音楽教室からの著作権料徴収は“当然”!? 批判浴びるJASRAC…デジタル時代のあり方は
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 新型コロナウイルスの影響によって、オンラインでのレッスンを余儀なくされている、おのうえピアノ教室(神奈川県)の尾上繭子さん。不安の種はもう一つある。それが、先月末に示された、音楽教室などが日本音楽著作権協会(JASRAC)を相手取った著作権訴訟の一審判決だ。

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 裁判の主な争点は、音楽教室での演奏が、著作権法に定める“公衆に対する演奏”に当たる否かということだった。同法22条では「著作者はその著作物を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する」とされているが、音楽教室側は、利用主体は講師と生徒であり、個人レッスンや10人程度のグループレッスンはこれにあたらないと主張。しかし東京地裁はこの訴えを棄却。生徒は不特定多数の公衆にあたり、JASRACが音楽教室から著作権料を徴収することを認めた。

 原告側はこの判決を不服として控訴したが、尾上さんはAbemaTV『AbemaPrime』の取材に「いずれ個人教室も徴収することになっているので、レッスン料の相場が上がることによって入会者が減ったり、音楽離れが起きたりしないだろうか」と心配している。

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 この問題を取材してきた朝日新聞の赤田康和記者は「著作権法22条の解釈では、1人カラオケをやるのも、ダンス教室でCDをかけるのも対象になっている。一方、38条では、たとえば親が子どもの前で演奏するような場合は“非営利・無料・無報酬”ということで認めている。確かに、大勢のお客さんに演奏して聞かせる場合はわかる。しかし、なぜ音楽教室の中で生徒が練習するだけでも著作権料を払わなければいけないのか、というのが一般の感覚だと思う」と話す。

 「JASRACとしては、楽器販売をメインにしながら音楽教室もやっている大手事業者を徴収対象にしたいと言っているが、厳密にはホームページなどで生徒を広く募集している個人教室も徴収対象にしたいということも明言してきた。そこがJASRACの“真面目”な部分だが、街の音楽教室からも取ってしまうのかという印象を与えている。そもそも著作権法は、使う側の便利さも確保した法律。第1条には“文化の発展を目的とする”と明記している以上、それを損なうような保護をしてはいけないことになっている。その意味では委縮効果というか圧迫感みたいなのが出てしまうと良くないし、歯止めのような部分がやや弱い」。

■批判に曝され続けるJASRAC

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 2018年に映画音楽の著作権使用料値上げを発表した時には「映画館離れが加速するだけ」「著作権を振りかざし文化を殺す行為」、2019年に音楽教室の実態調査のために生徒として調査員が潜入していたことが報じられると「誰かJASRACに潜入調査してやれ」と言われるなど、常に厳しい批判に曝されてきたJASRAC。今回の訴訟をめぐっても、ネットでは「そのうち学校の授業で使う曲さえ著作権払えって言いそう」「金の亡者」「他人の褌で相撲取ってる感半端ない」といった言説は後を絶たない。

 しかし、文部官僚時代の1970年に著作権法制定に携わり、後にJASRAC理事長も務めた加戸守行・元愛媛県知事は「やはり公に不特定の人を対象にするということは、1人であっても、知らない人が応募して入ってくるピアノ教室も公衆だろうという感覚で法律はできている。ヤマハとかなんとか、それだけ儲けているところは恥ずかしくないのか。日本文化の恥だ。そし、今回の判決についてドイツやフランス著作権関係者に話をすれば、“20世紀の話だ”と笑われるだろう。つまり、JASRACの国民に対する説明努力が足りないということだ。一方、国民の側も、JASRACがどういう役割を果たしているのかを十分に理解していないから、こういうことになる」と話す。

■外国からの“防御手段”としてスタート

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 JASRACは作詞家や作曲家などから著作権を預かり、その利用料を徴収する「著作権管理団体」だ。1939年、大日本音楽著作権協会として設立され、2019年4月1日現在、信託契約数(作詞・作曲など)は1万8358件、管理作品数420万曲(国内・海外含む)に上る。

 「もともと日本人には著作権という概念がなく、開国後、欧米先進国と条約を結んだ時に、治外法権を押し付けられた。悔し涙にくれながら、何とかしてくれと泣きついた相手が当時の大英帝国。その時に、日本も特許権や著作権に関するベルヌ条約に入り、文化を尊重するならば認めてやろうということで、1899年に加盟した。だからその後も“入りたくもないのに押し付けられた”という思いがあり、“著作権フリー”に近い状態が続いていた。しかし昭和初期、ドイツのプラーゲという人物が著作権団体の代理人としてやってきて、“ワーグナーの著作権料を払え。そうでなければオペラのコンサートができなくなる、NHKも放送させない”と、法外な料金をふっかけた。旧内務省としては、そんな暴利をむさぼるような奴はダメだということで、団体をつくり、そこに使用料を申請させて、外国の作品も安い料金で使えるようにしようとしたのが音楽著作権協会だ。つまり、もともとは外国の著作権者や仲介人、業者にべらぼうな料金を取られないようにしようという防御手段からスタートしたものだ」(加戸氏)。

■「制作者にとってはありがたい存在」

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 実際、ボーカロイドを活用した楽曲を制作してきた“ボカロP”の40mP氏は、著作権者として「批判は行き過ぎで、JASRACの存在はありがたい」と話す。「ボカロ曲がCD化されたり、カラオケ配信されたりと、商業的に使われていたにも関わらず、JASRACに登録していなかったがゆえに使用料が入ってこなかった時期があった。言ってしまえば悪者役になってると思うが、音楽はタダでは使えないということが人々の中に植え付けられているという意味では、作家としてはありがたい」。

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 アーティストを支援している音楽系IT企業ワールド・スケープの海保けんたろー代表も「自分が作った曲が全国の音楽教室で教材として使われるというのは嬉しいが、それで1円ももらえないとなったら、それはおかしいと考えるだろう。その意味では、僕も今回の判決は妥当だと思う」と話す。

 「弊社のフリクルというサービスに登録しているアーティストにはJASRACに登録せず、権利を自分で持ったままという人も多い。ただ、それは一見いいことのように思えるが、使う側と著作権者がいちいち交渉しなければならないということでもある。その意味では、自分の作った曲を広めて、お金に換えてくれるJASRACはありがたい存在。それがここまで叩かれているのか疑問に思うくらいだ。広報下手。公明正大にやっているというアピールをもっとしてくれれば、世間の印象も変わるはずだ」と指摘した。

■新たな選択肢も登場

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 ただ、作り手の中には、JASRACのあり方に疑問を呈する人たちもいる。「JASRACから音楽を守る党」設立準備会の工藤尚規氏は「何をやっている組織か見えづらく、徴収したお金をどう風に分配しているのかも見えづらい」と訴える。

 こうした声に対し、JASRACは「個々の委託者の信託財産の額などの情報を委託者本人の了解なく第三者に開示したり、公開したりすることはできない。音楽著作物の“公正な利用”は、音楽文化の発展に寄与するものが、同時に“著作権の保護”を図らなければ、文化の持続的な発展を実現することはできない」と反論しており、加戸氏も「放送使用料なら何%、演奏使用料なら何%、録音使用料なら何%と比率も決まっていてオープンで、それぞれ手数料も決まっている。裁量の余地のない処理の仕方だ」と話す。

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 赤田記者は「手間暇のかかる分野の手数料は25%と高く、逆にテレビ局から取る場合は低いといった具合に違いはあるが、丸めると平均12%くらいで、年間1150億円くらい集めているうち、140億円くらいを手数料としている」と説明した。

 他方、40mP氏は「ネット上での使用に関してはできるだけ自由に使ってもらいたいという気持ちがあるが、JASRACに信託してしまうとプラットホームが制限されるなど、自分の意図しないところでの制約が出てきてしまう。その点、『NexTone』を選択することが多い」と話す。つまり、作品をJASRAC以外の著作権管理団体に委託するミュージシャンも増えているのだ。

■JASRACが要らなくなる未来も?

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 今月末に株式を上場することが決定している音楽著作権管理事業者「NexTone」について、海保氏は「2001年の法改正で、JASRACの競合を作ることができるようになり、JRCとイーライセンスという団体ができた。これを2016年にエイベックスが買収するなどし、NexToneになった。競合として頑張ってはいるが、JASRACの抱える楽曲の規模に比べればまだまだ少ない。ただ、JASRACがここ2、3年、手数料率を下げたり、デジタル化したりしているのは、やはりこうした競合が出てきた影響だと思う。IT化も進んだ今、利用の際のカスタマイズ性を高めることをJASRACには求めたい」と話す。

 赤田氏も「NexToneは、ある程度自由な利用ができるように進めている団体。JASRACの肩を持つわけではないが、柔軟な利用の仕方ができるよう、少しずつ変わろうとはしている。やはり全体として、作り手側が使い方を選べるような形に変わっていくと思うし、皆が喜んで直接お金を払ってくれるのなら、そもそもJASRACのような団体はいらない。逆に言えば、デジタル技術が進むことで、JASRACが要らなくなる未来も出てくるかもしれない」語った。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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