クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から陰性と判定された乗客の下船が始まった19日、前日に船内に入った感染症の専門家・神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授の“告発動画”がYouTubeにアップされ、国会でも議論される事態となった。
動画で岩田教授は「グリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別かつかない」「聞いたら、そもそも常駐してるプロの感染対策の専門家が一人もいない」となどと指摘、「やってるのは厚労省の官僚たちで、私も厚労省のトップの人に相談しました、話しましたけど、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ないと」「専門家が責任を取って、リーダーシップを取って、ちゃんと感染対策についてのルールを決めて、やってるんだろうと思ったんですけど、まったくそんなことはないわけです」と厳しく批判している。
これに対し、現地で対応にあたっている橋本岳厚労副大臣は「私の預かり知らぬところで、ある医師が検疫中の船内に立ち入られるという事案がありました。」「お見掛けした際に私からご挨拶をし、ご用向きを伺ったものの明確なご返事がなく、よって丁寧に船舶からご退去をいただきました」と、暗に岩田教授を批判、厚生労働省幹部も「感染症の専門家がいないはずがないし、きちんとエリアの区分けもされている」と反論した。
一方、船内を調査した岩手医科大の櫻井滋教授は「ゾーンは分けられていたが医療チームや食事スタッフ等、間を動かざるを得ない存在がいた」「知る範囲ではDMATは事前に感染対策の指導を受けてなく、リスクが高い状態だったかもしれない」、船内で対応に当たっている国際医療福祉大学の和田耕治教授は「ここからは感染の可能性があるレッドゾーン、こちら側はグリーンゾーンと明示はしていなかったが、ここからは安全区域といった区域は分けて現場では対応して、入る前には必ず手洗い、防護服はここで脱ぎましょうなど、感染を中に入れないための方策はそれぞれの場所で講じていた。ただm全ての現場で課題があるわけで、それに関して建設的に具体的な案を頂ければ、いろんな形で反映できると思う」と話している。
その後、岩田教授は野党議員たちとテレビで会談、TBS「news23」などテレビへの電話出演などもこなしたが、夜になり、事情を良く知る沖縄県立中部病院感染症内科の医師で、厚労省技術参与の高山義浩さんがFacebookに長文の説明文を投稿。また、岩田教授は20日になり「これ以上この議論を続ける理由はなくなった」「懸念していたゾーニングの環境がいい方向に改善された」としてYouTubeから動画を削除した。
北京でSARS、シエラレオネでエボラ出血熱の感染拡大防止に当たった感染症の専門家の“告発”に、ネット上では様々な意見が飛び交った。19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演したナビタスクリニック理事長の久住英二医師は「専門家同士で言ったの言わないだのと、水掛け論で議論している場合ではない。そんなことに時間を費やすのではなく、こうすべきだったということができてないのであれば、改善すればいい。建設的な意見を出してもらったなら、厚労省も“俺たちのやり方が正しいんだ”と突っぱねるのではなく、一緒に仲間になってやるべきだ。内輪揉めみたいなことをしていても何も生まれない。非常に残念だ」と話す。
その上で久住医師は「感染症の専門家といっても、ウイルス、細菌、集団感染のコントロールなど、専門領域がいっぱいある。つまり感染症の専門家はいたのはいただろうが、岩田先生が見た範囲では、検疫、感染者がいる集団をコントロールするような専門家がいなかったと感じたのではないか。ただ、今回の感染症とエボラを同様に論じるのは的を射ていない。また、発病している人からしかうつらないのであれば封じ込めができるが、今回の感染症の場合、ほとんどの方は健康だが、調べてみるとウイルスがいることが分かるという状況。だから感染の可能性がある方々を感染症の人がいるところに閉じ込めレッドゾーンとして扱ってしまえば、その中でどんどん広がってしまう。やはり最初からきっちりとゾーンを分けることが難しかったのかなということと、3700人もの人が乗っている船舶の検疫の経験がないので、今になって至らなかったこと、“ああすればよかった”ということがどんどん出てきているのだと思う。岩田先生も現場にいる方々が一生懸命頑張っていることを否定しているわけではないと思うし、やはり全体を管理する人が彼の意見を取り入れ、方法を変えていくことがこれから求められているのではないか」と指摘した。
実際、クルーズ船の乗客からは、船内隔離が始まった日から起算して潜伏期間とされる2週間が経過してから陽性が確認された人が出ている。一方、クルーズ船から下船した乗船者たちのうち、陰性の場合はそのまま帰宅、数日間は健康状態を電話等で確認しつつも、日常生活を戻ることになっている。
この点について久住医師は「検疫の期間中に新たに感染したと考えなければ説明がつかないし、下船された方々の中からも一定数の方がこれから発病することになると思う。東京都内でも感染している方は見つかっているし、すでに日本の中には一定のパーセンテージで感染者がいると考えられるので、今更クルーズ船の方々だけを特別視する必要はなくなってきているということだ。ただ、感染しても無症状の方、軽症で済む方がほとんどなので、一部の重症化する方々をきっちりと診断し、適切な治療をする、あるいは有効性があるかもしれない薬の臨床試験にエントリーしてもらうなど、命を失うことがないように注力していくということだ」と説明。
「ただ、医療従事者の感染防御策は全く打てていない。今日も診察した患者さんに“コロナじゃないですよね?”と聞かれたが(笑)、初期症状では分からず、厚生労働省の“受診の目安”も目安でしかない以上、多くの方が感染していることを知らずに普通の医療機関に行く状況が必ず起きてくる。その中で、どうやって安全に医療を提供するかが問題だ。すでに中国ではオンライン診療を取り入れているが、それができれば他の患者と時間を分けて聴診や触診を行うことができ、感染のリスクも下がる。専門家会議からはそうした対策についてが全く伝わってこない。検査についても、現在は行政が行うものになっているので、あくまで役所、保健所の判断だ。必要だと思っても医師の裁量で行うことはできない。保健所としても現場の医者が必要と言ってるならそっちの方が正しいという話になるのに、電話で聞き取りして判断しろと言われて辛いだろう」と語っていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:”ここまで酷いとは”医師の告発動画が賛否
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