3月22日にさいたまスーパーアリーナで開催されたK-1「K'FESTA.3」に緊急参戦した朝久泰央(朝久道場)が、現ライト級王者・林健太(FLYSKY GYM)にスーパーファイトで勝利した。大会4日前の代打決定、さらに本来フェザー級と一階級下の朝久が現役王者に勝利するビックアップセットに会場は大いに沸いた。
覚醒したダークホース・朝久の多彩な攻撃力とK-1随一の精神力の強さを誇る林の戦いは、3ラウンド9分間終始打ち合う今大会のベストバウトとなった。共に空手ベースのK-1ファイターの二人の戦いは、序盤から至近距離で激しく打ち合う攻防で幕を開けた。
1R、林が伸びのある左ストレートを放つと、左ミドル、左前蹴りと華麗な脚さばきを見せる朝久。短期間で仕上げてきたとは思えない軽快なステップの朝久は激しくスイッチを繰り返し攻撃の手を緩めない。右の前蹴りから、左の速いかかと落としを数発。
解説陣からは「(林は)左の前蹴りが全然見えてない、全部当たっている」という指摘も。スピードと独特のリズム、間合いから繰り出される朝久の攻撃について魔娑斗も「真下から上がってくる感じの蹴りなので見えない。K-1とは違う空手出身の選手なので動きが違うのでやり難い」と分析した。
2R序盤、林が前ラウンドのお返しとばかりに重い右ストレートを軸に攻勢に転じる。朝久も必死にパンチで対抗するがやはり階級差、パワーの差が顕著だ。しかしここで、朝久がボディへのヒザから跳び二段蹴りを繰り出して林からダウンを奪う。
すぐに立ち上がった林だがダメージは大きい。ロープ際で朝久の猛攻を受け、左前蹴りから右フックで2度目のダウンを奪われて万事休すのはずが、王者も意地の精神力で盛り返す。
終始優勢だった朝久も林の強い精神力と強い打撃に飲み込まれラウンド終了間際にはパンチが効き足元がおぼつかない。林について魔娑斗は「家族を背負って家のローンもあるから意地ですよ、だから立っているんですよ」と冗談まじりにコメントしたが、不屈の精神力、気持ちの強さは本物だ。
3R距離を潰しパンチが当たりはじめた林、手を焼いた前蹴りを封じこめる術を見つけたがやはり前ラウンドのダメージは大きく決定力に欠ける。それでも両者手を止めることなく打ち続ける。朝久も相当数のパンチを浴び続けるが、しっかり前に出て頭を突き合わせながらパンチ、ローを繰り出すタフさを見せ、両者全く引かずにラウンドを終えた。ジャッジは「30-26」「29-26」「29-26」と大差で朝久の大金星となったが、スコア以上に両者の魂がぶつかり合う好勝負となった。
一階級下の朝久との試合に敗れた林だが、今大会に向けて3度の対戦相手変更という不幸は見逃せない。ジュー・シュアイ(中国)、キム・フォーク(スウェーデン)と相次いで対戦相手が来日できない状況。典型的なキックボクサーから、自身と同じ空手ベースの選手とはいえ変則的なスタイルの朝久への短期間での対応が間に合わなかった点は否めない。しかし2度の致命的なダウンという圧倒的に劣勢から朝久攻略の距離を掴み戦い抜いたリカバリー能力など、王者として恥じることのない戦い振りだった。
今回の勝利で一躍名を挙げた朝久だが、23日の一夜明け会見で次なる意中のターゲットを明かした。勝利した林のライト級挑戦については「まだ、僕はライト級でキャリアを積んでるわけでもないですし…」と謙虚に語り、自身の階級フェザー級でのひと波乱を目論んでいる。
本大会で勝利し、武尊との対戦を熱望したレオナ・ペタスに対しては「Krushじゃ相手いないって言ったと思うんですけど、公でああいうふうに言って、実際裏じゃ、いろいろ理由つけて逃げてばっかりいると思うんで」と名指しで挑発。2度敗れているものの、ひと回り強くなった今、再びレオナとのリベンジ戦への意欲を示し、60kgの同階級選手たちに向けて「強い相手と戦いたい」と語った。
7月には拠点を置く福岡で初のK-1開催が決定している。地元出身の象徴的選手として朝久泰央の次戦には大きな注目が集まりそうだ。
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