4月4日、新宿FACEで無観客試合として開催された『KHAOS.10』は、期待通りのスリリングな展開となった。
K-1選抜選手と『格闘代理戦争 K-1 FINAL WAR』出身選手の7vs7対抗戦。5試合目まで終えたところで、3勝2敗でK-1選抜がリードしていた。同企画で名を売った『代理戦争』チームだが、全員がプロビュー戦だ。K-1選抜の選手たちにしてみれば「プロの意地を見せてやる。注目されてる奴らに負けられない」という思いもあっただろう。
6試合目、副将戦。『代理戦争』チームの稲垣澪にとっては後がない状況での闘いだった。しかしその大事な場面で、稲垣は本領を発揮する。
山浦力也との対戦、稲垣は序盤から鋭いジャブを飛ばして主導権を握る。そこからパンチとヒザのラッシュで相手の動きを止め、2ラウンドにダウンを奪う。
3ラウンド、山浦のフックが顔面を直撃、一瞬フラつく場面があったが、フィニッシュは次の瞬間に訪れた。右ストレートを完璧にヒットさせての豪快KOだ。自分が負けたらチームも負ける。そんなスリリングな試合は、結末もまたスリリングだった。
デビュー戦で大物ぶりを発揮した稲垣には弟がいる。『格闘代理戦争』前シーズンに出場し、すでにプロデビューしている稲垣柊だ。「弟がデビュー戦でKO勝ちしているので、自分もKOできてよかったです」と試合後の稲垣。兄弟ファイターとしてプロのリングで活躍したいと以前から語っており、今回の勝利がその第一歩となった。プロになった以上、ベルトを狙いたいというコメントも。
この試合、稲垣を支えたもう一つの“絆”もあった。試合直前、バックステージで控えていた彼に、チームの大将である古宮晴が声をかけてきたそうだ。
「僕ら2人で勝って、チームの勝ちで大会を締めましょう」
そう約束して上がったリングで稲垣は勝ち、続く古宮も判定勝ちを収めて、大会は『格闘代理戦争』チームの勝利で終わった。
同企画のトーナメントで、稲垣は『ゲーオーズ』に所属。優勝の原動力となった。一方、古宮は『SKR連合』で準優勝。1回戦では史上初の3人抜きを果たしている。決勝戦での直接対決はなかったものの、2人はライバルと見られていたし、実際に稲垣は対戦を見越して研究を進めていたそうだ。
そんな2人が、プロデビュー戦では同じチームになって団体戦勝利の立役者となったのだ。デビューは新たな門出であり、ある関係者に言わせれば「格闘代理戦争の卒業式みたいでしたね。無観客の卒業式」。
稲垣澪と古宮晴、二人のホープが、それぞれのキャリアをここから歩み始める。
文/橋本宗洋