手塚治虫AI開発者「安易に“よみがえる”と言ってはいけない」 “AI×漫画”の未来に赤松健氏「望むのは作画の補佐」
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 「まだ実感はないが、何十年か経った後にあの発表から(未来が)こうなったと思うような、AIの発展があるような気がする。僕らがやったことは大したことじゃないかもしれないが、とりあえずこれが“一歩”になった」

 こう話すのは、漫画家・手塚治虫の長男・手塚眞さん。前代未聞となる、AI技術を使って亡き父の“新作漫画”に挑戦した。

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 日本初の長編テレビアニメとして大ヒットした『鉄腕アトム』をはじめ、『火の鳥』『ブラック・ジャック』などの名作を生んだ手塚治虫。日本漫画史の礎を作った天才が、この世を去って約30年。もし、現代に生きていたらどんな未来を描くのか。

 そんな手塚漫画に出てきそうなプロジェクトが半年前に始動。そして27日発売の『モーニング』に、“手塚治虫AI、それは可能か、不可能か。”と題した漫画『ぱいどん』が掲載された。描かれているのは、管理社会となった2030年の東京。記憶をなくしたホームレス哲学者の「ぱいどん」が、小鳥ロボットの「アポロ」とともに事件を解決すべく立ち向かう物語となっている。

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 物語の核となる「ストーリー」と「キャラクター」の原案は、手塚漫画の過去65作品などを学習したAIが生成。それをベースに人間が内容を膨らませ、「コマ割り」や「セリフ」を加えている。

 最も困難だったのは「キャラクターづくり」だったという。まず、開発チームは『ブラック・ジャック』や『三つ目がとおる』など、膨大なキャラクター画像をコンピューターに読み込ませ“手塚治虫らしさ”をAIに学習させる。

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 しかし、AIが作り出したのは手塚治虫らしさとはかけ離れた、もはや顔とは言えないようなグロテスクな画像ばかり。実は、手塚治虫の漫画は正面を向いた顔が極端に少なく、AIが学習して新しいキャラクターを作り出すにはデータが圧倒的に不足していた。開発チームは1カ月間試行錯誤を繰り返したものの、全く答えは見つからない。

 AIの限界なのか?――プロジェクトは暗礁に乗り上げたが、突破口となったのは人間ならではの逆転の発想だった。開発チームが数十万枚という人間の画像で目・鼻・口といった人の顔の構造を学ばせたAIに、新たに手塚治虫のキャラクターを学習させたところ、手塚治虫らしいキャラクターが見事に生成されたのだ。

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 「扉絵を見た時は嬉しかった。『これこれ』という感じはした。手塚治虫の“新作”だけど見たことない、不思議な漫画だなという感じ」(手塚眞さん)

 AIやロボットなどテクノロジーの進歩による人類の繁栄と、ディストピアを描き続けた“漫画の神様”手塚治虫。最先端のAI技術とクリエイターが協力して、自身の死後に新たな作品が作られる。手塚治虫はそんな未来を想像していたのだろうか。

■プロジェクト参画教授、漫画家と考える“故人の新作”

 はたして、AIに人の心を動かせる漫画は描けるのか。27日放送のAbemaTV『けやきヒルズ』では、漫画家とAIの開発者とともに考えた。

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 漫画を作る過程でAIが作り出した、突拍子もない作画やストーリー。それらについて、今回のAI開発に携わった慶應義塾大学理工学部の栗原聡教授は「確かにAIが出したプロットの中には奇想天外なものもあれば、普通のものもあった。しかし、AIが生きていると仮定すると『これは突拍子もないものだ』と思っているわけではない。僕らが物事を想像・発想しようとする時は悪戦苦闘するが、AIはプログラミングに従って出しただけであって、その中にたまたま人に引っかかったものがあったという、実はまだそれだけのこと」と話す。

 また、AIがプロットの製図に使ったのは「どちらかというと古典的な方法」だといい、「AIを使って自然な文章を作るといったことが今賑やかだが、僕らがやりたいのは“手塚治虫的なシナリオ”を生み出すこと。僕らができることは手塚治虫的なストーリー展開とはどういうものなのか、その素となるものの抽出。例えば、物語はランダムにあるのではなくて、起承転結のようにパターンがあるんだと。そのパターンに則っていれば、ある程度適当になったとしても物語としては一貫性があるだろうと期待して、人が普段楽しむ展開に即してあらすじの素を出そうと進めた」と説明した。

 一方、『魔法先生ネギま!』などの漫画家で日本漫画家協会理事の赤松健氏は、AIによるストーリーとキャラクターの原案作成がビジネスになると期待。「出版社が欲しているのは、キャラクターデザインと大体のあらすじ・プロット。この2つがあるのは意外とビジネスに結びつくのではないか。今回は手塚漫画だが、いかにも売れそうな流行りの絵柄・キャラクターと好かれそうなストーリー構成が出てきたら、勝ったも同然」と語る。

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 では、AI×漫画の今後についてどのようなことを望むのか。赤松氏は漫画家の意見として「自動彩色」をあげ、「海外に対する訴求力はカラー漫画の方が強いので、AIで今の白黒漫画をカラーにできれば素晴らしい。あとは背景を自動で仕上げてくれたらすごく楽。現場の漫画家は作画の補佐を望んでいる」と明かした。

 昨年の大晦日の『NHK紅白歌合戦』では、AIの美空ひばりさんが登場したことが話題を呼んだ。故人を“よみがえらせる”ということに賛否の声もあったが、この点はどのように捉えているのか。

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 栗原教授は「僕らは“よみがえる”“新作”といった言葉は安易に使ってはいけないと思っている。故人・亡くなった方のデータから“らしさ”を取り出すことは、技術を使えば可能。しかし、故人のDNAを我々が解釈しその人の気持ちになって作るということで、今回の漫画の作者も『TEZUKA2020』というプロジェクトになっている。認知されるかどうかはわからないが、手塚治虫を愛するみんなが作り上げていく形で定着していってくれれば」とプロジェクトの趣旨を示す。

 また、故人がライバルになる可能性について赤松氏は、「ちょっとおこがましいが、ある種夢を見ているような感じだ。今将棋はAIの方が強い時代になっている。そういう形でAIの方が面白い漫画を描けるようになったら、怖いけど楽しくもある」と期待を寄せた。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

映像:『ぱいどん』制作の過程

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