東京・中野にある立ち飲みバー「アバスタンド」では、大型ディスプレイに映したCGキャラクターが客とコミュニケーションを図っている。“中の人”は全国各地にいる40人ほどの店員で、性別や年齢も様々だ。いわば流行りの「リモートワーク」でもあり、アバター店員のてんまさんは仕事の合間に家事をしているという。
また、中には人とうまく繋がれないという特有の悩みを持った人や、若い世代と交流する機会が少ない人にとっては、楽しくコミュニケーションを取るきっかけにもなっている。アバター店員のジョージさんは、取材したタレントの池澤あやかに「お姉さんキレイね。でも私、女に興味ないの、ごめんね。実は対面でいきなりお話しするのがちょっと苦手だったりするの。アバターでお話しする時は接客させていただいているから、このキャラでもう1人の私が出るみたいな」、福岡から接客しているアバター店員の博多マルコさんは「若い人たちと接して元気をもらっている。仕事を辞めてからは人とあんまり交流がなくなって、どうしてもこう籠ってしまうから。高齢者も前に進まなきゃ」と話す。
前職が結婚相談所だったというアバター店員のりんじーさんも、普段は主婦だという。「ただ家事をやっているだけの毎日だったので、新鮮でいいアルバイトができているなと思う。やはり直接顔が見えていると外見で人柄も判断されてしまい、しゃべりにくいこともある。顔が見えていないことで話しやすいことがたくさんある。長い方だと、もう6時から11時までいらっしゃる方もいる」と楽しげだ。
店のオーナーでアバターを用いたコミュニケーションツールの開発を行っているHEROES株式会社の高崎裕喜代表は「人の目を見て話すのが苦手な方は結構いらっしゃるが、ここでは会った瞬間に友達のような感覚で本音で話すことができる方も多い。オープンからコーヒー1杯で2時間、3時間と身の上相談をし、スッキリして帰って行かれる方もいる。予想以上でびっくりしたことは、女性のお客さんが多いということ。男性の場合はナイトマーケットで会話できる場所がたくさんあるけれど、女性が気楽に、しかも相手のことを意識せずにしゃべれる場所がないんだという声も聞いている。いわゆる性的な話も含めて、深い話をされる方も多い」と話す。
「今のSNSでのコミュニケーションはテキスト化している。直筆の手紙をもらった時には文字で相手を想像することもあるが、SNSではみんなが同じフォントの文字を見ているので、コミュニケーションに何か問題が出てくるのではないかという思いがある。そこで私は世の中にオーラルコミュニケーションを戻したいと思った。生声でやっているのもそれが理由で、喋り方、ピッチによって人の個性が表現される。それによって、人々が深い対話をする社会に戻せないかなと。また、最近はコンプライアンスだの、言いたくても言えないなど、実は不安や悩みなどがどんどん言えない社会になっていっているような気がする。SNSも繋がっているからこそ言いたくない人にまで繋がる危険がある。だからこそ、素直にポンと言えて、言ったけど、うまく繋がらなかったら“はい、おしまい”というような社会もありじゃないかなと思う」。
現在は“大赤字”だというこの事業が、市場を作る、そして次の事業への足がかりとして、手応えを感じているようだ。
取材した池澤は「無機質な会話になってしまうのかなと思っていたが、声は地声だし、中の方がとてもフレンドリーなので、思った以上に会話が弾んだ。というのも、初対面の方といきなり会うとすごく緊張してしまうと思うが、アバターだと匿名性が高くなる。身の上話などもちょっとしやすくなるような気がする本当にお酒を飲んでいて楽しかった。ある方なんかは“LINEPayでちょっとチップちょうだい”みたいな感じで出してきて、現代的だなと思った」と振り返る。
利用客からも、「表情が見えていないので逆にいいのかなと思う。愚痴を言ったりすると相手のことを嫌な気分にさせているんじゃないかな?などと思うし、言いやすいと思う」と、リアルな表情が見えない方が話しやすいという声が聞かれた。一方、「何を話していいか分からないし、やっぱり表情が分かった方が話しやすい」「目を見て話すと、なんとなく気持ちが上がっているのか下がっているのか判断できるが、これだとそれが何かつかめないな」と、やはり表情は必要だという感想を抱く人もいる。
アバター店員たちにもそうした感覚はあるようで、「強引な態度や遠慮のない口調になる場合もあり、逆にコミュニケーションがとりづらくなる」(てんまさん)、「ちょっと普段言わないような強い口調を言ったら、お客さんからも強い返しがくることもある。こっちが丁寧に接していたら、そんなに強く強引な態度を受けたことはない。お酒を提供している店なので、酒癖が悪い方などはたまにはいらっしゃる」(りんじーさん)と明かす。
こうした点について高崎氏は「自分が話したい不安に思っていることを喋って心地いいと思う人と、いかに分かりやすくマッチングできるか、相性よくマッチングできるかというところが、このアバターシステムでは今後必要になってくると思う。そういったところを開発して評価しないといけないと思う」とした。
自分の分身、いわゆる「アバター」によって、障害者など行動が制限される人が遠隔操作でショッピングできるロボットや、いわゆる「ライブチャット」のアバター版も登場。VTuberについても、身バレやストーカー被害などのリスク回避に繋がある側面もあるという。
VTuberの由宇霧さんは「最初にお伝えしておかなくてはいけないことだが、わっちがやっているVTuberという文化はまだまだ発展途上で、定義がない。VTuberの中にはアバターではなくて、そこで本当に生きているんだということを大切にしている子もいる。だから他の子を見た時“アバターなんでしょ”と言わないでいてあげてくれるといいかなと思う。わっちはやはり現実世界ではしがらみなどもあって、自分がしくじったエロの話ができなかった。それがまさにバーチャルのおかげでできるようになって、本当に楽しい」と話す。
エッセイストの小島慶子氏は「身体性みたいなところが課題になってくるのかなと思う。作家の平野啓一郎さんが“分人”という言い方をしているが、自分の中には違う自分が住んでいる。そこにある種バーチャルな肉体というが与えられて、リアルな自分と併存できるようになるという意味では面白い」と指摘。幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「もっとテクノロジーが進化すると、“リアルとは何か”ということが曖昧になっていくような気がする」とコメントした。
VR事業も展開するドワンゴ社長の夏野剛氏は「VR空間に入る時、自分が何の姿になるかに思考が現れる。手足を長くする・短くする、それからあえてぽっちゃりにする、すごいかわいい女の子になる、変なおじさんになるなど、それ自体がコミュニケーションの手段、自己表現だ。むしろ身体性は高まっていると思う。また、2ちゃんねるなど、日本では匿名の文化があるが、それによって本当のことや真実をよくしゃべってくれる側面はあると思うし、日本発で新しい世界を作れるんじゃないかなと思っている。そもそも人に本当のことを喋りたいという思いが人類にはあると思う。例えばキリスト教の中には教会の中で本当のことを喋る告解というものがあるが、終わったあとは本人も神父様も忘れるのがルールだ。このアバスタンドの取り組みも、秘密を漏らされた時のショックは大きいと思うので、そのあたりをうまくやればビジネスが広がるんじゃないかなと思う。僕はその先に、双方向ともアバターになった時にどういう世界が起こるかにすごく関心がある。かつて流行ったテレクラなども両方アバターみたいなものだが、とても未来感がある」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:顔が見えないからこそ話せる内容も アバター店員が接客する時代に!
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