無観客でもZERO1は熱かった。

 5月3日に放送されたプロレスリングZERO1初の無観客試合は、メインの世界ヘビー級選手権でクリス・ヴァイスが佐藤耕平からベルトを奪取、またライバル関係だったSUGIとRAICHOのタッグを結成するなどビッグマッチ級の内容となった。

 久々の試合。観客がいなくても視聴者としてファンは待っている。そう思えばレスラーたちが燃えないわけがない。

 セミファイナルにはZERO1の“顔”、団体の熱さの象徴である大谷晋二郎が登場。高岩竜一とのベテランタッグで田中将斗&火野裕士と対戦した。日本屈指のパワーファイターである火野、現DDT王者でもある田中に対し、大谷と高岩は当然のように正面からぶつかっていく。

 大谷は得意の顔面ウォッシュも繰り出していった。これは観客のかけ声が欠かせない、会場の一体感が高まる技。それを無観客試合で出すというところに大谷の心意気があった。試合後、大谷はこう語っている。

「僕は無観客だと思ってない。お客さんの姿が見えてましたから」

 劣勢の場面で、自ら「大谷! 大谷!」とコールして観客を煽る場面も。高岩が火野にフォールされ結果として敗れたものの、ZERO1らしい試合、大谷晋二郎だからこその試合がそこにはあった。

「無観客だからどうだとか、僕には愚問ですよ。プロレスには使命がある。プロレスは不要不急じゃない。プロレスを求めてくれる人がいるんです」

 インタビュースペース、それにメイン後のリング上でも、大谷は繰り返しこう訴えた。

「プロレスは絶対へこたれない! プロレスはくじけない! そしてプロレスは絶対に裏切らない!」

 これが大谷の表現だ。「俺は」ではなく「ZERO1は」でもなく「プロレスは」へこたれないしくじけない、そして裏切らない。以前からいじめ撲滅の活動に取り組むなど、大谷のプロレスはメッセージ性が強い。誰もが不安を感じざるをえない現在の日本で、彼のメッセージはこれまで以上に人々に届きやすくなっている。

 それでいて「見ている人にいろんなものを感じてもらえれば」と、何を感じるかを限定せず、ファンそれぞれに預けている。あえて言う必要はないということだろう。大谷自身が、誰よりもプロレスを信じているからだ。