋の2店舗を閉店すると発表するなど、大型書店までもが閉店に追いやられる事態が生じている。
東京・表参道にある青山ブックセンター本店の若き店長、山下優氏(33)は、「大型書店が減ってきた原因は、売り上げというよりも、本屋によってテナントに人を呼べてなくなっているから。渋谷の再開発のビルにほとんど書店が入っていないのもそのためだ。そういう中でジュンク堂さんもテナントとの契約が切れたということだと思う」と話す。自身もあまり本を読むタイプではなかったという山下氏。「今、刊行点数がとにかく多く、本当にこれは必要なのか、誰に対して売ろうとしているのかが全く見えない本がたくさん出ていて、むしろ少し減らして欲しいというのが書店側からのお願い。その中で、絶対に売りたいというものがあれば書店も売りやすい。そうなると、もっと効率は良いのでないか。書店は出版社しか見ていないし、出版社は作家や書き手だけしか見ていない。それも大事な事ではあるが、外がどんどん変わっているのに、なぜか文化という名の下に神聖視され過ぎていたと思う」と話す。
株式会社KADOKAWAの取締役も務める慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「実は売上が下がっていたのは雑誌と漫画だ。雑誌に関して言えば、いくらでもネットで最新の情報が検索できる今、面白くなくなったということだ。そして漫画は漫画村の影響だ。むしろ漫画村が崩壊した2019年、各社は業績を伸ばしている。一方、文芸は固定の人しか買わないし若い人は読まないが、大きな変化はなかった。そしてこの20年数年、中小書店の数は減っていても、大型書店の数は増えていた。それが急にうまく行かなかったのは、人口構成の変化と関係していると思う」と持論を展開。「ネット上に画像が山ほどあるのに、それでも何十万部も売れる写真集あるのは、編集者の意図や工夫があるから。ただ、出版社には古い人が多く、作家の中にも紙で売れているからといって、“私は電子は嫌だ”とか言うバカがいる。時代を考えろ」と一喝した。
ノンフィクションライターの石戸諭氏は「年に1冊も買わないという人は日本人が50%くらいいるといわれているが、逆に残りの半分は1冊以上買っている。そして、買い支えているのは上位数%の人たちだ。それでも僕が『百田尚樹現象』という数万字のルポルタージュを書いた『NewsWeek日本版』は、年間で最も売れたらしい。そういうものでも 刺さる企画、広がる企画をしっかり考えていけば、雑誌も捨てたものではない。スマホによって可処分時間が減るのは当たり前。スマホが楽しいのも当たり前。それでも“書店に足を伸ばしてみようかな。キオスクで買ってみようかな。コンビニに行って手に取ってみようかな”というふうに思えるものを作らないとダメだ。それは“ライター食えない論”や“新聞記者終わった論”みたいな話も同じで、“ニュースを知りたい。この話、本当に読みたい。教えて”という、客になり得る可能性のある人たちはインターネットにもいる。市場が変化している以上、そこに対してアプローチをしていかないと難しい」と話す。
立て続けにベストセラー書籍を手がけてきた幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏も、“出版不況”がネット通販や電子書籍の普及によるものだとする見方は一面的だと指摘する。「活字の本に関して言えば、音楽CDと配信の場合とは違って、今もデバイスとして紙の方が優れていると思う。要は、電子が話題になれば紙も売れるし、紙が話題になれば書店に行く時間がない人が電子で買うということ。補完作用はあっても食い合っているという感覚は全くないし、リアル書店で売れない本は電子でも売れない」。
その上で「そもそも本や雑誌を特別視するのは違うと思う。こういうことを言うと、また嫌われてしまうかもしれないが、昭和の編集スタイルで本を作り、新聞広告を少しやって、“売れなかった”“若者の活字離れだ”と言っているのを聞くと、“そりゃそうだろう”と思ってしまうSNSがあるからこそ本が売れる。特に僕の本なんて特にそうだ。だからSNS上でミクロの努力をやっていく。書店に関しても、大きく言えば“脱平和ボケ”だ。“テレビが見られない”というのも含めて、結局は既得権だったということ。映像を見るにはテレビくらいしかなかったように、字を読むには出版しかなかっただけで、プロデューサーや編集者たちがみんな死ぬほど優秀だったというわけではない。それでも新卒で入った高学歴の奴らが自分のことをクリエイターだと勘違いして、流通にあぐらをかいていた。そうしたら、映像はYouTubeから、活字もnoteやTwitterから出てくるようになったというだけ。“本読まないやつらなんて終わっている”と言うが、それはお前らの努力が足らないだけだ。読者をコミュニティ化して、1冊1500円を取って終わりにするのではなく、月額のサービスを提供するなど、色々なことが思いつくはずだ。僕も3年くらい前までは“Twitterで本?”“あいつだせえ”と思われていた。でも今、慌ててみんなやり始めていて、“動画を作らないと”とか言っている。自分たちは高尚な紙を作る仕事だから、編集者だから、と思考停止している。それは不況になるに決まっている。そんなやつ全員、滅びればいい」と断じた。
その一方、箕輪氏は「本屋そのものがだめになったとは思わない。適正に近づいているだけだ。文化というのは戦略的に見ると、すごく強い。つまり、それなりの知的好奇心を持っている人たちが集まる場所が本屋だと考えたら、そこでいくらでもサービスが展開できる。つまり、本屋で何を売るかを再定義すれば甦ると思う。教育でもいいし、コワーキングスペースにしてもよい。文化的な雰囲気を借りたいという企業にスポンサーになってもらってもいいと思う。例えば青山ブックセンターに行くまでの電信柱に企業とコラボして旗を立てられたとしたら、それはすごいブランディングになるのではないか」と指摘。石戸氏も「ABCで言えば、あそこにはこういう人たち集まるんだというイメージができている。僕も自分の本や記事を書いた雑誌が置いてあるというだけで嬉しかった。そういう場所を、あんな一等地に一から作ろうと思ったら大変だ」とした。
実際、売上が倍増しているという「文喫」(六本木)には、入場料として1500円を取る有料エリアがある。中に入ってみると、くつろげるスペースがあり、コーヒー、煎茶は飲み放題。追加料金でフードも用意されている。来店者の中には、「文喫でばったり会って、それがきっかけで結婚まですることになった。本好きには最高のデートスポット」と話すカップルも。「通常の本屋さんの2~3倍の客単価、買い上げ冊数だ。滞在時間が長くなればなる程、本と出会うチャンスが多くなり、読みたい本が積み重なっていく」(伊藤晃店長)。
また、堀江貴文氏が経営に参画した書店「SPBS」(渋谷)では、コスメやアクセサリーに加え、アパレル、文具など多彩な雑貨を扱っている。さらに奥の部屋では編集部が働いており、企画から出版、販売までを一貫して行っている。「作って終わりではなくて、届けるまでを自分たちでやりたいというか、やっぱり土地のつながりといのが本屋はすごく大きいと思う。来られた人がどんなものを求めてるいるのか、書店員が会話したり、本の売れ行きを見たりすることで直接分かる」(広報部・編集部の丸美月氏)。
山下優氏が率いる青山ブックセンター本店でも、あえて本屋と関係なさそうな“コラボ効果”を狙う。店内にアートを配置することで、普段は書店に来ない客層も集客でき、本との出会いを演出できるのではないかと考えている。さらに企業とのコラボにより、書店員では思いつかないような棚を作るなどの取り組みにより、売り上げは増加傾向にあるという。「本当に(出版不況と)ずっと言われてて、ガタガタうるさいなって(笑)」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:箕輪康介が出版業界に喝!SNSを活用しろ!
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