突然のビッグニュースに、業界が騒然となった。1月29日の記者会見で、日本を代表するプロレス団体の一つ、プロレスリング・ノアがサイバーエージェント(藤田晋社長)の子会社になることが発表されたのだ。

 DDTプロレスリングに続いてのサイバーエージェントグループ入り。しかも新体制の社長は、DDT高木三四郎社長が兼任することになった。副社長はノアのトップ選手の一人・丸藤正道が就任。また現社長の武田有弘氏は執行役員となる。

 サイバーエージェントによる全株式取得について、武田氏は「救済」という言葉を使っている。マスコミに配布された資料にも「経営の安定化」という言葉があった。

 ノアは昨年、リデットエンターテインメント社の傘下となり“名門復興”に取り組んできた。ただリデット体制より前からのマイナスが大きく、加えてブランド力アップのための投資も必要。団体を“続けるため”“大きくするため”の両面でベストな親会社がサイバーエージェントだったということだろう。

 旗揚げ当時から、ノアは激しいプロレスで知られる。一方、DDTは“文化系プロレス”だ。笑いの要素が多い試合で知られ、書店やキャンプ場などどんな場所でも闘ってみせる。サイバーエージェントは、個性がまったく違う2つの団体を傘下にしたわけだ。藤田社長の言葉を借りると、DDTとノアは「補完関係」にある。「DDTは面白い、ノアはカッコいいというイメージ」というコメントもあった。

 ファン、特にノアファンが危惧するのは、2団体が同じグループになることで“シャッフル”されるのではないかということだろう。選手の相互乗り入れが進んだり、“DDT的”な要素が強くなってノアらしさが薄まってしまうのではないかという不安だ。

 しかし高木社長は会見で「リング上にはタッチせず、経営面だけを見ます」とはっきり語っている。竹下幸之介vs清宮海斗の新エース対決などビッグカードの実現には期待したいが、それも含めてすべては現場しだい。“上”の意向でリング上の闘いをいじることはない。藤田社長が高木氏の社長兼任を希望したのも、経営面での手腕を買ってのことだそうだ。「(高木は)規模を大きくしたらもっとやれると思っています」と藤田社長。

 では、ファンの目に見える部分では何が変わるのか。最大のポイントはメディア環境だ。会見の翌日(30日)に開催されたノア・後楽園ホール大会は、DDTのインターネット映像配信サービスDDT UNIVERSEで無料生中継された。2月16日の後楽園大会はサイバーエージェントグループのAbemaTVで中継される。これまでノアはG+、プロレス格闘技専門チャンネル・サムライで放送されてきたが、これから視聴環境は格段によくなる。

 昨年からの取り組みであるSNSを使った映像配信も続行。1.30後楽園ではアクセスが集中してDDT UNIVERSEの新規登録者などが視聴できない時間帯があり、ノアSNS班がスマホ撮影の映像を急きょ、ツイッターで中継している。話題性の高さ、機動力、ノアとDDTの連携を象徴するエピソードがいきなり出てきたわけだ。

 目指すは2団体での“業界1位”。「目指さないと面白くない」と高木社長は言う。11月には2団体が2日連続で両国国技館大会を開催することも決まった。

 もちろん、これから何が起こるかはっきりとは分からない。大きな資本をバックにつけたからといって、成功が約束されているわけではないのだ。武田氏は、数字に関しては今まで以上に厳しくやっていくことになると語っている。とはいえネガティブな要素は皆無ではないか。

 変化そのものが不安につながるというファン心理はあるだろう。ただファンを安心させるためにも、サイバーエージェント体制が必要だったのは間違いない。三沢光晴や小橋建太たちが築き上げてきたノアという金看板は、これからさらに磨かれていく。

文/橋本宗洋