ベテランMMAファイター・朴光哲はそう言って苦笑した。新型コロナウイルスの影響で興行が相次いでなくなる中、選手たちはどんな思いで“試合のない日常”をすごしているのか。所属するKRAZY BEEの選手たちと語り合った朴の口からは、冗談めかしながらも本音が出てきた。
「誰かお金貸してくれないかな」
これもまた苦笑まじり。朴は4月19日のRIZINに出場する予定で練習を重ねていたが、大会そのものが中止となった。仕方ないこととはいえ、このまま試合ができなければ収入に直結する。
「(試合に向けて)凄い仕上げたんですよ今回。また一から仕上げるとお金がかかる」
大一番に向けて完璧な肉体と技術、コンディションを作り上げようとするなら、トレーニングに集中する必要がある。つまり生活のための仕事から離れなければいけない。それができるのはファイトマネーがあるからだ。
「試合がなくなったら仕事がある。けど練習ができない。そうするとスタミナがなくなっちゃう」
RIZINは夏の活動再開を見込んでいるが、朴はこう言う。
「(仕上げた)体力をキープしたまま7月とか8月まではもたないです、財政面で。働きに行かなきゃいけない」
メジャーな舞台でコンスタントに試合がある選手ならともかく、そうではない選手にとっては朴の言葉のような現実味がある。それも込みで格闘技と向き合わなければいけないし、コロナとの闘いにはこういう面もあるわけだ。ただ朴自身、まだ現状に対してはっきりと割り切れているわけではない。
「そもそも格闘技って、なくても誰も困らないじゃないですか」
そう言ってみる一方で、こんな考えも持っている。
「だけど、いい試合を見て感動して元気になったりすることもあるし。単純に人と人が自分のテクニックを駆使して闘うのは面白い。そういう面では格闘技はなくならないとは思うんですけど」
この、まとまらない思いこそが多くの格闘家の本音かもしれない。苦しいか苦しくないかで言えば、それは苦しい。だからこそ、朴は冗談めかした本音で笑うのである。



