ビジネス書は本当に役に立つのか?田端信太郎氏「司馬遼太郎だって参考になる。他ジャンルの棚にも目を向けるべし」
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 コロナ禍でコミックや児童書、学習参考書とともに売り上げを伸ばしているという「ビジネス書」。

 ビジネス書評家の土井英司氏は「苦しい中で次の一手をどうするか、あるいは株価が落ちている中で次はどこに投資すべきか。また、自己啓発、精神安定剤的な意味もあって、昔からビジネス書は不況になると売れると言われている」と話す。

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 ただ、「読んだからって成功するの?」「著者しか実践できないようなことしか書いていないものは出版しないでもらいたい」など、ビジネス書に対する疑問は尽きない。そんな中、「100人分のエッセンスを取り入れれば、100倍成功できる」との仮説を立て、起業家が書いた100冊のビジネス書を読み漁り、教えを全て実行するという企画を試みたのが、フリーライターの堀元見氏だ。

■100冊読破にチャレンジも「似たような教え、矛盾する教えばかりだった」

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 堀元氏は古書店で100冊(約1万8000円分)のビジネス書を購入。「鏡の中の自分に笑いかける」「夢や希望をどんどん語る」「年下の女性も“さん付け”にしろ」「写経をしてみる」などの気になった言葉をGoogleスプレッドシートに記録し、日々の行動に取り入れていったという。「例えば“ベッドから出る勢いが1日の勢いになる”って書いてあったので、起きる時は飛び起きるようにした」。

 ところが36冊目、書き留めた教えが564に達したところで、試みは挫折してしまう。「似たような教えばかりが出てきて、もう100冊読んだことにしていいんじゃないかと。逆に、“カフェではマルチタスクで仕事を進めろ”という教えと、“カフェではマルチタスクは絶対に避けろ”という教えなど、矛盾するものもたくさん出てきてしまって、むしろ生活が良くなるどころか、ちょっと暮らしにくくなってしまった。それまで読んだ本にも“諦めるあなたもすばらしい”と書いてあったので…」と笑う。

 得られた成果について尋ねると、「変な教えみたいなものを見つけられたのは面白かった。結果としては体験したことをまとめた記事がバズッたので、書籍代は回収できたかな」と話す堀元氏。最も納得できた教えは「成功本を捨てよ」だと明かした。

■「古本はダメ。条件設定によって役立つかどうかは異なる」

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 数多くのベストセラーを手掛けてきた幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「“この本さえ読めば成功できる”というようなことは100%あり得ない。必死に仕事をし、生きていく中でヒントが一つでもあればいいなと思って読むものだ。その意味では、戦っていない人にとってはただの文字の羅列だ。猛烈に答えを望んでいない状態で読んでも意味はないし、アウトプット前提で読むのが効果的ではないか」とアドバイスする。

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 前出の土井氏も、堀元氏の経験談に対し「古本を買っている時点でダメだ。最近のものでなければ使えないし、逆に古典で良いものは古本屋にはなかなか出てこない。また、36冊を読まれたということだが、一つの業界のものや同じ職種に関してのものを30冊読んだ方が良かった。そうすれば、大体成功する。また、ビジネス書を読む時は、素直さがないと吸収できない。おそらく最初から半信半疑で読んでいる気がするので、“素直さ”が大事だと説いている松下幸之助の『道をひらく』を読むといいんじゃないか」と指摘。

 「残念なことだが、ビジネス書が売れる理由には、皆が成功してないからということがあると思う。僕がAmazonでバイヤーをやっていた時も、ある決算の入門書を買った人の6割ぐらいは別の出版社の入門書も買っていた。やはり解決できずに、次の手、次の本…となっているのだろう。しかし、たとえば“朝を活用しろ”という教えは定型業務には向いていても、僕みたいなクリエイティブな仕事をするには向いていない。クリエイターは、情報やアイデアの組み合わせが起こる瞬間を捉えるために夜を活用することが多い。そのように、まず条件設定があると思う。また、ビジネス書は必要条件については教えてくれるが、最期は本人と話をしたり、実践して隙間を埋めていくしかない」。

■“良いビジネス書を見分けるポイント”は?

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 1日に3冊のビジネス書を読んでいるという土井氏。「ここまでたくさんのビジネス書を読んでいると、目新しいと感じることはほぼない。1冊に2、3行、赤ペンで線を引くところがあって、それがビジネスに応用できたらもう充分元を取れる。その意味では、1500円というのはタダみたいなものなのだ」とし、“良いビジネス書を見分けるポイント”は「著者のプロフィール」「タイトルに騙されない」「固有名詞の多い本を選ぶ」だと話す。

 「当然のことながら、まずは書き手だ。著者のプロフィールをよく見て、この人は何で成功したのかと考える。そして、ビジネスマンだったら率直にノウハウだけを語るはずなのに、偉い人の名言の引用や、有り難い比喩が妙に多いものは、ゴーストライターの自己主張が含まれていると考える。そしてビジネス書はマーケティングで作られているので、タイトルに騙されないということも大切だ。反対に企業名や個人名が出てくる本は、後からネットで調べることで詳細な情報が手に入れられるので良い。例えば『池上彰のアフリカビジネス入門』には、アフリカでのビジネスにいち早く取り組んでいる日本企業のことが書いてあるので、そこに株式投資すれば儲かるということになる。あるいは『社長失格』のように、失敗を追体験できるような本も勉強になる」。

 そんな土井氏が繰り返し読んでいるのが『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』という本だという。「ビジネスマンの心得として擦り切れるほど読んで買い替えている。他にも『影響力の武器』という社会心理学の古典も好きだ。ひろゆきさんが推薦している『銃・病原菌・鉄』も本当に素晴らしい本だと思う。そういう古典を読むことによって知識のベースができ、それを応用していくことで自分なりの仮説も組み立てられる」。

■田端信太郎氏「司馬遼太郎だってビジネス書だ」

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 では、ビジネス書を書く側はどう考えているのだろうか。

 様々なテーマのビジネス書を出版してきた2ちゃんねるの創設者・ひろゆき(西村博之)氏は「僕の場合、年に1、2冊出しているが、出版社に“世の中にこういう形の本を出したらこういう人が買うだろう”という想定があり、そこに当てはまる人として、僕の所に“こういう本を出したい”という依頼がくる。だから聞かれたことに答えているだけで、自分で書くのは基本的に後書きぐらいだ。編集さんの名前よりも僕の名前の方が売れるからということなので、自分で書いたという気分は全くない。僕は野菜を作る農家で、編集さんが料理にして売っているイメージ」と明かし、「ビジネス本の中でも、経営者が“俺はこんなことをやって成功した”というのは自伝だし、“こういう条件なら、こうやればうまくいく”というのは攻略本だ。実は結構ジャンルが違うものが同じ棚に並んでいるということはあるかもしれない」と指摘した。

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 同じく、これまで複数のビジネス書を上梓してきたオンラインサロン「田端大学」塾長の田端信太郎氏も「いわゆるビジネス書らしいビジネス書は最もマーケティング・オリエンテッドに作られているし、ほとんどはゴーストライター、ブックライターが入る。そして、“あくまで僕はこうやってきた”ということでしかないので、“同じようにやったけど上手くいかないじゃないか”と言われても、“そりゃあそうだろう”という感じだし、“自分語りでしかない”と言わればその通りだ」と説明。

 その上で「ただ、一般論として本との出会いは人との出会いなので、先生とか学校とかと同じくらい貴重なものだと思う。今までの人生で出会った中で良い先生だったと思うのは2、3人くらいだろう。ビジネス書も、たくさん読んだ中で1冊でも影響を受けるものがあれば、それで十分ではないか。そして、そもそもビジネス書って何だっけ、という問題もある。ビジネスって人間がやることだから、小説だってビジネス書になり得ると思うし、司馬遼太郎だってビジネス書として読もうと思えば読める。だから僕にとっては『嫌われる勇気』もビジネス書だし、ひろゆきさんが好きだという『銃・病原菌・鉄』もビジネス書かもしれない。いわゆるビジネス書以外のコーナーにも目を向けたほうがいいのではないか」とコメントした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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