キラー誕生。平田樹はいいタマだ。控えめな選手が多い日本人選手の中で個性に溢れている。何よりも腹が据わっているし、覚悟が決まっている。立派なファイターで表現者だ。
計量オーバーからの勝利にあのふてぶてしさとくるから、観る側も戸惑ってしまったのか、2月7日にインドネシア・ジャカルタで開催されたONE Chmpionship「ONE: WARRIOR’S CODE」を中継したAbemaTVの視聴者コメントでは賛否が分かれた。賛否を恐れて定型になりつつある格闘技界において、賛否が分かれることを恐れることなく、自分の表現を貫ける選手がいないから、こんな存在が出てくることに喜びを感じる。この文章を書いている今もこんな存在が出てきたことに混乱しているのだ。何故ならば、こんなタマが出てくると思ってもいなかったから。
試合内容自体は彼女の持っている資質からすると1Rでフィニッシュして当然だと思うし、技術的な粗さは否定できない。ただこれは伸び代だと捉えることもできるし、この粗さでこのレベルまで駆け上がっていることを考えると彼女のピークはもっともっと高いところにある。こんなところで満足している選手ではないのだ。これは勝負師としての考え方になるのだが、勝負は甘さが命取りになることが多々ある。どんなに実力差があろうと余裕があろうと全力で叩き潰すのが勝負の鉄則だ。余裕を持つ勝負などないし、余裕を持つ勝負があるとすればそんなものはオモチャだ。だからこそラウンド中のダンスはいらないし、そんな余裕があるのだったらさっさと決着するのが勝負というものだ。わざわざ言わなくても、これから彼女はそんな世界に足を踏み込んでいくのだから身を以て学ぶことになるだろう。
体重のオーバーに関してはONEの体重とハイドレーションチェックに苦戦して計量を失敗してキャッチウエイトでの試合となった。これに関しては選手としてダメだよねって話で何も擁護する気はない。女性であることは理由にならないし、開催地がジャカルタであることも理由にならない。何故ならば対戦相手も同じ条件だからだ。この失敗を活かして次はいいコンディションで試合ができるようにするしかないだろう。人は失敗することはあるから繰り返さなければそれでいいだろう。
僕が彼女の凄いと感じるところはメンタルだ。大体の選手が計量を失敗すると申し訳ない気持ちで試合をしてベストなパフォーマンスが出せなかったり、控えめな態度になってしまったりする。それが日本人らしさなのかもしれないが、彼女はそんなところが一切ない。申し訳ないと感じる気持ちはあるのだろうがパフォーマンスから一切感じさせない。そのくらいに試合にフォーカスしているのだ。この強靭なメンタルは異常と言わざるをえない。末恐ろしい選手が出てきたものだと思う。どうしても彼女の将来に期待してしまう。
実は試合の日の昼に計量をミスしたと聞いた僕は彼女のマネージャー役にあたる人物に彼女へのメッセージを託した。ここにその内容を記すのも野暮だから内容は明かさないけれども、シンプルに二文字だけを彼女に伝えてもらうように頼んだ。彼女に伝わったのか。そっくりそのまま実行してくれた。
彼女の試合パンツを見たら弊社「青木ファミリー」のロゴ。ありがとう。おれたちはファミリーだ。あなたがこれからの格闘技を引っ張っていくんだ。
文/青木真也