「二度と刑務所に戻らないよう頑張る」受刑者のための求人誌編集長と、新しい人生を歩む男性
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 車の前で写真を撮るケンさん。覚せい剤密輸の罪で7年半服役、現在は板金塗装の会社で働いている。「すごく後悔はあります。もう刑務所には戻りたくないというのはありますね」。この日撮った写真は、日本初の受刑者専門の求人情報誌『Chance!!(チャンス!!)』の表紙を飾る。

 年4回発行の「チャンス」は全国の刑務所に無料で配布されており、受刑者から履歴書が送られて来ると、三宅さんが企業につないでいる。雇用主が面接に応じれば、ハローワークを通じて刑務所の中で面接を行い、合否が決まる仕組みだ。立ち上げた三宅晶子編集長だ。「少年院とか刑務所の中で頑張っている人たちに“出てもこうやって頑張っている人たちがいるから大丈夫だよ”と伝えたい」と話す。

■受刑者に配慮した工夫も

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 三宅さんが「チャンス」を作るきっかけを与えたのは、自立支援ホームでボランティアをしていた時に出会ったある少女だという。「育児放棄をされ、17年の人生のうち15年以上を施設で暮らしてきた子で。悪いことを繰り返していた場所に戻るしかないんですよね。彼女のような人たちが仕事とか家を見つけることができたら、嘘で包み隠す必要がないって思ったんですよね」。

 そんな「チャンス」には、読者である受刑者に配慮した工夫が凝らされている。「小学校にもほとんど行ってない方もいらっしゃるんですよね。だから読み仮名を振っています」。

 また、求人を載せる企業は、建設会社や美容業界、製造業などが多いといい、性暴力、虐待、薬物使用、覚醒剤、殺人、放火など、企業ごとに採用できない具体的な前科も明記する。応募の際に記入する専用履歴書はそうした前科だけではなく、入れ墨や“指詰め”の有無、刑期や懲役年数などの犯罪歴なども記入する欄があり、A4用紙4枚にわたる。

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 三宅さんは、元受刑者を雇ってもいいという企業を対象に講演会も行っている。「当然、失敗例はあります。やめてしまうこと、飛んでしまうことっていうのはあります。SNSとかの発達で、失敗や間違いを許さずにできるだけ排除しよう、もう抹殺しようという風潮もあるなぁと思います」。

 参加した鉄鋼会社の事業所長の男性は「自分もそういう風になる可能性ももちろんあっただろうし、一線を越えるか越えないかだけだと思うので、そういう人(元受刑者)を受け入れる体制も整えていきたいなと思いました」と話した。

■詐欺で3回、窃盗で1回、あわせて13年半服役

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 「気持ちは最高です。ただ、出てからが不安」。北陸地方の刑務所から仮釈放で出所した通称トムさん(40)は、レストランにクレームを入れ、示談金をだまし取る詐欺を繰り返した。詐欺で3回、窃盗で1回、あわせて13年半服役した。「保健所を通すと、お店を営業停止とか、1週間営業停止とかになるので、1回で示談金100万とか。日本全国回ったりもしたんで」。

 トムさんが非行に走ったきっかけは何だったのだろうか。「親父とお袋が離婚して、弟もいたんだけど、一緒に施設に預けられた。2人で泣いてたこともあるし、施設の悪い先輩たちと付き合うようになって、どんどんどんどん、悪くなっていって。もちろん、当時は父親を恨みましたよ」。

 出迎えに、そんな家族の姿はなかった。「(両親は)2人とも体が悪いし、年金生活だから、自分の帰る場所はもうないんですよね」。代わりにやって来たのは、「チャンス」を見て「誰もが過去を変えることはできないけれども、未来は変えることができます。“立ち直るにはこれしかないな”と思って」と手紙を書いた結果、身元引受人となってくれた就職先の建設会社社長・廣瀬伸恵さんだけだ。

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 車で6時間かけて着いたのは栃木県。廣瀬社長の自宅の庭に置かれたコンテナの、6畳ほどの空間がトムさんの新しい住処だ。この日はクリスマス。「うれしくなりますよ。10何年ぶりだ、こんなの」とトムさん。「正直言うと、刑務所の延長ですよね。1人部屋だからね。ただ周りに人がいるから、その辺は違いますけど」。取り出したサンダルにマジックで書いてある「429」の数字は、刑務所での番号だ。

 三宅さんが「どうですかシャバは?」と電話で尋ねると、トムさんは「まだちょっと緊張してる部分があって。本当に三宅さんのおかげで、ここに来れたのですごく感謝してます」とお礼の言葉を述べた。

■「二度と刑務所には戻らない」

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 仕事から戻ってきた先輩たちと、の廣瀬社長の手作りの夕食を囲むトムさん。実は廣瀬社長自身も過去に2回、服役している。出所後の受け皿が必要だと感じたのも、そうした経験からだ。現在、従業員37人のうち、14人が元受刑者だ。

 朝6時、初仕事となる埼玉の工事現場へ向かう。今日の仕事は解体作業だ。先輩に教わりながら作業に当たるも、なかなかうまく行かない。「初日から100%の力を出しちゃうと、大半の人は2日、3日でくたばっちゃうと思う」と、先輩のDAIさんが寄り添う。入社してしばらくは先輩社員が常に行動を共にすることで、職場から逃げたり、再犯したりすることを防ごうとしている。

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 働き出して1週間。仕事にも慣れ始め、少し余裕も出て来たが、監督に「早くやってくださいよ。歩きタバコしてる時点でダメです」とたしなめられる一幕も。そして、会社では問題が発生していた。別の先輩社員が会社のお金をパチンコで使いこんでしまったことが発覚したのだ。

 「会社のお金は絶対使っちゃいけないって、わかってたじゃん。それをパチンコのために使ったんだで」と厳しく叱責する廣瀬社長。社員たちのトラブルは後を絶たない。「私と子どもだけでいた時にこのガラスを割られそうになったりとか。あとは泥棒に入った従業員もいたりとか」。

 日本の再犯率は48%。受刑者の2人に1人が再び罪を犯していることになる。自身の再犯の可能性について、トムさんはどう考えているのだろうか。「二度と刑務所には戻らないと、今まで以上に強く決心している。かつての悪い友人や知人に近づかない」と、履歴書に記していた。2ヶ月後の満期の日まで問題を起こさず働けば、刑が終わる。刑務所内の作業で受け取った6万6千円は無駄遣いしないよう、大部分を廣瀬社長に預けている。

■わだかまりを初めて父親にぶつける

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 そして2019年の年末。この日は会社の忘年会だ。就職を仲介した「チャンス」の三宅さんも駆け付け、「皆さんがこうやって笑って、頑張ってるのを見るのが、本当に本当に嬉しいです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。今年は本当にお疲れさまでした。ありがとうございました」と挨拶した。

 トムさんも「ありがとうございました。感謝しきれないです。頑張りますんでよろしくお願い致します」、固く握手を交わした。廣瀬さんも「何かあると三宅さんにすぐ相談(笑)。経営者って孤独なんで、従業員には言えないこととかも、言いやすくて。頼りにしてます」と本音を明かした。

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 年が明け、トムさんは父親の住む実家に向かっていた。実家に帰るのは4年半ぶりのこと。再就職したことで、音信不通だった両親が会ってくれることになったのだ。電車を乗り継ぎ2時間、ついに目的地にたどり着いた。「最高ですね。駅前、全然変わってない。地元は悪い友達もいるし良い友達もいる。そりゃ戻りたいですよ」。

 犯罪を繰り返す息子を家に入れなかった両親。70歳を超え、年金暮らしだという父親と再婚した母親とトムさん、久しぶりに家族で過ごす正月だ。父親は「あんたはこれで4回目なんだから。人生の半分は刑務所勤めだからな。変わんなくちゃいけないんだよ」と諭す。「俺、全然変わってないよ。気持ち25歳だもん。元受刑者っていうのは、刑務所に入ったら、時間が止まっちゃうの」と反論。「だったら歳だけ食ってるだけじゃねぇか。また同じこと繰り返すじゃないか」「上から物言うからね。俺はそこが嫌い。施設に入れたこととか」。トムさんは心の底に残っていたわだかまりを初めて父親にぶつけていた。

■「嬉しいですね。自分が働いたお金だから。」

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 トムさんが働き始めて1ヶ月がたった。この日は、家を解体する前の片付け作業だ。「最初の現場からスタートするのは、余計楽しいです」。初めての給料日を迎えた。手渡しの給料。「まだ封を開けてないからわかんないですけど、嬉しいですね」と給料袋を見つめる。「ドキドキするね」と言いながら給料袋にハサミをいれる。

 この月の給料はおよそ15万円。その中から、家賃や前借りした生活費を引かれて残ったのは2万円ほどだ。それでもトムさんは「2万523円。いや嬉しいですね。自分が働いたお金だから。やっと財布の中に1万円札が入りますよ。でも被害弁償をしないといけないから」。被害者への弁済額、約11万円をこれから返済していく。

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 感謝の思いを伝えたいと、三宅さんに連絡した。「必ず報告したいと思ってたんで。これからも頑張りますんで。ありがとうございました」とトムさんが切り出すと、三宅さんも「ありがとう!こちらこそ嬉しかった。報告してもらってありがとう。思い出してくれて」と激励した。

 「“ダメだ”って言われて生きてきた人が多く、承認欲求が非常に強いんですよね。だから皆、ものすごく頑張るんです。“やる気があるんであれば、過去は問わないよ”という会社がたくさん増えてほしい」と三宅さん。

 そして2月、トムさんが刑の満期日を迎えた。「やっと終わったなって思います。晴れて第二の人生を迎えることになったので、刑務所に絶対戻らないように日々の生活を頑張りたいと思います」と、真っ直ぐな目で語った。(テレビ朝日制作 テレメンタリーもう塀には戻さない ~受刑者のための求人誌~』より)

もう塀には戻さない ~受刑者のための求人誌~
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