「天国から地獄に落とされるような感覚」…流産や死産を繰り返してしまう「不育症」の悲しみ
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 年間90万もの新しい命が誕生している日本。しかし不妊に悩む夫婦は5.5組に1組といわれ、約50万人が治療を受けている。そして、不妊症とは異なる理由で子どもに恵まれない人たちがいる。妊娠は成立しても流産や死産、あるいは新生児死亡を繰り返し、生児を得ることができない「不育症」の患者だ。

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 国立成育医療研究センターの不育診療科の三井真理部長は「母体が原因の場合、妊娠時に血液が固まりやすくなったり、甲状腺や妊娠を維持していくために必要な機能のバランスが崩れていたり、子宮の形が通常と違っていたり、といいったことがある。また、夫婦どちらかの染色体に流産を起こしやすいことが要因の場合もある」と話すが、はっきりとした原因が分からないケースが6割以上を占めるのが現状だという。「原因不明(偶発的な流産を繰り返したと思われる方)の場合、治療を行わなくても、次の妊娠が成功する可能性は高い。原因が明らかになった場合、適切な治療を行えば、最終的には80%以上の方が出産できるとされている」。

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 一般的には2回以上の流産や死産の既往歴がある人が該当、年に数万人がその可能性があるといわれている。また、自治体によっては検査・治療の助成金制度があり、東京都の場合、今年1月からは保健医療機関での検査費用について助成(上限5万円)を開始した。

 それでも不育症の認知度は決して高いとは言えない。不育症患者をサポートするNPO法人「Fine」の松本亜樹子理事長は「聞いただけでは字も思い浮かばないくらいの認知度の低さだと思う。やはり何度も流産や死産を繰り返すということは、本人にとってあまりにも辛い体験なので、他人に話す機会がないことも背景にある。まだまだ研究段階という話を聞くくらいなので、専門的に扱う病院も少なく、患者さん自身、どこに行けばいいのかと悩んでいる」と話す。

■「先生に“私の赤ちゃん返して下さい”って言ってしまった」

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 「初めて妊娠したのが、結婚してから1年経った頃。“ああ、私お母さんになるんだな”って幸せに過ごしていました」。AbemaTV『AbemaPrime』の取材に応じてくれたASCAさん(30)は、3回の自然妊娠すべてが流産だった。「不育症」という言葉は、2回目の妊娠で初めて知ったのだという。「“また流産するのではないか”と不安になり、“流産、繰り返す”と検索してみた。そこで“不育症”という言葉が出てきた。産婦人科の先生なども教えてはくれなかった」。

 妊娠6週目で再び流産してしまったASCAさん。夫婦で染色体の検査を受けた結果、ASCAさんに自己免疫異常に該当する不育症因子が見つかったが、服薬による流産対策が可能とも診断された。そこで妊活を再開し、3度目の妊娠に至った。「心臓がすごく元気に動いているのが確認できて、“生きている。今度の子は大丈夫だ”って、涙がボロボロ出てしまった。でも妊娠10週目くらいになって、いきなり“心臓が止まっています”と言われた。病室で泣き叫び、先生に“私の赤ちゃん返して下さい”って言ってしまった」。

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 前出の松本氏は「妊娠した人のうち、15%くらいが流産するというデータもあるが、子どもを授かったと皆で喜んで、ご報告などもした後で、流産するということは、地獄に落とされたような気持ちになる。その精神的な負担を1人で抱えてしまう方がほとんどだ。それによって心療内科や精神科に通う必要が出てくることも珍しくない」と話す。

■「生きている価値がないのではないかと思った」

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 二度の死産を経験した不育症患者のtoroさんのブログ『不育日記~子どもいるけどいない日々~」には、検診で胎児が亡くなっていることを告げられ、痛誘発剤によって出産した時の心情が綴られている。

 「先生は“赤ちゃんに会ってくれますか?”と聞いた。怖い気持ちはもうなかった。“会いたい”という気持ちと“会わなければいけない”という気持ちのどちらもあった」。

 「看護師さんが先生に促され、木の小さい箱を持ってきた。箱を覗き込むと、あの子がいた。あの気持ちは今まで感じたことのない気持ちだった。愛しいような、悲しいような、罪悪感なのか、感情が何もないような。とっても小さい我が子だった」。

 「赤ちゃんをじかに抱っこすることもできた。22cm、250gの小さな赤ちゃん。小さすぎてうまく抱くことができない。“ここまでしか成長させてあげれなくてごめんね”。心の中で赤ちゃんに謝った。ポロポロ涙は出ていたが、声に出してしまうともっと大泣きしてしまうと思って声は出せなかった」。

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 3度目の流産についてASCAさんは「赤ちゃんの側に染色体異常があり、9~10週目くらいで亡くなってしまう可能性があったということが判明した。流産後に検査したおかげで、薬を飲んでも防げなかったということが分かった。検査案内してくれないお医者さんや病院も多いので、それは大きかった」と振り返るが、それでも「自分が殺してしまった」という思いを抱くようになる。そして精神的に追い詰められてしまい、重度のうつ病に罹患する。

 「生きている価値がないのではないかと思った。“3人の子どものいるところにいきたいな”って思うようになった。松本さんがおっしゃるとおり、天国から地獄に落とされるような感覚だ。特に不育症の患者さんなどは、そういう体験を何度も繰り返すので、周りの同年代の女性と自分を比べて、“何かおかしいのかな”と感じてしまう。また、妊娠や出産の報告を聞いた時には、どうしても“羨ましいな”と思ってしまうし、心から“おめでとう”と思えない。そういう自分がすごく嫌になる。本音を相談しても、“心が狭い”“性格が悪いから流産する”といったような人格否定の言葉を浴びせられることもある。私のように、うつになったり、自殺がよぎったりした不育症患者さんや流産経験者の方は多いのではないかと思うが、やはり流産や死産は世間的に軽視されているような傾向があると思う」。

■「喧嘩したこともあった」精神的負担は男性側にも

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 そんなASCAさんを見続けてきた夫は「悲しい気持ちは同じくらいあるが、完全に理解してあげるのは難しい部分もある。カウンセリングでも言われたが、解決するというより、話を聞いてあげることが一番大切だし、それが男性側にできること。悩んでいる姿を見ているのもつらい。そこまでして本当に子どもが欲しいのかどうかも考えないといけない」と明かす。ASCAさんも「自分の身体で流産を経験するわけではないので、どうしても温度差はあったし、喧嘩したこともあった。ただ、私が通っていた不育症の専門外来にメンタルケアの外来が併設されていて、“夫婦揃って話をしよう”とおっしゃって下さった。その指導の中で夫が気づいたという面もある。しかし、そういった医療機関は多くないと思う」と指摘した

 今もうつ病の治療を続けているASCAさんだが、toroさん同様、少しでも不育症の実情を知ってもらおうと、自らの体験をブログやTwitterで発信している。「妊娠すれば出産できると思っている方がすごく多いと思うが、それが全然当たり前のことではないということをお伝えしたい。そして、私は3回流産しているが、子どもが3人いる、“私の人生はもう私だけのものではない”という感覚がある。自殺をするのを止めたのも、3人の子どもたちが“止めて”と言ってくれているような気がしたというのもある。せっかく自殺を思いとどまったので、生きているうちにと思っている」。

 番組出演についても「これを機に、不育症というものがあるということについて皆さんに知ってもらえればと思う」と語ったASCAさん。「子どもという存在は、本当に奇跡ですね」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:不育症の当事者に聞く 子どもという奇跡

不育症の当事者に聞く 子どもという奇跡
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