やはり、K-1のエースはこの男だ。3月22日、さいたまスーパーアリーナで開催されたビッグイベント『K'FESTA.3』。スーパー・フェザー級王者の武尊はタイのペッダム・ペットギャットペットと対戦し、パンチの連打で2ラウンドKO勝利を収めた。
パンチを浴びて倒れたペッダムは、しばらく起き上がれなかった。一方、勝った武尊は泣いていた。マイクを握り、ファンに感謝を述べるとここでも涙し、声を詰まらせた。それでも訴えたのは「こういう時だからいろんなことを言われるけど、格闘技で世界にパワーを与えたい」という思いだった。
今大会、武尊はISKA王者アダム・ブアフフ(モロッコ)とダブルタイトル戦を行なうはずだった。K-1で3階級制覇を成し遂げた武尊は、新しいベルト獲得に意欲を燃やしていた。ところが大会直前になって相手が変更に。つまりペッダムは“代打”だ。といって簡単な相手ではない。ただでさえムエタイ戦士は厄介なのだが「タイ人の中でもペッダムはベルトを巻いたことがあるタイ人ですから。難しい相手ではありました」とは武尊。
昨年の『K'FESTA』で、武尊はラジャダムナン・スタジアム王者のヨーキッサダー・ユッタチョンブリーをKOしている。その際の練習で徹底的にムエタイ対策を練り、その経験が今回も活きたそうだ。
涙の理由はいろいろあって、自分でも整理しきれないようだった。ただ試合後の単独インタビューで、試合前の状況と心境を率直に打ち明けてくれた。
「相手が変わったこともあるし、これまで言われてきた試合のこともそうだし。僕はそれを全部背負って、見ている人たちに返したいんです。もらった意見を排除する作業ができなくて、全部飲みこんでしまう。今回は特に考えることがたくさんあって。その中で試合のプレッシャーもあって、いつも以上にメンタルが追い込まれました」
試合の1週間ほど前から、右耳が聴こえなくなってもいた。突発性難聴。その原因の一つはストレスと言われている。
「それが一番大きかったです。凄く不安になって、毎日寝れなくて。それがあって、(試合が)終わった瞬間にいろんな感情があふれ出しちゃいました」
エースとはいえ、武尊が背負っているものはいちファイターとしてはあまりに大きく、重すぎるのではないか。最近の武尊からは使命感とともに悲壮感も伝わってくる。だがそれでも、武尊は背負うことをやめたくないという。
「周りからは“背負いすぎだよ”って言われるんですけど、そこには自分でも責任感みたいなものがあるし。逆にそれをパワーに変えなきゃいけない。そこは現役である以上、永遠のテーマだと思ってます」
そんな武尊にとって、何より力になるのがファンの声援だとも語ってくれた。とにかくここから、武尊の2020年が始まる。何があっても攻めの姿勢は崩したくない。
「新しいベルトを獲りにいく試合がしたいですね。世界でチャンピオンって呼ばれてる選手を狩りにいきたい」
どれだけ勝っても、挑戦することはやめたくない。何年も前から、彼はそう言い続けている。
文/橋本宗洋