「信頼を失えば、正しいことを主張しても響かない」熊谷俊人・千葉市長に聞く新型コロナウイルス“独自”対策とリスク・コミュニケーション
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 専門家会議の分析・提言、それを受けた政府の見解と要請。そして、対応に追われる自治体。新型コロナウイルスという見えない敵を前に、政府や全国の自治体が手探りで対応を続ける中、注目を集めてきたのが千葉市の熊谷俊人市長の独自対応だ。2009年当時、現職最年少、政令市長としても史上最年少の31歳5ヶ月で千葉市長に就任。Twitterでの情報発信も、市内外から高い評価を得てきた。

 20日のAbemaTV『AbemaPrime』では熊谷市長が生中継で出演、これまでの対応の経緯や今後の見通しについて話を聞いた。

■「ボトムアップでやっていては絶対に間に合わない」

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 「千葉市は政令市として公衆衛生部門の専門家を抱えながら判断できるが、そうではない自治体があることも考えると、“こういう感染状況の場合、こうするのが一般的だ”というところまで国の方に出してもらうというのも一つの考え方だと思う。ただ、国の全体方針を地域の事情に応じて現場に落とし込めるかが地方自治体、市長や知事の存在意義でもある。そこで判断ができないのなら、何のために我々がいるのかということだし、日頃から地方分権を叫べるだろうか。昨年の台風も含め、数多くの災害を経験しているが、ボトムアップでやっていては絶対に間に合わない。そこでトップとそれぞれの組織の責任者が一堂に会して責任を持ってやる。その意味では、これまでの危機管理経験が物を言ったと思うが、基本的な考え方については自分たちで判断し、自分たちで方針を決めていく。そういう気持ちがなければ市民は守れないと思っている」と話す熊谷市長。

 千葉市では先月21日、全国で初めて教員の感染が確認された。これを受け、27日には独自の臨時休校措置基準を決定。その際に参考にしたのが、「教員または生徒1人が感染した場合は学級閉鎖、2人以上は休校。自治体の3分の1が休校した場合は、地域全体を休校。期間は14日間」という、いわゆる“台湾方式”だった。安倍総理が全国の学校に対し一斉休業を要請したのは、その日の夕方のことだった。

 「ちょうど台湾の対策について調べていたところだったので、これを基準に考えてみようと、教育委員会に台湾方式の休校方針を渡した。他の学校に広がる可能性があったので、場合によっては地域丸ごと、市全域に広がっている恐れがあると判断した場合は全体で、という方針を作り、プリントにして子どもたちに持たせた。それが保護者に行き渡った頃に総理の要請がどーんと出たということだ。実はその数時間前、“総理が一斉休校を要請するかもしれない”という情報は入ってきていた。これはまずい、特に低学年児童の問題があるということで、急いで教育委員会と関係する幹部を招集、公衆衛生部門にも入ってもらって一生懸命議論、一定の方向性を見出したところだった。事前に“そういう要請もあり得る”というようなことを国が言っていたわけではなかったので、やはり十分に対応できなかった自治体も多かったのではないかと思う。特に翌週の月曜日(3月2日)からということで、対応する時間は学校現場にほとんど残されていなかった。千葉市の場合は1日置いた3日からにしていたので先生方が準備する時間があったが、学童保育や働く親のことついても処理されない中、混乱が出たのは間違いないと思う」。

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 そして千葉市では「小学校低学年児童を“自習”として引き受け」「高学年に関しても要請に応じて対応」「子どもの見守りに対しては職員が対応」「図書館を再開し、休校中の居場所に」などの独自の休校対策を導入。19日にはそんな千葉市の学校現場を萩生田文部科学大臣が視察。熊谷市長とも面会している。

 「県庁所在地、政令市なので、我々がしっかりしたものを打ち出し、他の自治体にも広がってくれればということは普段から意識しているし、それが責任でもあると常々職員にも伝えている。低学年児童の見守りに関しては比較的早めに発信したので、自分のところでも取り入れたと仰っている市長もいるが、萩生田大臣からも、独自の休校方針を作ったり、低学年を預かったりしたことについて、“国の方針を柔軟に解釈し、最適解を作っていただいた。それがモデルとなっていることを評価している”というような話があった。我々からは修学旅行や運動会など、この先の現場の課題や、文科省で整理してほしいことなどについて申し上げ、ざっくばらんに意見交換させていただいた」。

■「市民の信頼を失ってはいけない」

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 作家の乙武洋匡氏は「今回のような異例の要請や対応が必要になってくる時には、誰が言っているか、その人が今まで何をしてきたかが重要だと思う。国が何か隠しているのではないかといったニュースが流れてくる中、千葉市に関しては市民の信頼が厚いと思う。僕がTwitterで“千葉市の対応はすばらしい”とツイートしたところ、市民から“うちのボスすごいでしょ”というリプライが寄せられて驚いた」と話す。

 市独自の対応、さらに情報発信が評価されていることについて尋ねると、「1月の時点で保健福祉局の幹部に言ったのは、“市民の信頼を失ってはいけない”ということ。信頼を失えば、どれだけ科学的に正しいことを主張しても、市民に響かなくなってしまい、現実的な対応が取れなくなってしまう。教員の感染が判明した時、どこの自治体かは言わないというのが県の方針だった。しかし、それでは絶対にいけない、いずれ分かるということで、プライバシーに配慮しながら包み隠さず出せるだけ出し、スタート時点で信頼を獲得して進まなければいけないと決めた。Twitterでの発信についても、東日本大震災の時に“本当に助かった”と言われたが、今では千葉市民は何かあったら市長と千葉市のアカウントを見るということが定着している。その上で、新型コロナが来たという流れがあるということだ」と説明。

 他方、メディアについては「こういう危機の時、マスメディアの責任は非常に大きい。社会の公器として、どう役に立つのかという姿勢が必要だ。今こそメディアの存在意義を示すという気構えを持ち、時には視聴者からの反発があったとしても正しいことを伝えられるかが非常に問われていると思う。その意味では混乱を助長しただけのメディアもあるのは残念ながら事実。落ち着いた時にしっかりと総括をすることが大事だと思う」と苦言を呈した。

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 また、元経産官僚の宇佐美典也氏が、国や他の自治体との連携、地方分権について尋ねると、熊谷市長は「知事会や市長会もある程度は機能していて、現場の声を伝えてくれてはいるが、全体の意見を取りまとめるだけでも非常に時間がかかるし、最大公約数的なものにならざるを得ない。平時ならそれでいいが、非常時にはダイレクトに連携し、すぐに動けるような関係性があってもいいと思っている。これから優れた解決案や現場での運用の仕方が色々出てくると思うので、それぞれが積極的にオープンにしていただきたいし、良いものだと思えば遠慮なくどんどん取り入れていくようにしていきたい。今も他の首長とLINEで“それはまだやってなかった。やろう”など、情報を交換し、助け合いながら先々の対策を進めているが、仕組みとして、どこかの自治体が良いやり方をしたら、すぐに横展開できるような流れはあってほしい。アメリカでは災害対策や感染症対策のための組織もある。今回のことが、21世紀の国と自治体にふさわしいあり方を議論する良いきっかけになるのではないか」と指摘。

 今後の見通しについても「千葉市は1カ月、感染者が見つかっていないので、今後は4月に学校再開、当然それを目指してやっていく。国から学校の再開をしてもいいと言われてから考えるようでは遅すぎるので、具体的に学校を開ける場合、どういう活動はやめなければいけないのか。しっかり見極めたい。とにかく“ゼロリスク”というものはなく、何かをゼロにしようと思えば、別のリスクが上がってくるということを社会として認識しなければならないと思う。イベントについても、このケースはこう工夫すればできるが、このケースは止めた方がいいなど、一つずつ具体的に示してやってきている。油断せず、慎重にした方がいいものはしばらくの間、慎重にしていくが、できるものは市民生活も経済活動も動かしていく。これが大事だと思う。国に求めたいのは、ちゃんとステージを示していくということ。、ステージごとに国として何があり得るのか。何を選択し得るのか。市民、国民、地方自治体に何を事前に準備しておいて欲しいのか。それがあるだけで混乱が避けられる」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:千葉市長に聞く 新型コロナ対策"独自判断" 成果・得られた教訓は?

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