休業か営業か。全国で特措法に基づく休業要請に応じないパチンコ店の店名が公表されている。
現状について、警察官僚時代にパチンコ業界と向き合ってきた自民党広報本部長の平沢勝栄氏は「私が聞いているところでは、ほとんどの店は営業することに反対していて、すでに90%以上が営業を取り止めている。しかし、どこの県にも何軒かが営業して、非常に繁盛している。真面目にやっている業者からすれば、歯ぎしりする思いではないか。“従業員の雇用があるから”などと言っているが、そんなのどこも一緒だ。これは他の業界でも同じだが、感染を広げたら大変だということで苦しい思いをしながら、必死に頑張っているにもかかわらず、抜け駆けみたいなことをするのは本当にけしからんと思う」と話す。
「ただ、そう簡単に聞く人たちではないと思いし、むしろ公表されたことに対して“宣伝してくれてよかった”とさえ思っているのではないか。短期的には儲けてしまうだろう。それでも長期的には大失敗だったと思わせるような形に持っていかなければいけない。新型コロナ特措法の中では、制裁というか罰則が何ない。やはり厳しい制裁というか、社会的なアクションがないとこれはむしろ法の欠陥だと思う。そこを今後の課題として考えておくべきではないかと思う」。
・【映像】休業要請なぜシカト? "パチンコ業界"長年のグレー規制が仇に? 元警察官僚 平沢勝栄議員に聞く
そんな中、大阪市の松井一郎市長はTwitterに「今後、ギャンブル依存症対策を進める為にも、これまで既得権となってきたパチンコ業界のグレー規制を見直すべきだ。国会議員団のみなさん、パチンコは遊戯ではなく、ギャンブルと規定し必要な対策を議論して」と投稿。大阪府の吉村知事も「緊急事態宣言下、行政の呼びかけも関係なくパチンコ店に押しかける。一律10万円配っても一緒。パチンコの依存症問題に正面から取り組むべき。国はパチンコをギャンブルと認めず、何らの規制もない。依存症対策も正面から論じてこなかった。IRは入場制限や依存症対策を様々とる。パチンコもやるべきだ」とツイートしている。
これは一体どういうことなのだろうか。
刑法では賭博をした者は50万円以下の罰金または科料、また、常習者は3年以下の懲役、賭場を開いたものは3カ月~5年以下の懲役と定めている。一方、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときはこの限りではないとしており、パチンコホールの全国組織「全日本遊技事業協同組合連合会」も「パチンコ・パチスロは適度に楽しむ遊び」だと主張している。
この問題について平沢氏は「風営法という法律の中で、パチンコは“賭博”ではなく“遊技”だと位置づけられている。また、同じ法律の中で、“著しく射幸心をそそるおそれがないもの”に限って認めることにしているので、その線引きみたいなことをずっとやってきた。やはりパチンコに行く人は射幸心が高いほど喜ぶので、できるだけそれを抑えようということで、1分間に打てる球数や大当たりが出た時の出玉の数などを公安委員会の規則で決めている。もしこれがギャンブルということになり、その下で自由にやれるとなったら、おそらく一番喜ぶのはパチンコ業界の人だろう。しかしそこにはメリットとデメリットがある。国民にとってもいいことなのかどうか、両面からいろいろと検討する余地はあると思う」と話す。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「IRに関連して成立したギャンブル等依存症対策基本法では、パチンコも対象になっている。つまり風営法では射幸心を煽ることを一定程度に留めてるからパチンコはOKだとしているにもかかわらず、別の法律ではパチンコ依存症があることを認めている。このダブルスタンダードが存在している以上、むしろギャンブルだと認めるべきではないか」と指摘。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ギャンブル依存症の自助グループを取材したことがあるが、ギャンブルをやめるとタバコや薬物などに依存してしまうケースもあり、ある意味で今のパチンコのあり方が“ガス抜き”になっている部分もあると思う。そういう人たちの受け皿をどうするのかを考え無いまま、とにかくパチンコは無くせ、依存症は治せ、だけでは、かえってアングラ化するなどの新たな問題を引き起こす可能性もある」とした。
もう一つ、パチンコ業界の“グレー規制”の象徴ともいえるのが、“三店方式”というシステムだ。「パチンコ店」「景品交換所」「景品問屋」が独立して営業「パチンコ店は出玉に応じて客に景品を渡す。客は景品を景品交換所で現金と交換。そして景品問屋が景品交換所の景品を買い取りパチンコ店に卸す」というシステムになっているため、「ギャンブルではない」ということになる。
依存症対策に取り組み、パチンコに関する書籍もある元経産官僚の宇佐美典也氏は「この三店方式がなぜ生まれたのかと言えば、暴力団排除のためだ。元々パチンコは勝ったら飴玉やたばこをもらって帰るという遊びだったのが、そのうちにたばこを1日に10箱や20箱をもらうようになった。そこで買い取る人が現れ、“換金”という文化が生まれた。この買い取る人が暴力団で、その資金源になったり、一部は北朝鮮も回ったりしていた。そこで警察はギャンブル性を高める代わりに暴力団排除を進めてきた。平沢さんはその中で本当に苦労された方だと思う。いま、そこで高めたギャンブル性の問題が表面してきているということ。私もパチンコが大好きだし、ギャンブルを世の中から無くすことはできない。その意味では松井市長の意見には反対で、どんなに頑張っても1万円以上は稼げないくらいの、ものすごくギャンブル性の低いものとして残すべきだと思っている」とした上で、依存症の問題について次のように指摘する。
「依存症者本人だけでなく、家族も大きな影響を受けてしまう。親が依存症になってしまったせいでご飯も満足に食べられない、高校にも行けないという子どもたちも自己責任なのだろうか。ギャンブル依存をなくすことはできないと思うので、その弊害をどれだけ小さくするかが重要だ。もちろん依存症の治療も発展させなければならないが、貧困問題や自殺問題に結びついてくるので、早急に手当すべきは依存症者の把握だ。例えば景品交換所が顧客名簿を作れば、誰がどれくらいお金をかけているかが推測できる。一般的には中古品を取り扱う店は古物営業法で規制されているが、パチンコの景品所だけは適用を外されている。私はここを見直して、ケアするための名簿を作っていくということが重要ではないかと思っている。 これまでのパチンコ店でクラスターが大量に発生したという報道はないと思うし、休業要請を受け入れずに開いている店があるのは、他の業界でも同じだ。それなのになぜパチンコがここまで批判されているかと言えば、それは国民が普段からパチンコ業界に疑念を抱いているからではないか。その意味でも、見直す時期にきていると思う」。
宇佐美氏の話を受け、平沢氏は「パチンコ業界には長い歴史があるし、色々な国籍の人がいる。様々な問題を抱えながら今日まできた。かつては警察との癒着があったかもしれないが、今はそんなことないし、もしあれば、必ず誰かがタレこむと思う。私はそう信じている。いずれにしろ依存症の方がいるのは間違いないので、業界としてもしっかりと取り組んでもらいたいし、全国で約40万の人が業界で働いているということなので、そういった方々が引け目を感じることなく、家族や子どもたちにも堂々と言える仕事にしていく必要があると思う。その点では、松井市長の言う、“きちんとした形にしてあげよう”というのはその通りだと思う」とコメントした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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