2月28日にシンガポールで開催されるONE Championship「ONE: KING OF THE JUNGLE」。新型コロナ・ウイルスの感染拡大を受けて無観客試合での実施を発表し、社会的にも注目を集めているイベントに、44歳の秋山成勲が参戦する。
8カ月前、4年ぶりの総合格闘技への復帰戦でマレーシアのアギラン・タニに3-0の判定で敗れた秋山。43歳での再挑戦、しかも自身より20歳も若い新進気鋭の選手との対戦。年齢やブランクといった言い訳を抜きに、愚直に戦いに挑んだ「格闘技ストーリー再始動」に試合後、同じくONEで活躍する青木真也は「彼の必死に戦った気持ちが伝わりました。ちゃんと(身体を)つくってきたしノレる。勝つことに必死だった」と健闘を讃えた。
そんな秋山が8カ月ぶりとなるシンガポールでの復帰戦に向け、近況や過酷な身体づくりの舞台裏、さらに格闘界で物議を醸した“過去の事件”についても心境を明かした。
練習中に右足を負傷したことを告白しつつ、試合に向けて徹底的に身体をイジメ抜く秋山は、いつにも増して身体が動いていることを実感しているようだ。一方で「もう一段階上がっていこうという時に足を怪我してしまった。若い頃ならここからもう一回上がれたのが、上がれないのは年が引っ張っているのかな……」と悔しさも。とはいえONEとの契約が続く3年後の47歳までは挑戦し続けることを断言。さらに「できるのであればその先も」とモチベーションは高い。
ONE契約選手の中で最年長にあたる秋山は己を磨き、挑戦を続けているが、日本の格闘ファンの間では未だに、2006年、桜庭和志との試合での失格処分を引き合いに出したアンチコメントが多い。当時厳しい処分を受け、すでに14年が経過。その間にアメリカUFCに9年間参戦、昨年からONEへと戦いの場を求めてきたが、「秋山=ダーティー」というイメージを払拭した人もいれば、未だに引きずっている人が少なからずいるのも事実だ。
秋山はそんな「過去の事件」やアンチについても「自分がそのことについて何かしゃべると、どっちにしろ自分のことを悪く思う人たちは“またコイツ”となるし、そのことについては、自分がやったことなので申し訳ない気持ちでいっぱいです。やったことは仕方がないし、申し訳ない。だから、どうやって話していいか僕もわからないです」と複雑な心中を明かす。
前回のONEの試合でも、解説の青木真也が秋山の戦い振りとその本気度について「汚いことをしてでも勝ちたい。それくらい勝つことに必死だった」と表現した。ニュアンスとしては、ローブローに与えられるインターバルなど、ルール内で使えるものを全て使ってでも、勝ちに拘る泥臭さを表現した言葉だったが、前述のようなアンチと言われる人たちには火に油を注ぐようなコメントとして捉えられてもいる。秋山は、そんな自分を取り巻く状況について「自分を批判するアンチの方々にも、自分の試合を観ていただけたら」と呼びかけた。
今の秋山は抗えない加齢や過去の悪評をも受け入れ、付き合いながら肉体を作り上げ、その中で戦う楽しさを見出している。多くは語らないが、その言葉からは「生き様を表現するのはあくまで戦いの場」というメッセージも感じ取ることができる。
今回の対戦相手はジェリフ・モハメド(エジプト)。前回は1階級上のミドル級でエントリーしていた一回り大きな選手だ。「デカくて力が強いという印象。気を抜くと持って行かれるので気を引き締めてやらないといけない選手」と警戒しつつも「ボロボロになってでも勝ちたい」と力強く語った。
さらに自身の仕上がりの良さに手ごたえを感じたか、「今はウェルター級かライト級、どっちでもいけるようにしているんです。(ライト級で)青木くんとやれる時も来るかも分からないですよね」と、さらなる戦いへの意欲も。格闘への飽くなき追求と達観の境地に到達した44歳、秋山成勲が“生き様”を表現するリングに注目したい。