「早い時期に武漢の研究所を見たいと言ったが、中国は拒否した。問題があることが分かっていて見せたくなかったのだろう。ウイルスが手に負えなくなった上の過失なのか。それとも故意なのか」。トランプ大統領は新型コロナウイルスのルーツにいついて、当初からいわれてきた武漢の海鮮市場ではなく、武漢のウイルス研究所から広まった可能性を示唆した。
14日付の『ワシントンポスト』は、この研究所について「最も危険度の高い病原菌も扱えるバイオセーフティレベル(BSL)4の施設だ。コウモリ由来のコロナウイルスの研究をしていたが、安全対策が不十分だった」と報道。またフランスなどのメディアは、ノーベル生理学・医学賞受賞者・リュック・モンタニエ博士が「新型コロナウイルスは人工的に作られたものだ」と主張したと報じている。
これに対し、中国政府はかねてからコウモリ、センザンコウ、そして人への感染という形でウイルスが媒介したと主張しており、中国外務省の趙立堅副報道局長も「WHOの責任者が何度も繰り返しているように、新型コロナウイルスが実験室で現れたといういかなる証拠もない」と反発。また、中国中央テレビでは武漢ウイルス研究所を取材した番組を配信、袁志明研究員が「もしウイルスを人為的に合成したのなら、人知を超えた作業量と知識が必要だ。そんな超人的な科学者はいない」と主張した。ただ、こうした話は中国国内ではほとんど伝えられていないといい、中国中央テレビの映像も海外に向けたものだとみられている。
厚生労働省やWHOで医療政策に携わった東京大学大学院特任研究員の坂元晴香氏は「ウイルスや病原体を扱う施設は、その危険度によって大きく4段階に分けられている。BSL4ということは致死率が高く、治療薬やワクチンがないようなものを研究するための施設ということだ。ただ、報道については明らかな証拠が出ていない中、可能性の話をすればきりがない」と話す。
中国政府の動向に詳しい戦略科学者の中川コージ氏は「武漢が都市封鎖されるのと前後して人民解放軍のチェン・ウェイ少将という人が研究所を接収してしまったことから、隠蔽説も含めた憶測の発端になっている。証明ができないことなので、フェイクニュースにもなりやすいネタだ」と話す。
「習近平政権を守る、党の正統性を守るということが絶対主義の中国共産党が、自分たちに批判が向かってくる可能性があることをするだろうか。間違えて漏れてしまったという可能性は否定できないが、感染拡大を抑えることができるかどうかも不確実なものを人為的に漏らすメリットがない。一方、一昨年あたりから5Gや人権問題、貿易問題を含めた米中対立というマクロの対立構造があった。その中で出てきた問題という意味で、新型コロナウイルスは宣伝戦のネタになるわけだ。武漢のウイルス研究所から漏れたという話が出る前には、中国の政府高官から“米軍が持ち込んだ”という話が五月雨式に流れてきた。まさに双方がプロパガンダでやりあっているというように見える」。
■“赤い方程式”で着々と覇権を狙う?
一方、中国は武漢の封鎖を解除、さらに「イタリア、セルビア、イラク、ロシア、カザフスタン、パキスタン、カンボジア、ラオス、フィリピン、マレーシア、ベネズエラ、エチオピアなど130以上の国・国際機関に医療用マスク、防護服、検査キットなど支援物資を提供、今月初旬までの約1カ月間にマスク約39億枚、防護服約3750万着、人工呼吸器1万6000台などを輸出(出典:中国税関)」と“マスク外交”を展開している。
さらに新型コロナの感染拡大を受けて米軍が部隊の移動を停止、演習も見合わせる中、南シナ海の西沙諸島と南沙諸島に新たな行政区を設置。日本周辺においても、今月10日には空母『遼寧』など6隻が沖縄本島・宮古島間の海域を通り、太平洋へ航行、今年1~3月の中国機に対する自衛隊機のスクランブル発進は152回に上っている。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「民主主義国家的な、緩やかな対応が上手くいかない中、中国は武漢を強制的にロックダウンし、住民を監視するという独自の強権システムによって感染を封じ込めた。そのことを世界に見せつけたという意味では、アフター・コロナ、ポスト・コロナ時代に、中国的な政治制度も良いのではないか、という印象を世界に与えた部分があると思う」と指摘する。
「IMFが各国とも軒並みマイナス成長を予測する中、中国だけは今までのような高度成長ではなくても、わずかに成長を続けられると予測している。コロナ後の復興のために、まさに中国の消費力や生産力みたいなものが必要だという流れになってくるのではないかと。そうなれば、アメリカに代わって中国がグローバルな世界秩序のリーダーになる可能性が浮上すると思う」。
中川氏も「私は“赤い方程式”と呼んでいるが、マイナスだったことをゼロ、そしてプラスに変えていく。新型コロナウイルス対策についても、初動ではミスをしたが、予想外に封じ込めがうまくいき、今はマスクを戦略的な外交資源にするようになっている。香港問題でも、香港の経済的な地盤沈下を北京中央が使っていくなどした。これまでもチャイナ・モデルの方が優位だということを見せつけたいという動機は節々に見えていたが、今後はこれを輸出しようという思惑が出てくると思う」と予測する。
「中国がモデルとしているのはパクス・アメリカーナだ。今回、中連部という中国共産党の中の組織が水面下の外交として100カ国以上の組織と連絡をして、一斉に共同で防疫戦線を張るという“合作協力”をしているという報道もあった。そして、軍事的には圧力をかけて強権的に出るが、それ以外の部分ではパートナーシップを組んでいく。安全保障の面でも、アメリカが自国主義になる中、南沙諸島の隙間、核の隙間に入っていく」。(ABEMA/『ABEMAPrime』より)
▶映像:コロナ渦で米中対立が深刻に 武漢ウイルス研究所から"流出疑惑" トランプ大統領が口撃
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