コロナ禍でお金に対する価値観にさらなる変化も? 佐々木俊尚氏「フローからストックに回帰するのではないか」
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 若い世代の間で広がる「お金」=「幸せ」ではないという価値観。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方や生活の変化によって、さらに浸透しているのかもしれない。

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 新型コロナウイルスの感染拡大を機に会社を辞めたばかりの田中さん(仮名、23歳)が新しい仕事に選んだのは、話題のUber Eatsの配達員だ。「やっぱ自由なので良いなと。仕事がリモートワークで十分できることがわかり、出社する意味がないということをみんなが知っちゃったと思う。がむしゃらに働くよりも自分の幸福感を求めたほうがいい」。

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 この日は夕方から雨の予報が出ていたので、仕事を早めに切り上げた。稼ぎは3110円。レンタサイクルとスマホがあれば好きな時間に好きな分だけ働けるが、当然、収入は以前と比べて少なくなった。今はYouTubeも本も無料。月に10万円くらいで満足できる。それくらいでいい」。食事は「最低限の栄養が摂れればいい」と、全てコンビニで買って済ませる。家はもちろん、車が欲しいということもない。

 新生活のスタートに合わせて田中さんが入居したのが、先月完成したばかりの賃貸マンション「unito(ユニット)ハウス」(東京・千代田区)。家賃は7万8000円で、共用のトイレやシャワースペース、コインランドリー、簡易コンビニ、テレワークスペースも備わっている。そのため、田中さんのような生活を送る若者たちが次々と入居している。田中さんが寝泊まりする2畳半「プライベートスペース」にはパソコンとタブレットのほか、服が3~4着ほどあるだけ。

 YouTubeを開き、「幸せ、至福のひと時。ゆっくりできる時間だ」と語った田中さん。「今、一番欲しいものは?」と尋ねると、「物とかではなく、やはり時間が欲しい」と答えた。

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 田中さんとは反対に、「お金にこだわる」と話すのが、“日本で一番稼ぐキャバ嬢兼社長”として注目を集める「進撃のノア」さん(25)だ。月収は1200~1300万円で、50万円の家賃のほか、エステ、ファッション、食費など、支出は700万円に達する。また、従業員への労いやお客さんへの贈り物は青天井だ。「月収で1000万くらいないと、心の余裕が出ない。そのお金を何かに使いたいということよりも、相手の立場に立って考えてあげるとか、正しい判断ができるようになるために必要な金額だ」。

 そんな進撃のノアさんも、大阪にあるお店が休業を余儀なくされており、いつもとは違う生活を送るようになったという。「黒服の給料は自分の貯金から出している。自粛で家にいないといけないので、『17 Live』という配信アプリを使って動画配信をしたり、InstagramやYouTubeでの活動に力を入れたりしている。『17 Live』では応援してくれている人からの投げ銭機能があるが、コロナでみんなが大変な中、それでもらったお金を自分の給料にしてしまうのは違うと感じているので、大阪の人たちに寄付をさせてもらったり、何ができるのかを考えたりしている最中」。

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 コロナ禍で参加者が急増しているという「オンライン婚活」の場でも話を聞いてみた。ある参加者の女性(30代)は「昔は“年収いくら”みたいなことを考えていた時期もあったが、誰かの支えになりたい、逆に支えられたい気持ちがすごく強くなった」、別の女性(20代)も「収入はあまり考えてない。大変な時はお互い支えながら働いていこうと思っているので」と、収入にはあまりこだわらないという声が多く聞かれた。さらに別の女性(20代)は「こういう状況になって気づいたのが、今までが豊か過ぎたということ。お金があれば心が豊かになるわけじゃない」と話していた。

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 数年前から東京を含む複数の拠点で生活するというスタイルを実践してきたジャーナリストの佐々木俊尚氏は「振り返ってみると、2008年のリーマンショック、そして2011年の東日本大地震で社会のマインドが大きく変わったと思う。僕自身、贅沢に興味がなくなって、高級レストランへ行くのをやめ、外車を手放した。そして、高級リゾートへ行くのもやめた。高い服も買うのをやめた。親しい友人との食事も、家飲みが増えた。そして映画はNetflixで観て、音楽はSpotifyで聴くとなると、家賃、食費の他、ほとんどお金を使わないんじゃないかなという感じがする。僕は福井県美浜町にも拠点があるが、古民家ならタダのような額で譲り受けられることもあるし、歩いていると近所の人が“おーい佐々木さん、野菜持っていかないか”と畑に連れて行ってくれて白菜をくれたりと、生活にあまりお金がかからない」と話す。

 「ただ、一つ考えなければいけないのは、これは“フロー”のお金の話だ。確かに田中さんのように、お金がなくても楽しい暮らしはできる。リーマンショック、東日本大震災からの流れはそういう感覚だ。しかし、今回のコロナでもう一度マインドが変わるのではないか。それは、手元の資金、“ストック”が安心材料になるということだ。貯金が300万円あれば、とりあえず1年くらいは暮らせることになる。しかし自粛が続く中、“家賃が払えない。食費もない。死んでしまう”と訴えている人がいっぱい出てきているし、大きな売り上げがある会社でも、手持ち資金がないことで資金ショートしてしまう可能性が出てきている。それは個人事業主も同じだ。つまり、フローでもなんとなく生きていけるというところから、再びストックの重要性というところに回帰するのではないか」。

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 加えて、リディラバ代表の安部敏樹氏は「将来的な収入の不安が少ないという状態の中であれば2、300万のストックで大丈夫だと思うが、今の時点で稼いでいるお金と将来稼げるお金、あるいはセーフティネットの話は別だと思う。僕も20代はボランティアをやっていたので、フリーターっぽく生きるということも良く分かるし、意味もあると思う。ただ、長い目で見た時に選択肢が狭まる可能性がある。かつて世間がフリーターを褒め称えていた時代があったが、気づいてみたらロスジェネ世代のように先行きが暗く、選択肢が少ないという状態に陥ってしまった。つまり、自由に生きるという裏側には、社会としてしっかりしたセーフティネットがなければいけない。自由なものだけを取り上げ、“これはいいものだ”と言うだけでなく、そういう社会にしていくのであれば、働けなくなった時、ケガをしてしまった時のサポートについてもセットで議論すべきだと思う」と指摘していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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